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瀬名の呟きが聞こえた人間がいただろうか。
放たれた銃弾は涙を流した瀬名の目の前で破裂し塵となって消えた。

それに一番驚いたのは兵部だ。

(まだECMが発動している中で、瀬名にとっては無理なはずだ…)

ハッとして男から銃を奪い、足を撃って身動きを封じる。


「グウ、貴様卑怯な…!!」
「超能力者が武器を使わないと思ったか?」


無駄な抵抗をさせないよう、兵部は銃口を男に向けたまま瀬名を見る。
ゆらりと立ち上がる瀬名の髪は、風など吹いていないのに揺れている。
彼女の周りにあるものは重力に逆らい浮いていた。


「まさか、暴走か?!」


瀬名ゆらりと顔を上げた時、瀬名の目は赤く光っていた。

次の瞬間、あたりは爆発と共に爆風に包まれた。


「何?!何なのよ!!イヤー!!」

悠太を人質にとっていたおばさんは、予報外の出来事にパニックを起こしていた。


「ば、化け物…!!!し、死ね!」


手をガクガクと震わせながら銃を撃つ。
乱雑に撃たれた弾丸は無関係の床に埋まるか、おそらく無意識だろうが瀬名のはったシールドに弾かれる。
そのうちの一つが流れ、悠太に当たってしまった。


「あ゛ぁっ!!」
「!!」


悠太の苦しそうな声に瀬名が反応する。振り返り、悠太の方を見た。


「悠太、?」
「ヒイィ、あたしゃもう無理だぁぁ!!!」

手を伸ばしゆらりゆらりと近づいてくる瀬名に、おばさんは恐ろしくなり悠太をその場に置いて1人裏の出口の向こうへ走って逃げていった。


よほど強い睡眠薬を飲まされたのか、悠太は未だ目を覚ます事なくその場に倒れる。

瀬名は暴走しており、正しい理性と判断力を失ったまま、虚な様子でゆっくりと悠太へ近づいていく。


「どちらか片方で、いい…ッ!!」


そのとき、男は胸ポケットから出した小型のスイッチを押した。
巨大な爆発が起きる。
それは普通の人々がこのフロアに仕掛けた爆弾だった。
最終的には、このフロアに誘き寄せた瀬名と捉えた悠太を閉じ込め、爆発で始末するつもりだったのだろう。

一番ECMの近くにいた兵部は、爆発に巻き込まれないようテレポートで回避する。
だがそのせいで瀬名から距離が離れてしまった。
瀬名はやはり無意識にシールドを張っている。

男はスイッチだけでなく、同時に銃も取り出していた。

瀬名が悠太にたどり着く刹那、銃弾は悠太へあたる。


「ぐあっ!」
「、!!」


激しく吐血した悠太を見て、瀬名は暴走しながらも動揺のような様子を見せた。
一瞬、無意識で張っていたシールドが点滅する様に消えた瞬間、男は瀬名にも向けて発砲した。


「が、っ」


瀬名の背にそれは2発命中した。
瀬名は吐血し、悠太に倒れ込む。


「瀬名!!」


兵部が瀬名の元へ駆けつけようとしたが、瞬時に瀬名は念動力で起き上がり、同時に発砲してきた男の腕をへし折った。


「ぎゃあぁぁあ!!!!」
「…どうして、どうして…私は…悠太は…」


瞬間移動で男の前に現れた瀬名は、男に手を翳し首に圧力をかけていく。
目は赤いまま、高熱で意識は朦朧としているのは変わらずだった。
ただ自分たちに危害を与える目の前の男を始末する為に動いている。


「幸せになっちゃ、いけないの…?」
「瀬名、しっかりしろ!!」


兵部が瞬間移動で瀬名の目の前に現れる。ECCMとは別に持っていたのだろうか、今度は別のキーホルダーの形をしたものをいくつも瀬名の体にあてがった。


「こんな愚かな連中の為に、君が手を汚す必要なんてないんだ。落ち着きなさい…!」


兵部が瀬名に当てたのはECMだ。ポケットの中にあっつECCMはもう、暴走状態の彼女には不要となっていたが念のためそれは効果の範囲外に投げ捨てる。
瀬名の顔に直接触れ、応急処置の止血をしながら目を合わせ、催眠をかけ続けた。


「落ち着け瀬名、君は幸せになっていい。僕がそれを許そう、僕が君の幸せを守るから。
戻っておいで、瀬名」


虚な瀬名の目に光が戻る。
男の首を絞めていた念動力が、男が死ぬ前に弱まった。


「兵部、さん」
「何も考えなくていい、今はお眠り」


瀬名の額に兵部の唇が落ちる。
兵部の催眠能力なのか、疲労によるものなのか。瀬名はそのままゆっくり目を閉じ兵部の腕の中に倒れ込んだ。

瀬名と悠太の出血量はとても多い。
兵部は普通の人々の後片付けよりも、2人の手当を優先する為、2人を連れてその場を後にした。



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