5/3 きっと空だって飛べてしまう
車窓からはきらきらと太陽の光を反射する海が見える。真っ白な砂浜と、遠くで海鳥が羽ばたいている姿。朝ということもあって電車の中はそんなに混んではいないけど、私たちと同じように、連休を利用して足を運んでいると思しき人々が多く見受けられた。
「日焼け止めは塗った?」
「もちろん」
「帽子は?」」
「鞄の中に入ってる、たぶん」
隣に座るハルトさんが不安げにそう尋ねる。そんな一度やそこら日焼け止めを塗り忘れても帽子を持ち忘れても大丈夫だよ、と言えば、君はすぐに焼けて痛くなるタイプだろ、と瞬時に返答されて言葉に詰まる。確か去年は全部忘れて痛い目を見たような。痛い目に遭った当の本人ではなく、隣にいたハルトさんがそのことをよく覚えているのも不思議な話だ。
独特な口調で、次はなになに駅、とアナウンスが流れる。徐々に電車の速度が下がって、重力がのしかかる。身体が横に押し倒されて、それが一通り済むとぷしゅっとドアが開く音。私たちは互いに目を合わせて、さあ行こうと席を立つ。
「――すごい、磯のにおいがする!」
駅は海のすぐ近くにある。いつもは無人駅で乗り降りする人は少ないけれど、夏やこうした休日には、海水浴客や釣り人で賑わうらしい。私たちと同じようにこの駅を降りた人たちの流れに乗って改札口へと向かった。
駅の外に出れば、堤防の先に砂浜と海が広がる。このまま海に行って足で水遊びをするのも捨てがたいけど、着いてまず最初にすることは既に決まっている。
「左と右とどっちに向かうと着くんだっけ?」
「右」
もしかして方向音痴?、と彼から尋ねられ、最終的には目的地に着くよ、と答える。それは方向音痴って言うんじゃないかな、と彼がぼそりと呟くのも気にしない。
「ねえハルトさん、堤防の上、上ってもいい?」
「落ちないならね」
「ちゃんと手握ってくれるでしょ?」
段差がある場所から上に上った。海風が強く吹き抜ける。ハルトさんが随分と小さく感じられる。遠くまで見渡せる海。水平線のきわに小さな船が見えた。
彼が私の手をしっかりと握っている。私はバランスを取りながらゆっくりと歩み出した。
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