5/2 構って欲しい
「ねえ、」
「だめ」
彼の言葉を全て聞く前に私は遮った。彼の腕に抱きしめられているのはハンドル型になっている、テレビの画面を利用するゲーム機だ。隣で彼が私をじっと見つめている気配がするけれど絶対にそちらを見ない。見たら流される。見てはいけない。
ゴールデンウィークの中日。忌まわしい平日である。私は今日も今日とて朝早くに起きて出勤。休みに挟まれた出勤と言うことで、昨日今日は集中力が続かなくて凡ミス続き。散々な二日間だった。対してハルトさんは有給を勝ち取ったらしく掃除をしたり積んでいた本を読んだりしていたりしていたらしい。温存している体力がまず違う。
「ハルトさん、私明日のために体力を温存したいです」
「君ここのところずっとそれ言ってない?」
「四月五月は忙しくて体がしんどいの。とりあえず明日以降なら可。ただし日曜日を除く」
「そんな業務連絡のように言われても」
「未来の私に構ってもらって」
ハルトさんがこのゲーム機で遊び始めたのもつい最近のことだった。聞くところによると、彼のゲーム好きの上司の方がもう使わないから、とくれたものらしい。そう言えば昨年の序盤に売り上げが振るわないから生産終了だと騒がれていたよなあ、としみじみと思う。彼も何となしに貰い受けたらしいけれど、彼も普段はゲームをしないし、かといって私も待ち時間にたまにスマートフォンでパズルゲームをするだけで、貰ってからはクローゼットの奥で埃を被っていた。それをつい一か月ぐらい前に掘り出して、ハードだけでなく何個かソフトもあるから勿体ないし一回ぐらいしてみよう、という甘い気持ちで始めたら、めちゃくちゃ楽しかったというわけだった。
そもそもハルトさん、普段は車の運転うまいはずなのに、このゲームになると逆走をしだすし自爆もするし、意味が分からないほど下手なのだ。本当にわけが分からない。それは彼も同じようでどうしてだろうね?、といつも首を傾げているけれど、逆に彼にとってはそれがとても面白いらしく、こうやって誘ってくる。一人ですれば、と言ったところ二人でした方が楽しいとのこと。難点として、二人ですると楽しいあまりに思わず白熱して何時間もしてしまうので、翌日に支障が出る。あと疲れる。だから私としては渋り気味なのだ。
彼が肩を落とす。そして分かった、と少し落ち込みながらゲーム機をテレビ横の籠の中に入れる。明日以降ね、と釘を刺すように言われて私はとりあえず頷いた。
「二言は無い?」
女だからあるかも、と思ったけどここでごちゃごちゃ言ったら後で何か言われそうなので、男と男の約束ね、と返した。沈黙後、君は女性だろう、と神妙そうな顔で彼に言われた。ごもっともです。
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