
おんなの心というものはひどくおそろしいものなのです。わたくしはそれを知っておりました。柔らかい手で握りしめ、ほほえみあった相手をつぎの日にはあざけり蹴落とすような生き物。それがおんなというものです。毒をはらみ、熱をはらみ、ひとのこころを吸って生きるものにうまれついたこと。それが定める行く末を嫌というほど理解していたからこそ、わたくしはわが子を呪うことにいたしました。
わたくしは呪術師の家のうまれでした。ひとを呪い、ひとから生まれたものを呪う家にうまれた女がいかような人生を送るか。術師でないひとを婿に迎え、家を長らえることだけに身を費やすほうが術師として生きる何倍も良い。そうかんがえて、そういたしました。
夫との間にうまれた子は女の子でした。珠のような子。心を込めて、花から音を取りました。願うらくはこの子のさいわいで、そのひとつだけ。なればこそこのうつくしい子にも、わたくしと同じわだちをゆくことが幸福なのだとそう思いました。
でももし。
この子が術式を振るうようになれば。
それは不幸だと思ったのです。
只人よりもきっと麗しく育つであろうこの子が、その只人のために命を捧ぐなどということ。その果てに命をすり減らすなどということがあったとしたら。ええ、誰かのためにいのちを擲つことはとても気高く素晴らしい。けれどそんな無残なことを、こどもに望む親がいるでしょうか。嗚呼、歪であろうとも構わなかった。わたくしはこの子に幸せになって欲しい、心身ともにみたされているさまで。愛は呪いです。わかっております。でも、知らぬ誰かに呪われるくらいなら、肉親の、愛に呪われる方がまだましでしょう。
ねえ。
ひとを呼びました。この試みはともするとどこかで成されたことなのかもしれません。わたくしの愛を介するひと、そしてひとを呪えるひと、ひと、ひと。言葉すらもわからない子をおいて、ただ皆で祈りまじないました。力をもたずともよい、もし存在しうるならそれは、この子のいのちが永らえるために、糧としてついえるように。
ねえ。
ねえ。
いとしいこ。
力なんて、なくとも良いの。誰かのために笑って、それだけでいい。誰かとともにあることをさいわいと、そう思えばいいの。だってそうでしょう。ねえ。ほんとうに強いひとはどこにだっている。あなたに力は必要ない。自分がよくあれるところで、よくあれば良い。きっとこの先あなたは母ののぞむ生き方を拒むでしょう。己にかけられた呪いを知ったときに、あなたは母を呪い返すでしょう。
良いの、それでも。
そのために、わたくしはあなたを呪うのよ。
あなたの望みだけでは到底、こえられないようなものを。人の手で与える呪いの束縛を。
優生思想、それもよし。
非道の謗りを受けようとも。
ねえ。
あなた、これを愛というのよ。こんなものをこそ、ひとは愛と呼んだのよ。
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情交と街