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「これしかないようだね」


2人がようやく辿り着いたのは錆びれたエレベーターだった。それも元々は貨物用で、この建物へ来た客人を乗せる専用ではないらしい。

深く沈むボタンを押すと、ベルが鳴りドアが開く。乗り込み、最下層の地下3階のボタンを押した。古いエレベーターは大袈裟に音を立て、ゆっくり動いている。


「…瀬名?」


ふと、兵部が瀬名に声をかけた。少し苦しそうな呼吸が聞こえてきたからだ。
瀬名は軽くこめかみを抑えながら答える。


「なんか…頭が痛くて、ちょっと怠いような感じがして、」
「どれ…」


軽く指先で瀬名の頭に触れ、接触感応能力で診る。
風邪のような症状が瀬名には出ているようだった。

(しかし急に…?過度なストレスか?)

「元々風邪はひいてた?」
「いえ、その兆候は分からなかったです…」


瀬名自体のプロテクトもあるが、調べられる範囲で調べるか、と兵部が考えた時だった。

ガタガタッ!!

大きな音と振動。エレベーターが目的の地下3階に到着したようだ。

ベルの音と共にドアが開く。通路の先にドアがあり、微かに開いていて隙間から光が漏れ出している。
瀬名と兵部は目を合わせドア裏に沿うように立つ。呼吸を合わせ、ドアを勢いよく開け瀬名が駆け込んだ。
ざっと30人ほど見えた人影を一気に制圧するつもりだった。パワーを集中させ、爆発を起こし混乱に乗じて全員を戦闘不能に…


「?!」
「まんまとひっかかったな!バカめ!」
「瀬名!」


超能力がうまく発動しなかった。部屋の中央には巨大なECM。丸腰で乗り込んだ状態となった瀬名に、普通の人々は一斉に銃を向け発泡する。
兵部は瀬名を先に突入させたことに後悔しつつ、咄嗟に肩を引いてシールドを張った。


「やったか?!」
「…普通の超能力者相手なら、今頃蜂の巣だろうな」
「な?!」
「G並の生命力かこいつらは?!」


兵部のシールドのおかげで、二人は無傷だ。
確かに普通の超能力者であれば、ECMの影響で超能力が出せず命を落としていただろう。
兵部が持っているという小型ECCMのおかげで防ぐことができた。


(あのECMでも、君の力なら完全無効化まではいかないはずだ!まさか熱の影響が…?)
(もしかしたらそうかも…それかよほどあのECMが強力なのか、)


「どうした?うまく力が出せないだろう!」
「この盗んだ新作ECMの効き目は一応あるようだな!」


テレパシーで会話していた2人に普通の人々が言う。
当人たちのいう通り例え新作のECMであろうと、超度7の瀬名を完全に無力化するのは不可能なはずだが、油断ならない。
兵部は持っていた小型ECCMをテレポートで瀬名の服のポケットに忍ばす。

(!でも…)
(まだ持ってるから大丈夫だ。雑魚は僕が引き受けよう、早く出雲を連れて離脱しろ!)

アクセサリーかキーホルダーのような見た目のものだろうか。
ポケットの中にある小型ECCMの存在があってから、瀬名は超能力が発動したことに気づいた。

瀬名は瞬間移動で一旦天井付近の高さまで移動する。巨大なECMに目を奪われるが、この部屋のどこかに悠太が囚われているはずなのだ。


「てーーーい!!!」
「あだ?!?」


瀬名に向かって普通の人々が銃を向けてくるから、つかさず兵部が戦闘不能にしていく。
それを確認してから集中した時、ECMの裏の裏口から縄で拘束されたまま外に運び出しれそうな悠太を視認した。


「待ちなさい!」
「な、なんで効かなくなってんのよー!!」
「いいから、悠太を返して!!」


瞬間移動して距離を詰めた。ECMが効かないことに驚くおばさんの普通の人々は銃を人質の悠太に向けるか瀬名に向けるか、交互に悩んで慌てていた。
瀬名が悠太を取り返そうとした時だった。


「止まれ、結城瀬名」


背中に強く銃口を当てられる。
そこにはスーツにジャケットを羽織った男性の普通の人々がいた。
男の存在におばさんは迷っていた銃口を悠太に向ける。


「あなたが引き金を引くのと、私が回避してあなたを殺すの…どちらが早いと思う?」
「いつまでそうやって強がってられるかな?
そろそろだ。膝の―――」
「…ッ!」


音が膝の、と言ったときだった。
瀬名が銃弾を受けた膝に強烈な痛みが走り、膝から崩れ落ちる。
そしてカーッと身体が熱くなるのを感じた。先ほどの頭痛が強さを増す。まるで風邪をひいているように。


「先ほどお前が受けた銃弾、面白いものだったろう?あれは超能力者の身体を蝕むだけではない。ウイルスを仕込み植え付けたのだ!」

バンッ
「ぐっ…!」
「悠太!」


男が悠太に向けて発泡した。
強力な睡眠薬を飲まされているのか、足を撃たれた悠太は声を上げるが目覚めはしない。
瀬名はきつく男を睨むが、高熱でフラフラしており、反撃しようともうまく立ち上がることすらできない。
銃口は悠太から瀬名へ向けられる。


「思ったより効果があったな。このまま2人とも始末してやる!」
「瀬名!」


兵部が現れた時、引き金は引かれた。
銃弾が瀬名に向かって放たれる。
瀬名は瞬きし涙を一筋流す間、全ての時間がゆっくり流れるように感じた。それはまるで走馬灯を体験しているように。

(どうして、私たちはいつもこんな目にあうの)
(どうして、私たちは何もかも奪われてしまうの)
(どうして、私たちは)


「幸せに、なれないの?」




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