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兵部のテレポートにより、2人は緑の原っぱが広がる都内の公園に来ていた。

原っぱの上を、小さい子供たちが駆け回る。しばらくしてポテっと転び、自力で立ち上がってまた走り出す子もいれば、そのまま泣いて母親に抱きあげられる子もいた。
平和な景色の前に、2人はベンチに腰掛ける。


「はい、これ。」
「ありがとうございます…」


近くの自販機で買ってきた飲み物を受け取る。瀬名は先ほどの件も相まって、恐る恐る兵部を見た。


「あの、兵部さん…どうして私を助けてくれたんですか…」
「敬語はよしてくれ、もっとフランクでいいよ。
あと…それはまぁ、同じ"仲間"だから助けたかったんだよ」
「仲間…」


瀬名は兵部から、高レベルの複合能力者である事、パンドラという組織の運営に深く関わっている事を聞いた。


(パンドラ…名前だけ聞いたことある、犯罪行為もしているエスパー集団だ…)


「もしまた困ったことがあればいつでも言って。そして僕たちパンドラはいつでも新しい仲間を歓迎するよ」
「もしかして、勧誘も兼ねて助けてくれたの?」
「いいや、それだけじゃないさ。
まぁ、来てくれたら嬉しいのは本音だよ」


ただ超能力で自由に暮らす。
自由と生活と仲間のエスパーを守る為、エスパーの未来のためにある組織さ、と言う兵部。

瀬名は兵部と同じように青空を見た後、後ろめたさがあって目を伏せた。


(組織に身を置く方が安全性は保証されるけど…それはわかってる、
でも、もしまたあんな事があったら…)


テレレレレンッ
テレレレレンッ


遠い昔を思い出そうとした瀬名のスマホが鳴る。
これはメールではなく、着信の音だ。


「出ていいよ、気にしなくていい」
「ありがとうございます。
もしもし?」


画面には悠太の文字。
いつもと同じように電話に出たが、

「フフフフ…」

電話口は悠太ではない男が笑っている。
瀬名の顔が強ばり警戒している様子に、兵部も慎重に耳を立てた。


「…どなたですか?」
「我々はどこにでもいる、と言えばわかるかな?」
「普通の人々か…」
「この電話の持ち主は今どうしていますか。そこにいるんですか?」
「出雲悠太はこちらで預からせてもらった!助けたくば、今から言う場所に来るがいい結城瀬名!」


普通の人々…エスパー追放を目的とする組織だ。至る所に普通人の支持者がおり、エスパーを排除する為には犯罪行為も行う。
その組織に、悠太が捕まってしまったというのだ。
悠太が簡単に捕まってしまうのか疑問ではあるが、彼のスマホが奴らの手に渡っていることが、ある意味証明しているようなものだった。

電話口で言われた住所をメモし、電話が終わり次第すぐに地図で調べた、


「そんなに遠くはない、か」
「いきなきゃ…悠太を助けなきゃ…!」


大事な人が誘拐された。
そしてその犯人は、エスパーの排除を掲げる集団だ。
今まで時間に巻き込まれないよう、誰の迷惑にもならないようひっそりと生きてきたのに、どうして。

瀬名は、悠太の安否が気になり激しく動揺する。
今までの落ち着いた態度からは想像できない様子に、兵部は驚きながらもそっと瀬名の肩に手を置いた。


「落ち着いて。僕も一緒に行くから。今の君を放ってはおけない」
「兵部さん…、ありがとう」

ハッと我に帰る瀬名。一呼吸整えてから、兵部をまっすぐ見つめ、頷く。
2人は悠太が捕らえられている場所へ向かった。


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