3/14 ホワイトデー

 むっとテーブルの上を見る。テーブルの上に散らばっているのは、可愛らしいラッピングが施された小包たち。私も半分ぐらいお手伝いしていたし、その分量に驚いたけれど、改めてその全貌を見ると、流石ハルトさんだなあと少し誇らしくもあり、だけど私だっているのに、とちょっと嫉妬してしまうし、と複雑な気分だ。一番はバレンタインにこんなに貰ったのかあ、と呆れの気持ちが最初に来るのだけれど。大きめの紙袋を用意したけど、全部入りきるかな。
「ハルトさんほんと大人気……」
「君以外に人気でも全然うれしくないけどね……」
 隣にいる彼はそれらを少しげんなりとした表情で眺めている。ハルトさんはそれを準備した紙袋に無造作に詰め入れながら、これ渡さなきゃいけないのか……、とまるで世界が終わったかのような表情で呟いた。
「んー、でもちょっと妬けるなあ」
「こんなにお返しがあることに?」
「うん。だってハルトさんは私のなのに、他の人からの好きがこんなにたくさん」
「その言葉は、先月のバレンタインデーの準備をしていた君にもお返しします」
 私がうっ、と言葉を詰まらせると、彼が少し困ったように笑った。上司には社交辞令的に、先輩方にも後輩の子たちもみんな持ってくるから、一人だけ持ってこないのも申し訳ないのだ。そのことを彼は重々承知しているし、私だってこうやって彼がお返しで頭を痛くしているのも分かっているのだけれど。
「バレンタインデーの時、本当はすごく嫉妬したんだ。大きさはどうであれ、君の好きが詰まったものが他の人に渡されるんだなあ、って」
「ハルトさんには特別なのあげたけどね?」
「君のことに関しては、とても嫉妬深くなってしまうんだよ」
 なんとか全部入った、と彼が息を吐き出した。バレンタインの時に、作ったパウンドケーキを詰め入れている中で妙にむすっとした顔で向かいに座って眺めていたのはこれだったのか、と私はそれを思い出して笑ってしまう。その頬杖をつきながら眺めていた彼の姿が、不機嫌そうに尻尾を床に打ち付ける猫のようにも見えたことは心の奥底にしまっておこう。
 それじゃあ行って来るね、と彼が紙袋と鞄とを手に持つ。いつもは空いている方の腕で軽く抱きしめてくれるのだけれど、今日は両腕が塞がっていてそれができない。それに彼がいつものように抱きしめようとした時に気が付いて、あっ、と残念そうに声が漏れる。私は抜けているところもかわいいなあ、なんて思いながら彼の胸元に飛びつく。ぎゅっと後ろに腕を回して、気を付けていってらっしゃい、と耳元で言った。彼は私の首筋に頭を埋めながら、今日の夜は楽しみにしててね、と囁いた。それがあまりにも含みのある言い草だったので、私が返答をあぐねていると、彼はホワイトデーのお返しという意味で!、と慌てたように付け足す。もちろん君が良いなら、そう言う意味でも、と耳の近くで甘く囁くものだから朝から心臓に悪い。後者の方は結構です、と言えば残念、と本当に残念そうな声音で言うので本当に彼には敵わない。

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