Act-05 絶対音感 前編
「グランドピアノ……!?」
音楽室に入って目に飛び込んで来たのはグランドピアノ。
桜は後ろの棚に置かれたフルートやヴァイオリン、オルガンに目を見開く。
「音楽室ですから。 でも、このピアノ、少し音が悪くなっているんです。」
「悪くなってる?」
光彦が説明する。
「この間、一寸大きな地震が有った時に糸が緩んだみたいで、調律修理がまだなんです。たしか、来月にならないと修理できないって言ってました。」
「そう……」
桜が両手を鍵盤に走らせる。
キラキラとした音が、教室に響き渡り、クラスメート達が立ち止まる。
「凄い……! 僕はまだバイエルの練習曲が精一杯なのに、もう、ソナチネの暗譜まで進んでいるんですか?」
「変?」
「いえ! 尊敬します!」
「…… ほんとだ。この辺りの音が狂ってる。」
「え? どこどこ?」
「んとね、このラとシの音が少しぶれてるの。後、低音の方も狂ってる。 これがプロならキー合わせが大変ね」
「そうかぁ? 俺には同じに聞こえる。」
「毎日のように触れてないと分からない程度だもの。 でも、テストは音程も大切でしょう?」
「テストはCDに焼いたカラオケ用のを使うんです」
「そう……」
桜は小さな溜息を付く。
「そういえばテストって何を歌うの?」
「えーと? 確か」
「”かたつむり”か”海”」
「それから”日の丸”ですね。」
「3つも歌うの?」
「まさか。この3つから一つを選んで歌うんです。 でも、白銀さんは日本語はしゃべれても知らない歌でしょうからテストを受けなくても大丈夫だと思います。」
「だよな!」
桜が本棚にある教科書…… といっても、教科書を忘れた生徒の為に予備で置いてあるものをパラパラとめくっているとコナンが歩美と、その背後から小林が入ってくる。
「ほらほら、教室の案内は終わりですよ。 席について。 白銀さんにはハーモニカとリコーダー、ピアニカの新しいの用意してあります。ピアニカは男の子が青で女の子はピンクなのよ。 後で渡すのでお家でお名前を書いてきてね?」
「はい」
小林はパンパンと手を叩く。
「さ、席について! まずは歌う曲のグループにわけますよー。 ”海”を歌いたい子は?」
パラパラ、と幾人かが手を上げる。
「日の丸の人〜?」
またパラパラと手を上げる。
「では、カタツムリの子は?」
幾人かの生徒が手を上げる。
「はい。では、”海” ”カタツムリ” ”日の丸” の順で歌ってもらいましょうね。最初は海を選んだ人たち。前にでて、出席番号順に並んで〜〜」
小林の声に幾人かの生徒が立ち上がる。
「お、おい、灰原。普通の声、だよな? 大声じゃなくていいんだよな?」
元太は自分が一番最初で歌う事に気づいて哀に確かめる。
「そうよ。いま、こうやって話している声でいいの。深呼吸して行ってらっしゃい」
「お、おう!!」
ぐっと拳を握りしめる。
「小嶋君。手の力を抜いて拳を開いて」
桜が唐突に声を掛ける。
「へ?」
「いいから手の力を抜いて。」
「こ、こうか?」
「もう一回おもいっきり息を吸いながら思いっきり握って」
「??すー…」
「力を抜いて息を吐きながら手を開いて」
「はー…?」
「もう一回繰り返してみて?」
元太が繰り返す。
「あ れ??」
元太が不思議そうな顔をする。
「少しは身体が楽になった?」
「お、おう」
「そのまま、身体には力を入れないで、その綺麗な姿勢で歌うと、少しだけど声が延びると思うわ。」
「そ、そうなのか?」
「おなかに力を入れて歌うのは大切。でも、身体に余計な力をいれちゃダメ。」
「わ、わかった。」
「白銀さん? それは?」
小林が聞く。
「緊張緩和法の一つです。 テストだからと張りつめて力むと音程を外したりする場合があるから、神経を緩ませてあげるの。 聖歌隊の皆がねコンクールの前によくやってたの。集中するのは大切だけど、いくら練習しても本番でミスをしたら大変でしょう?」
「わ、 私もしていい?」
「ぼ、僕も!」
元太の後に唄うクラスメートが聞く
「勿論よ。力を入れて手を握りしめて、息を吐きながら力を抜いて手を開く。その姿勢で気持ちよく歌えばいいの。」
桜はにこっと笑みを見せる。
「そんなんで上手になったら先生なんて入らなくなるんじゃない?」
コナンが挑戦的にいう。
「そうね。江戸川君の様に絶対音感が有る人には必要無いと思うわ。 それに、緊張緩和法がすぐにできるとは限らないし、本番に強い人も弱い人もいるから。でも、歌は楽しく歌うものよ」
ニッコリと受け流す桜にコナンは黙り込んだ
「さ、テストはじめますよ〜 一番バッター小嶋元太君!」
「お…! じゃない、はいっ!」
小林は長閑に声を掛けて、元太は元気よく返事をした。
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