Act-08 贈り物 前編
色とりどりの果物が入った籠。
まずはラッピングを剥がす事だ。
ラッピングのリボンとかは取る段階で使い物に出来なくなるものがあるのでラッピングを趣味とする女性スタッフが数名待機している。
そしてテーブルに全部出す。
危険なモノも盗撮盗聴の機材も無いのを確認する。
だが、見落としかあったら大変なので、籠やBOXは、持ち込んだ簡易X線探知機などにかける。
そしてラッピングをし直す。
リボンやセロファン等は使えなくなっている場合も多いのである程度のリボンを用意して包直したりして、別の移動式ワゴンに置く。
あつ程度溜まったら控室に届ける… というのが基本手順だ。

「こちらの籠は異常無し。 そっちは?」
「耳栓サイズの盗聴機材混入」
「送り主は」
「S商社の理事となってます」
「証拠写真を持って振込票を持って行け」
「了解」
「っと、待った! リボンにGPSも張り付いてるぞ」
「振り込み金額を追加しろ」
「………… 了解」

諸星は溜息をつきながら預かり状と振込票の用意する。

「ったく、カジノなのかリサイタルなのか、果物屋なのか解らなくなるな」
「同感だ」

次々に運び込まれてくる果物。
中央テーブルには歌媛宛ての果物の籠と取り出された果実。
そして取り出された盗聴盗撮機材。
果物だけ再び綺麗に置かれて、ラッピングをするとキャスターに置いていく。

「しかし、見事に熟した食べ頃果物ばかり揃ったな? 部屋中、天然のアロマテラピーになってるぞ」
「ディーヴァ様は菓子より果実を好むからな。 招待客達も知ってるから、世界中から取り寄せてる」
「しかし こんなに食べきれないだろ? 冷凍にでもするのか?」
「歌媛が選んだ一部を抜かして、リサイタル後のオークションで振る舞われるンだよ。」
「ほぉ……」
「ちなみに歌媛が選んだ果物の贈り主は、リサイタルの最後に発表されてオークションの最優先の落札権利を貰えるから素封家達は競うように差入れてくる。」
「それだけ歌媛の謎が噂を呼び、謎を深めてくれる。 組織としたら率の良い儲けだろうな」
「1日で億単位が動きそうだな」
「間違いなく今回もギャンブル総額が億だろうな。しかも回数毎に増えてるぞ? リサイタル参加は上客だけ。デメリットも有るが、成功したらメリットは何倍になる事か」
「歌媛にもメリットが有るのか?」
「あぁ、ギャンブル総額の2割が最低報酬になると聞いた。メイドと運転手付きの豪邸を与えられてるとか」
「24時間セキュリティの億ションじゃなったっけ? 最上2階分をフルに使ってリビングが30畳とかプライベートルームが20畳とか聞いたぞ」
「プールとテニスコートがついてる豪邸を別荘にしているって話もありますよね」
「そうそう、シェリーも同居してるとかしてないとか?」
「ジンやウォッカの部屋もあるとか」
「専用の射撃場と乗馬センターもあるって噂を聞きました」
「車は深紅のフェラーリとか」
「ジンと同じポルシェっていう噂もあるよな」

(どこまでが本当なんだ?)

諸星は果物を詰め直しながら記憶させる。

「報酬といえば歌媛以外の他の歌い手たちも見入りがあるのか?」
「歌媛と比べる事はできない額だけど、入ってる筈だ」
「歌媛とは比べる方が間違ってるだろ。―…っと、GPS発見」
「こっちは集音器だ。 オークションに選ばれると褒美でいくらか貰える筈だ。 一応、全員声楽のプロレベルだからな……」 
「まぁ…… 全員オペラ歌手並みとはいえ、ディーヴァ様とは差が有りすぎる」
「ディーヴァ様は組織で唯一、声を武器にする幹部だからなぁ」
「声を」
「前回、少し聴いたが、高く細く、ハイソプラノの声で賛美歌を歌った。 思い出すだけで泣けそうな位だ」
「麻薬みたいだな」
「ディーヴァ様の声が麻薬だというからな。 一度聴いたらもう一度聞きたくなる。どれ程投資してもいいからもう一度あの声を聴くために金をつぎ込む……。だからセイレーンとも呼ばれるんだ」
「けど、その声が食わせ物だ。 どんな手法を使っているのか分からんが、潜入捜査をしてるヤツラとか裏切りを考えているヤツラがそれで見つかる」
「ほーぉ…… それは興味深いな」
「お前がリサイタルに招待されたら捕まるかもな?」
「俺が?」
「疑わしきは罰せよ。 招待客の中にはな、長年の投資家もいるが、任務達成率、投資金額、交友関係、すべてコンピューターに記録されてて、此処のパーセンテージは違うが危ない、と判断された連中も招待されている……」
「……やれやれ。 じゃあ、そのコンピューターを壊しにいかないとならないな。」
「はっ! 違いない。」
「おっと、このキャスターにはもう置けないな。 次のキャスターは」
「ここに。今回はキャスターを5台用意しました。」
「前回が4台プラスだったからな…」
「本当に素晴らしいわ。 白苺もさる事ながら、一般には出回らない黒苺。 この品種は1粒で2000円とか3000円とも言われてます。」
「1粒でか」
「えぇ。 苺の中のブラック・クィーン。 味は抜群で糖度も高いという事をTVで見ました」
「薔薇に例えると天然の青バラという所か?」
「そうですわね。 天然の青バラの苗木は栽培がとても難しいですもの。 一般に売られている青バラはある程度育ててから色素で着色されたバラですから」
「そうらしいな。……さて、俺はこの果物を届けてくるよ」
「多分、護衛がいるから門前払いだろうけどな。 声が聞けたら儲けものと思ってろ」
「ははっ!会えない方が気楽でいい」

諸星はラッピングし直された籠と差入人のカードをセットにしたものが置かれたキャスターを引きながら笑い飛ばした
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