「お、犠牲者出たな」
「あー、あれターナーの悲鳴だな」
寮の得点を記録する砂時計の前にて。ラバスタンとエイブリーは聞こえてきた悲鳴に歩みを止める。断末魔のようなそれは痛々しく、そしてこの学校の日常のひとつでもあった。
「またリゲルか」
「リゲルしかいねぇだろ」
「流石に同情するわ」
「不満たまってたんだろーな」
それは昨日の夜のこと。
最初こそは『お綺麗なブラック家長女』を演じ、穏やかな微笑みを湛えていたリゲルだったが、組分けの─弟の一件で質問攻めに遭い、ついに爆発して側にいた一年生のズボンを引きずり下ろしたのだった。不幸な一年生の名前は確かスネイプだったか。
慄く後輩たちにリゲルはそれはそれは上品に笑って、「明日から狩るから」とだけ告げ自室に帰ってしまった。
「大方長男坊に挨拶でもしにいったついでだろうよ」
「じゃあターナー含め二人は被害者が出たわけだ」
「そしてお前が三人目だ!」
二人はその声がした瞬間、ズボンを思いっきり持ち上げた。
「あっ、もう、何だ…上手くいくと思ったのに」
「一年もありゃ学ぶよ」
満足げに振り返るその視線の先に、少し髪が乱れたリゲルがいた。頬を膨らませてから溜息をつき、そのままにこりと微笑む。
「久しぶりお二人さん」
「朝から元気だなリゲル、またターナーか?」
「お前ターナーのこと好きなのか?」
「は?ふざけんなよピチピチボクサー野郎」
「…!」
「図星かよエイブリー!」
「ちょ、ちょっときついだけだし!ピチピチじゃねぇしゅ!」
「うるさいピチピチボクサー」
「噛むなよピチブリー」
「うるせぇ!黙れ!もう最悪だよ!」
ぎゃいぎゃい騒ぐ三人の横を、不思議そうな目で通り過ぎる新入生たち。じきに彼らは知るだろう。この女に関わって、いいことなど何一つないと。
「あら、おはようございますリゲル。お久しぶりですね」
つんとした声がした。正面に顔を向けると、長いブロンドの髪を束ねた美少女が仁王立ちしていた。セレスティア・カルヴァート。良家の出のお嬢様。リゲルの顔がにたりと歪む。ひっ、と小さな悲鳴をあげて、少年二人は一歩退いた。
「夏休みの間はいかがお過ごしで?」
「うちに篭るかパーティかどっちか。セーレは?」
「わたくしも似たようなものですわ。それにしても…」
目がすっと細められる。美人が怒ると怖いというが、セレスティアはまさにその典型だった。気が強くないとお嬢様の役目はこなせないのだろう。スリザリンの少女たちはみな彼女とさして変わらない。
「新学期早々はしたないのね。休みが明ければ少しはましになるかと思っていたのだけれど。ブラックの血が泣くわ」
「大丈夫大丈夫、私、やるときはやる女だよ」
「…ブラックはどうなっているのかしら。名家の栄光は過去のものということ?」
「いやまぁー、あはは」
ちくちくと針を刺すように話すセーレと、曖昧に笑うリゲル。あたりに吹雪くブリザードの幻想が、少年たちの瞳に映る。
「とにかく。これ以上スリザリンの名を落とさないこと。貴方一人が私たち全員に迷惑をかけているのよ」
「できるだけ頑張るよ」
「できるだけじゃなくて!」
「そんなことよりセーレ」
リゲルの口角がつり上がる。
「その下着新しいのだね?いつ買ったの?可愛いよ、ラベンダーの花柄!」
「言ったそばから!!許しません!」
茹で蛸のようになる少女の横を、リゲルはすり抜けかけていく。
「カルヴァート、ラベンダーなのか」
「…アリだな」
その後ろに取り残された二人は、狼藉者がくれた恩恵に浸りながら後を追った。
‐‐‐
セレスティア・カルヴァート
スリザリン二年。
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情交と街