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「…ここは…」


瀬名が目を覚ますと、そこは知らない天井だった。
左を見て、広いホテルのような広い部屋であることがわかる。右側に目をやると兵部か本を読んでいて、目を覚ました瀬名の視線に気づくと本をパタンと閉じた。


「お目覚めかな、お姫様」
「お姫様…なんて柄ではないけれど、まぁ…」


全身が痛かった。額や体の違和感は、傷と包帯やガーゼなどだろうか。動かそうにも全身に痛みがあり、とても起き上がれそうになかった。


「無理はしちゃダメだよ。奴らに仕込まれたウイルスで風邪の状態になり、超能力が暴走したんだ。その上で銃弾を受けて出血…身体は悲鳴をあげてるはずだぞ」
「私、途中から覚えが…、!それより悠太は!」


そう、そもそも悠太を助けに行ったはずだ。
そんな彼もかなりの怪我をしているはずだ。安否が気になった瀬名が強く声を出すと、力んだせいで体のあちこちの傷が痛み、耐えるように奥歯を噛み締める。


「悠太は隣の部屋さ。瀬名より先に目を覚ましたけど、治療に専念するためゆっくり眠るように伝えた。かなり警戒されたけどね」


元々人見知りの上、警戒心が強い悠太が初対面の兵部にどのように反応するか、瀬名には容易に想像がつく。だが大人しく今も治療に専念しているということは、一応ここで世話になることに納得はしているのだろう。
もっとも断ったとして、先日病院で失態をおかした瀬名はバベルに目をつけられているだろうし、2人とも大きな傷を負っていて手も足も出ない。
パンドラからの支援は願ったり叶ったりだ。

(それに…どんな組織なのか、気になる)


「それと…一つ瀬名に謝りたいことがある」
「?」
「こんなに怪我を負わせてすまない。君の実力を見てみたくて、あまり手出ししないようにしていたんだ」
「いえ…そもそも私が自分から先陣を切りたいとも言いましたし、兵部さんはそれを叶えてくれただけですよ。治療までしてもらって、お礼を言わなくちゃ」


ありがとうございます、と瀬名はベッドの中で静かにお礼をいう。穏やかな表情だ。


「いや…それで、今後の事だが2人はしばらくうちにいるといい。怪我が治るまででもいつまででも、好きなだけね。
組織内でも通達してある、何かあれば声をかけてくれ」
「それはありがたいけども…ご迷惑じゃないですか?」
「迷惑だなんて。僕たちは超能力者の保護も活動として行っている、その一環でもあるんだよ。気にしなくていい」
「…ありがとう、兵部さん」


じゃ、と手を振ると兵部は瞬間移動で瀬名のいる部屋から姿を消した。
先程兵部が指で差した方の壁を見る。その向こうに悠太がいるのだろう。


(今だけは…甘えても、いいかな…)


寝返りを打つにも激痛が走り、瀬名はそのまま仰向けでいることにした。
こんな状態で自分たちの家に戻るなど到底無理だ。
それに兵部からの支援は確かにありがたい。
せめて、怪我が治るまでだけでも世話になろうと思う瀬名だった。


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