マジック・ガールズ-1
「ここが…———当行の地下金庫室でございます」
某日。ザ・チルドレン一向は、某都市銀行の本店に訪れていた。
担当者や警備員とともに入った金庫室には、大量の札束と貴重品が並び、電気の反射でさらに輝いて見える。
「たっ…宝の山やん?!」
「これだけあれば人間の心も買える?!」
「あさましいテンションの上げ方すんなっ!仕事で来てんだぞ!!」
初めて見る光景に、葵と薫は興奮気味だ。その後ろで紫穂と天理は静かに周りを見渡す。
今回チルドレンがやってきたのは、バベル本部の予知がきっかけだ。
30分以内にエスパー犯罪者がこの地下金庫室を襲う可能性があるとのこと。
「遊んでいるヒマはないぞ!!って…遊ぶなーーー!!!」
言っているそばから、金庫室にあるものをあれこれ触って遊ぶチルドレンたち。
薫は金塊をジャグリングのように投げ、葵は札束の中から数枚を瞬間移動で抜き取り、紫穂は宝石だらけの王冠を透視して遊び、
天理はそれを眺めながら「そろそろやめなよ〜」とどこか他人事のように面白がって見ている。
そして少しだけ、床を気にするように視線を向けたが、それには誰にも気づかなかった。
「いや、大丈夫です!!こう見えてこいつら仕事だけはきちんと——」
「いや、そうではありません」
その様子を前に、なんとか銀行員にフォローしようと焦る皆本。
全く動揺していない銀行員が、手元で何やら機械を操作すると、天井からECMが出現した。
それが作動した途端、チルドレンの超能力が消える。
「だっ!?」
ゴン、と嫌な音が響いた。
ジャグリングしていた薫の頭に、金塊が重たい音を立てて落下した。
「うわっ」と思わず目を閉じてしまった天理だが、すぐに目を開ける。
そこでふと、薫の思考が聞こえないことに気づいて、小首をかしげた。
ほぼ同じタイミングで、葵も紫穂も、使っていた超能力が無効になったことに気付く。
「当行の警備は世界的にもトップクラスです。ESP対策も万全ですよ」
「ECMですね。しかし、敵がECCMを持っている可能性も——」
「ムダですな。そもそも中に入れんのですから。
この地下金庫は全ての壁面が特殊電磁素材でおおわれています」
得意げに銀行員が仕組みを説明する。
厚さ2メートルのその特殊電磁素材を突破できるエスパーはいない、と豪語した。
しかしバベルの予知では80%の確率で発生するとされている。
銀行員は、防ごうとして予知を実現してしまう事象を指摘し、「万一の場合は責任をとっていただきますよ」とチルドレンを横目に見て言った。
「たしかに超能力対策はすごいけど…」
「向こうがチームできたらわからへんで」
「何?」
「何人かで協力すれば方法はあるかもしれないってこと」
「例えば…素材を変えちゃうとか、ね」
紫穂、葵、薫が続いて言う。エスパーのプライドにかけて、そんな思いがありそうな反論だった。
天理だけは、何か具体的な能力と人物を想像しているような口ぶりである。
「ありえませんな。それには、よほどの高超度エスパーを集めた犯罪組織が必要———」
銀行員がまた自信ありげに言いかけたときだった。
どこから遠くから、声が聞こえる。
それは足元からだんだんと近づいてきていた。
「ビーッグ…マグナァアーーーーーームッ!!」
「よいしょーーーっ!!」
それがはっきりと聞こえたとき、床の材質が変わり、男と少女…マッスルと澪が現れた。
「…と、あれ?!」
「『パンドラ』の…マッスルと澪?!」
「ヤダ、バベルじゃない!!」
「なんでこいつらがここに——!!」
「予知されちゃってたみたい!!撤収よ!!撤収ーーー!!」
お互いがいることは知らなかったようで、思わぬ鉢合わせに驚く。
マッスルはすぐさま、手に持っていたアタッシュケースを展開し、ECCMを発動させた。
