国王陛下のチルドレン-4





「危ない——!!」


紫穂の声が響く。

だが、天理は表情ひとつ変えないまま、空気砲を放った。
わずかに、背中に隠していた左手だけが少し動く。

放たれた空気砲が薫の足元で散ったときと、上空でガキンッと鈍い音が鳴ったのは、ほぼ同時だった。

天理に襲い掛かった像の動きが完全に止まっている。
マサラにも予想外だったようで、眉間に皺を寄せながら凝視。


「…ふう」


胸の高さで構えていた扇をおろす天理。その瞬間、背後にいた像は上下に亀裂が入り、真っ二つになって地に落ちていった。
派手な音を立てて砂埃が舞う。
そこへ天理はふわりと降り立つと、口を開いた。


「…私、案外パーソナルスペースが広い方なんだよね。間合いに入ったら——容赦しないよ」


天理は背中の後ろにあった左手をゆっくり見せる。
そこには短剣が握られており、背後から襲ってきた像を一網打尽にしたからくりを明かした。
最初に支給された武器の中に短剣があったことを知らない面々も、ひとまず無傷の天理を見て胸をなでおろす。


「フン、まあまあやるようだけど…お前もよそ見しないことね!!」


安心したのもつかの間、天理に気を取られている薫に向かって、マサラがリング状のエネルギーを放った。


「!!」
「薫ッ!!」


対応が間に合わず、それが薫の頬をかすめる。
外から見ていた皆本は、ブラスターを構えて突入しようとした。だがすぐに、バトゥラと蕾見に止められる。


「言ったでショウ?!このフィールド、超能力で視覚イメージが変化してマス!」
「そうよ、落ちついて!」


言われるがままに顔だけを結界の中に入れてみてみると、
そこには見慣れた小学生たちと、ほんのかすり傷を負った薫の姿があった。
フィールド内で視覚イメージが変化していることで、怪我も大げさに見えているらしい。


「このくらい———!!ちょっとカスっただけだよ!!」


すぐさまマサラはリング状エネルギーを連続で放つ。薫の体制が崩れたチャンスを逃さまいといった様子だ。
怪我の功名か、気が引き締まった薫はマサラとの闘いに集中している。
破壊された鉄球の代わりに、サイコキネシスで相殺しながら、マサラとの距離を縮めていった。


「そんな輪っか、何発投げても当たるかよッ!
まどろこっしいことやってないで——直接来い!!」
「…調子にお乗りでないよ、こっちも——
超度7だと言ったろう?!」


直接サイコキネシスのぶつかりあいが発生する。
衝撃波で格子状のフィールドや結界をつかさどる柱には亀裂が入り、控えていた象やバトゥラの伏兵も飛ばされていた。


「ちょっとやばいかも…?」


薫とマサラの戦いを見ながらも、バトゥラの伏兵たちを気に掛ける天理。
激化してきた闘いに、皆本は命を懸けるような戦いではないから戻ってこいと訴えた。
しかし薫も退かない。


「ちがうねっ…!!あたしたち———
あたしは、いつでも本気なんだもんっ!!だから!!
子供だからとか!!ほどほどにしろとか!!言うなーーー!!!!」


より一強いエネルギーが放たれる。まばゆい光は結界に留まらず、天にまで突き刺さるほどだった。
さすがにそれを見たバトゥラの顔が青ざめていく。


「こ…これもイメージ?」
「い、いや、これは多分——」
「結界が壊れかかっている…?!破裂したら全エネルギーが一騎に放出されて———
宮殿どころか首都が吹き飛ぶ!!」
「!!なら…」


天理はまた空に飛び立つ。今度はわざと結界を抜けて、フィールドを取り囲む森に意識を向けて、テレパシーを発動した。
あたり一帯にいるバトゥラの伏兵の位置を把握。


「(危ないから離れて!!)」


テレパシーで訴えながら、サイコキネシスも使って避難させていた。
宮殿すら…このフィールドすらも吹っ飛ぶことにならないとは思うが、少なくとも衝撃波で飛ばされた一同の保護はできただろうか。

それを確認した蕾見は、「ここまでだわ」とつぶやいてからフィールド内の3人に呼びかける。


「あんたたちー!!強引に迫りすぎるとオトコは引くわよーー?!
女の子は守ってあげたくなる可憐さがないとね??」


横目で皆本を見て、より一層3人に意識させる蕾見。
さっそく、葵と紫穂は残っていた像に、わざと苦戦する演技をしてみせた。


「いやーん!もうダメー!!」
「涙がでちゃうー!!女の子やもんー!!」
「とゆーわけで、あとは薫ちゃんよろしく♡」
「ウチらは可憐は路線を担当するから!」
「ひきょう者ーー!!」


