「あ、お帰りなさい辰也さん」
「ただいま、レイ」

寮の自室の戸を開けば、つい最近住み憑いた幽霊、レイが出迎えてくれる。相変わらず半透明で、少し色褪せた彼女の姿は、昔の映画を見ているよう。

「今日も部活ですか?」
「うん。冬に大会があるんだ。レギュラーを貰ってるからね、頑張らないと」
「あれ?少し前にもあったんじゃ…」
「それはインターハイ。今度はウインターカップ。オレはインターハイは出てないから、ここに来て初めての大会なんだ」
「インターハイはどうして出なかったんですか?」
「その時はまだアメリカにいたからね」

荷物を置いて、制服のセーターを脱ぐ。レイはオレの横でふわふわ浮きながら何やら考え込んでいる。

「どうしたの?」
「帰国子女さんだったんですね」
「うん」
「道理で英語がお上手なわけです」
「Thank you」
「綺麗な発音…」
「そうでもないさ」
「…知らないことばかりです。貴方のことも、私自身も」

記憶の無いレイ。そのレイという名前ですら本名じゃない。彼女の『本当』は、どこにあるのだろうか?きっとそれは彼女が一番探しているものだろう。
暗い顔のレイ。ああそんな顔をしないでよ。
オレが頬に触れると、レイの肌が色づく。

「ゆっくりでいいんじゃないか?」
「…え?」
「ゆっくり知っていけばいい。急がなくていいんだ、レイ」
「…ふふ、ありがとうございます」

微笑んでオレの手に手を重ねるレイ。よかった、元気になったみたいだ。

「今から着替えるけど、見る?」
「見ません!はれんち!」

壁を通り抜けるレイ。どうやら彼女が初心だということは『本当』だったようだ。


***


「レイ」
「はい、何でしょう」

からかったから拗ねているかと思えば、そうでも無いらしい。ふよふよ浮くレイがこちらに来る。

「聞きたいんだけど、たまにいない時、あれどこに行ってるの?」
「だいたい寮の外にいますよ。幽霊ですから、瞬間移動出来るんです。例えば」

そう言うとレイの姿が薄れて消える。その直後、ベランダの外から声がした。カーテンを開けるとレイが笑顔で浮いていた。

「どうですか?幽霊の特権です」
「羨ましいのか何なのか…凄いね」
「お二人がお休みになった後は、このベランダから空を見ているんです」
「寝なくていいのかい?」
「幽霊ですから、寝なくても大丈夫です。明けていく空がとても綺麗なんです」

ガラスをすり抜けるレイ。嬉しそうに話すものだと思った。

「オレも徹夜してみようかな」
「駄目ですよ、運動部の方なんですから」
「Only kidding、分かってるよ」
「今のどういう意味ですか?」
「さあね」
「意地悪しないでくださいよ」

ぷく、と膨れるレイ。可愛いなんて思って、幽霊相手にそんなことを考える自分を心で笑った。

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情交と街