マッスルたちを逃がさまいと、皆本もすぐに指示を出す。
いち早く反応した葵がテレポートでそのアタッシュケースを奪ったが、すぐに澪が両手を部分テレポートして葵から奪い返した。
「ビィィィーーーーーーーーーーーッグ————————」
「サイキック————ゴールドラッシュ!」
「金に金がぶつかり合う激痛————ッ!!」
加勢したマッスルの反撃を阻止したのは薫だった。
ビッグマグナムの発射源であるマッスルの下腹部に向けて、金塊をなげうつ。
「私の弾は———当たるわ」
「わっ!!」
澪の手に渡った ECCMを銃弾で破壊する紫穂。
ECCMには2つ弾丸が食い込み、その効力を失った。
その場にいた全員にまたECMの効果がかかり、抵抗できなくなった澪は皆本に首根っこを掴まれていた。
「間に合わなかった…いてて」
「天理、下敷きにしてごめん…」
天理はサポートのために一歩ひいていたが、ECMが切れる直前に薫の元に滑り込み、浮力を失って落ちてくる薫を見事にキャッチして見せた。
しかし念動力があれば、同い年で同じくらいの背格好の薫を抱きかかえられたかもしれないが、そうもいかず。
キャッチしようとしてそのまま天理も金塊の山の上にしりもちをつき、二人はのびていた。
「君はまだこんなことを…!!兵部の命令か?!」
「少佐は関係ないもん!『おこづかいは自分で稼ぐ』が少佐の教育方針なのよ」
「関係あるじゃねーか!!ってか、そんなにこづかいいらんだろ!!」
澪の手元にESP手錠をかけながら説教をする皆本。
その横で、薫と葵が金塊で遊んでおり、紫穂と天理は少し引いている様子だった。
「とにかく本部に連行だ…!!」
「あン、強引ねッ♡」
澪の身柄は薫に預け、マッスルの腕を引いて地下金庫を出ようとする皆本。
しかしその瞬間、ありとあらゆる出口がガシャンと音を立てて施錠されていった。
「おい、警備室?!開けたまえ!聞こえんのかね?!」
銀行員が警備室に呼びかけるが、聞こえてきたのは悪意がこもった笑いだった。
「ク…ククク……!!聞こえてますわ♡」
「!!その声は窓口の中村くん?!」
「『我々はどこにでもいる』こう言えばおわかりになるかしら?」
「!!反エスパーテロ組織…!!『普通の人々』か——!!」
モニター越しに、サングラスをかけた三人が答える。
たまたまこの銀行で普通に働いていたが、組織からの指令で動き出したと、
そしてたまたま案内役を務めた銀行員と警備員2人は「人類のための多少の犠牲」とすると言い始めたのだ。
「何勝手なことほざいてんだ?!」
「てめえ!開けろーー!!」
「じゃあね♡」
現場の抵抗はむなしく、犯人たちとの連絡も途絶えてしまった。
皆本が外部への通信手段を確認するが、警備員曰く全て遮断されているとのこと。
しかしバベル本部ならば、ザ・チルドレンが任務で金庫室にいることは把握しているため、長時間連絡がつかなければ誰か気付くはず…と、希望を見いだす紫穂と葵。
だが、普通の人々が何かしら手をまわしていることも考えた方がいいと皆本は答えた。
「冗談じゃないぞ!これから週末なんだ!!月曜まで金庫は開かんし——
私らを始末する気なら、ここにはさまざまが装置が——」
「な…何?!」
銀行員が声を上げたときだった。
換気扇が激しい音を立て、部屋の空気を吸引し始める。
事の恐ろしさに気付いた紫穂と葵は、皆本に抱きついた。
「奴ら、部屋の空気を抜く気だ!!」
「皆本さん…!!」
「ここでウチら超能力使われへんのに————!!」
「?空気抜いたら何が困るの?」
その無邪気な質問に、部屋の湿度がさらに下がった気がした。
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