上空からそれを見ていた天理もあきれながらその光景を見ていた。
薫は、マサラと対峙しながら、なんとか”女らしく勝つ方法”を模索する。


「女らしく…」


ハッとして何か思いついた薫は、わずかな隙を狙ってマサラの背中に手を伸ばした。
そして、蕾見がやって見せた方が指先で優しく背中をなぞり…


「ここ?ここが弱いのよね、おねーさま♡」


力の抜けたマサラはその場に崩れ、背中を反らせていた。
そしてその像と呼応するかのように、玉座の背後に立つ巨大な像が震える。


「葵ちゃん!!」
「そうか!あの像を撃てば、おばはんの念波も消える!!」
「ま、待ったッ!!貴重な超能力遺跡をそんな…!!」


葵は弓矢を構える。周りの制止に動じずまっすぐ放たれた矢は…


「クーデター完成ー!!!」


ほぼ同じタイミングで石像の破壊を目論んだバトゥラの額の宝石に、見事に命中した。


「…皆本はんがそう言うんなら、みねうちにしといたるわ!」


ウインクしてみせる葵。狙いを外したのは計算のうちだったらしい。

一応戦闘が落ち着いたところで、天理もまた地上に降り立った。
葵と紫穂と目を合わせる。
その間、マサラのことを蕾見が説得していた。


「…わかったわ。好きになさい…!!」


マサラの体が光り輝く。ほどなくして目覚めたセラがバトゥラに駆け寄り、熱い抱擁とキスを交わしていた。

恋の戦いは終わった。チルドレンたちもフィールドを出て、皆本たちと合流する。
「ったく、お前らは——」とぼやきながらも、皆本の顔には安堵の色が見えた。

蕾見もまた、大きなため息をひとつつく。
ふと、頭の中に声が届いた。玉座の奥、像に宿ったままのマサラからのテレパシーだった。


(そのコたちの方は、そんなんでホントに大丈夫なの、不二子ちゃん?)

マサラの心配に、蕾見はすぐに答えられなかった。



◇ ◇ ◇



———皆本…大好きだったよ。愛してる。



「!!」

伊号ポッドで例の女王の予知を確認する兵部は、何かに気付いてぴくりと反応した。
手元で火花が散り、一度手をはなす。
兵部の肩にのっていた桃太郎が「間違イ探シ?」と聞いた。


「まーそんなとこだな。ただ、今のところ誤差の範囲以上に変化はないよ。」
「フーン。何カ最近ショッチュウコレト、モウ一個見テルヨナ?ソッチモ間違イ探シ、シナイノカヨ?」
「言われなくても見るさ」


再び兵部が伊号ポッドに触れる。先ほどとは違う予知が彼に見え始めた。






 「女聖セイント!こっちも頼む!」

 女聖セイント、と呼ばれた女性が、いつも通りの顔で誰かの傷を癒している。
 怪我人は何人も運ばれてくる。服装から現代のようだが、その様子はまるで戦時中のようだ。
 入れ替わり立ち代わりにやってくる怪我人は、女性の超能力で回復すると、また戦場に出ていく。

 何度も、何度も。
 それが繰り返される。

 「——!!」

 ふと、弾かれるように天を仰いだ。女性は、静かに涙を流した。
 その後も幾度か、はっと気づくたびに静かに涙を流すが、冷静に怪我人の治療を続けるのであった。




 場面が変わる。
 女性は、ベッドに横たわる誰かに手を伸ばしていた。相手の姿は影に隠れて見えない。

 光が集まり輝く。それがおさまると、女性はその場に倒れこんでしまった。

 駆け寄った誰かに抱えられ、その腕の中で、女性は静かに笑っている。
 伸ばした手が、力なく落ちた。
 温かいものが、女性の頬に落ちる。
 嗚咽交じりの荒々しい呼吸の中、絞り出されるようにその名前を呼んだ。


 「——天理ッ……!!」







「ドウダッタ?」
「いや…こちらもほとんど変わってないよ。相変わらず悲しい内容さ」


伊号ポッドから静かに手を退ける。強く手を握りしめ、未来の改変を誓った。


女王クイーンも、女聖セイントも‥‥必ず、この未来を変えてみせる)



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