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時は戻り、検査室から飛び出した瀬名が皆本にぶつかった後。
瀬名を追いかけた賢木は、合流した皆本と彼女の話をしていた。


「よく聞け皆本、チルドレンの他にも国内に超度7のエスパーがいたんだ…!」
「な、何だって…?!」


日本に存在する超度7は、公式にはザ・チルドレンの3人だけだとされていた。
チルドレンより年上の超度7。今まで見つからなかった方が不思議である。
あるいは今まで日本にいなかったか、厳重に隠して生活していたか―――。

「賢木…今日の検査の記録は残ってるんだよな?」
「あ、あぁもちろんだ。それがなんだ?」
「いや―― 何か調べられるかなと。もし今までの来院記録やらなんやらがあれば、色々見てみたいんだが」
「分かった、そういうことなら調べておくぜ。お前はとりあえず、ガキンチョたちのところへ早く戻った方がいいぞ〜」


背中に突き刺さる嫌な視線に、賢木は冷や汗をかきながら皆本にそう忠告してその場を駆け足で去る。

チルドレンが待機しているであろう病室を見ると、ドア越しに半分顔を出してのぞいている3人がこちらを強く睨んでいた。


「み〜な〜も〜と〜!!!!」
「オアァ?!?」


待ちきれないと言った様子で、薫が念動力で皆本を身体ごと手繰り寄せる。廊下をスライドする形で皆本は引きずられ、チルドレンの待つ病室へ到着した。


「皆本はん、遅い!」
「任務後の検査、早くしてちょうだい!早く帰ってシャワー浴びたいの」
「バベルのやつをしゅーり中だからって、よその病院にきたと思ったら人いっぱいじゃん!」

「わかったから!今日は特に検査希望者が多いらしくて、僕もそれは知らなかったんだよ」

「でも珍しいのね、バベルの事だからこんな真っ昼間じゃなくて夜中とかにメンテナンスしてると思ったわ」

まだ腹の虫が収まらない薫へ、紫穂は自分が食べていたチョコプレッツェルのお菓子を渡す。ひとまずは薫と葵で食べて落ち着いたようだ。
その間に、疑問に思ったことを皆本へ伝える。


「僕も驚いたよ、柏木さん曰く本当に珍しい事だそうだね」
「―――誰かの仕業ってことはない?わざわざ私たちをこの病院に来させる為に、わざと、――」
「普通の人々とかパンドラとか、色々やりかねない連中はいるしなぁ。まぁただ侵入された痕跡はなかったと聞いてるよ。きっとたまたまさ」


それに、この病院で何か事件を起こすためだとしても、予知課で予知が出ているわけでもない。
きっと考えすぎだ、と皆本は紫穂を落ち着かせるように、そっと頭を撫でた。


「…!そう、かもね。ごめんなさい!少し考えすぎだったみたい」
「いやいいんだ。君たちエスパーには本能で感じるものがある、何か気になることがあればいつでも相談してくれ」
「じゃあ皆本〜!さっそくだけど…どのパンツがいいか、相談乗ってくれるよなッ!」


話を中途半端に聞いていた薫が、いきなり雑誌を皆本に投げつける。頭にぶつかった雑誌がずるりとずれ込み、ページが開かれたまま床にバシン!と落ちた。


「な、なんだこれはーー!!!」
「もちろん、あたしの!!勝負下着…」


語尾にハートをつけるような、恥じらいを持った甘い声で言う薫。
雑誌の開かれたページには、レースの下着がいくつも掲載されていた。


「勝負下着なんぞ……まだいらんわー!!!!」


今日も薫のオヤジは健在であった。




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mokujiclegateau