飯よそいに昇格 袮音がタソガレドキ城にやってきてから三日ほどがたった。 今日も食事は雑渡か尊奈門が運び、彼女は与えられた部屋内でそれをとり、ときたま廊下に出て小鳥と戯れたりして暇を潰すだけで、タソガレドキの役にたっているかといえばたっておらずただの居候と化していた。 「飯よそいとか、できる?」 「"はい"」 そんな時だった。雑渡は焦らずまずは袮音にタソガレドキ忍者隊に馴染んでもらう事にしたのだ。それにタソガレドキ忍者隊の食事は現在当番制。以前頼んでいた女性ばかりの業者が高齢化を理由に引退してしまって以来、変わりをまだ見つけられていなかった。 男ばかりな忍者隊に、料理ができるくの一がいたらと皆が思っていた頃だった。 ちょうど袮音もそろそろ何か仕事をくださいと雑渡にお願いしようとしてたのでいいタイミングだ。 渡された割烹着と頭巾をさっそく身に纏うと、袮音は両手で拳をつくり、「頑張ります」とアピールしてみせる。 「一人じゃ大変だから、あんまり無理はするんじゃないよ。すぐ言ってね」 「…」 こくり、と頷く袮音。 すでに朝食はすんだので、今から昼食の準備に取り掛からなくてはならない。 ただ昼食は城でとるものと外でとるものとがいるので、任務に出ている人の名簿をチェックして作る量を調整しなさい、と雑渡に言われた袮音は一人部屋の中腕を組み考える。 ご飯だと炊きすぎてしまい余った時が面倒だ。何せ夕飯に回す時に新しく炊く量が分からないし。 何せここでは初めての食事つくりだ。量の加減が分からないから、できれば余っても冷凍したりして保管できたり、食べる直前に調理できるものがいい… (…天ぷらうどんなんて、いいんじゃないかしら) 天ぷらうどんなら、食べる直前に揚げ茹ですればいいし、うどんも天ぷらも必要な分だけ揚げる茹でる事ができるから、最初としては量の加減を見るにもちょうどいいかもしれない。 (天ぷらうどんにしよう。それから…) 天ぷらの場合、どれとどれを、と個人個人で選ぶものが違うから会話しなくてはならない。しかし袮音は筆談でしか話ができない為、厨房で筆談など以っての外だ。衛生面的にも悪いし、油を使う今日の厨房に紙を持ち込むのは危険である。 (あの人に助っ人お願いしよう) 会話は絶対に必要になってくると思った袮音は、助っ人である人物に手伝ってもらう事にした。 「…で、私ですか?」 「"尊奈門くんは同い年だし、お願いしやすかった"」 「なるほどね…」 予め書いてきた紙を見せて会話する。 袮音が助っ人にお願いしたのは、尊奈門だった。 (同い年だからお願いしやすかった、って理由か…てっきり私に頼りがいがあるのかななんて変な期待をしてしまった…) 「"嫌、でしたか?"」 年齢が同じだからという理由にがっかりしていた尊奈門に袮音が紙をみせる。ちなみにこれも予め書いてきたものだ。 「いえ、そうじゃないです!」 次、何か頼まれた時に「頼りになるから」が理由になるように、もう少し精神面を鍛えようと決意した尊奈門であった。 記録:雑渡昆奈門 袮音ちゃんに飯よそいを任せてみたが案外うまく熟してみせたので驚いている。いきなり百余人の飯を作るとなれば量の加減が分からないが、それをうまく回避して天ぷらうどんにするとはね…ちなみにとても美味しかった。ただ尊奈門じゃなくて私に頼ってほしかったな、暇だったし。 以上。 _ [mokuji] [しおりを挟む] |