Act-05 絶対音感 後編
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しぃろぉ〜〜じにぃあぁ〜かぁ〜ああ〜〜くぅううう〜〜〜
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「きゃ・・っ」
オオトリで歌うコナンの声が響いた途端、桜は耳を押さえた。
「ね? 小嶋君の言った通りでしょ? 耳栓が必要だって」
柳眉を潜めた哀が声を掛ける
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日ぃ〜〜のぉ〜丸そォめてぇえええええ〜〜〜
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「俺も下手だけど、アイツはどーしよーもねぇよな」
「全くです…」
「元太君も光彦君も、そんな事言ったら、本当の事でもコナン君が可哀想だよ。 嘘でもお上手って言ってあげなきゃ! ね、哀ちゃん」
「そうね、吉田さんのいう通りね。彼の場合は絶対音感=歌が上手という公式は成り立たないと私も思うわ」
「ー… なにげに厳しい言い方をするのね、えっと… 吉田さんに灰原さん?」
「歩美って呼んで! 同じクラスメートだもん」
「え?」
「うん! だからね、歩美も桜ちゃんって名前で呼んでいい?」
桜は一寸驚いたように目を見開く。
(パパが小学校に行け、と口うるさく云ったのはこういう事かしら? 人を疑うような事を知らない純な心。)
「あ、あの、ダメ、かな? あったばかりじゃ?」
「あ、ごめんなさい。 よろしくね、歩美ちゃん」
「へへっ! やった! こちらこそだよ、桜ちゃん」
ほんわかとした歩美と桜の会話に哀は静かな笑みを見せて口角を少し上げる
「でも、本当に歩美ちゃんたちの方がお上手だと思うわ。 江戸川君は練習したのかしら?」
「さぁ? 彼の場合、推理小説ばかり呼んで勉強はそっちのけ。」
「そう…」
(FBIの情報でも工藤新一は音痴ってあったっけ。 子供になっても音痴は変わらないって事ね)
「でも、コナンは自分が音痴だって自覚ないんだよな」
「……そ、そう…」
桜は頭痛を堪えるように顔を顰める。
コナンが唄い終わった時、クラスの子たちは全員ほっとしたように息を付いた。
「絶対音感があるなら、アカペラの方が歌いやすいと思うのに、どうしてアカペラにしなかったの?」
「テストだからさ。 でも伴奏つきだと、歌いにくくて音程が狂うんだよね。なんなら白銀さんも歌ってみる? あ、でもアメリカにいたんじゃ日本の歌、分からないよね」
コナンはほっとけ、とばかりに言い捨てる
桜は小さく笑う。
「カラオケ用とはいえ、CDの音程も少し乱れていたわ。そのCDで上手に歌うのは大変でしょう?」
「なら、歌ってみせてよ? 聖歌隊仕込みの歌を」
「………そう なら、折角のリクエストだものね……」
「え、江戸川、君? 白銀さん?」
「ご心配なく、先生。 教科書にある歌は速読じゃ歌えないけど、絶対音感がある人からの御指名ですもの。御指名されたからには答えるのが義務というもの」
コナンの言葉に桜が少し口角を上げて笑うと席からピアノのある正面の場所に立つ。
「自己紹介を兼ねて聖歌隊を仕込んだ声で唄わせて頂くわ。 人前で唄うのは久しぶりで練習もしてないので、御聞き苦しい点は御見逃し下さいませ」
桜はにこりと微笑む。
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Расцветали яблони и груши,
Поплыли туманы над рекой;
Выходила на берег Катюша,
На высокий берег, на крутой.
Выходила, песню заводила
Про степного, сизого орла,
Про того, которого любила,
Про того, чьи письма берегла.
りんごの花ほころび
川面に霞たち
君なき里にも
春は忍び寄りぬ
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自然な姿のまま、透き通った綺麗な声を響かせる桜
(ロ、ロシア語だと!? たしかカチューシャ)
(この声!! やっぱり彩華!? 公安に拉致されたと、あのジンたちが血眼になって探して探して… 私もどれだけ胸が潰れる想いで無事を祈った事か)
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Ой, ты песня, песенка девичья,
Ты лети за ясным солнцем вслед,
И бойцу на дальнем пограничье
От Катюши передай привет
Пусть он вспомнит девушку простую,
Пусть услышит, как она поёт,
Пусть он землю бережёт родную,
А любовь Катюша сбережёт.
岸辺に立ちて歌う
カチューシャの歌
春風優しく吹き
夢が湧く身空よ
Расцветали яблони и груши,
Поплыли туманы над рекой;
Выходила на берег Катюша,
На высокий берег, на крутой
カチューシャの歌声
はるかに丘を越え
今なお君を訪ねて
優しいその歌声
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唄い納めた桜がスカートのすそを撮んで優雅に一礼する。
「ご清聴、有難う御座いました」
パチパチとクラス中に拍手が沸き上がり小林も惜しみない拍手を送る
「凄い凄い!桜ちゃん、東都一… ううん、日本一の歌手になれるよ!!」
「日本一じゃなくて世界一だよ」
「滅茶苦茶綺麗な声!」
「あ、私! 教えてほしい! 今行ってる音楽教室の先生より上手なんだもの!」
「ぼ、僕も!」
「私も! 歌が上手になって歌手になりたいの!」
幾人かの生徒が口々に云う。
「絶対音感があるのはとても良い事よ。 それは、お父様やお母様が生まれた時から音程の確かな曲を沢山聞かせてくれたという証拠。 お母さんのお腹にいる時から良い音楽を聞いてきた証拠にもなるのだから。 江戸川君のご両親は、歌が好きで、きっと音感も優れているのね。 でも、絶対音感は江戸川君だけが持ってる訳じゃ無いの。 貴方は、絶対音感に頼り過ぎているわ。 音感に自信があるのはいい事だけど、力み過ぎて声が出てないし声も伸びてない。」
「(マジかよ? せいぜいマザー・グース程度だと思って、ちょっとからかって引き下がろうと思ってたのに)」
「確かに私は江戸川君のいう通り、アニメとかアイドルの歌は知らないけど、ご希望通りのアカペラよ?」
「桜ちゃんは、アニメ見ないの? 仮面ヤイバーとか、とっても面白いのに」
「仮面ヤイバー?」
「歩美ちゃんアメリカじゃ仮面ヤイバーは放送してないと思いますよ。」
「あ、そうか。じゃあ、今度、録画したのを見せて上げるよ!」
「俺も録画してるぞ」
「僕、映画のDVD全部そろえてます! 是非ご一緒に!」
首を傾げた桜は答える
「ありがとう。でも、週末はパパと一緒だからパパが許可をくれたらね。」
「ぇ…?」
「桜のパパは警察のお仕事してるから、アメリカでは何時も遅かったの。事件になると帰れない日もあったから、パパのお友達のお家にお泊りした事が何度もあるわ。 でも、日本にいる間はね、学校が休みの土曜と日曜はパパができる限りお仕事の公休を入れてくれる事になっているのよ」
「そっか。週末だけだなんて寂しいね」
「日本に来てから、パパがお仕事で知り合った探くんのパパのお家で暮らしているから寂しくないの。 探君も、白馬のおじさまもばあやも皆優しいの。 だから平気。 小さい時に入院していた時に比べたら寂しくなんてないの。 病院だから電話もできない、一人で寝て、夜中にパパが来て、私が起きる前に病院から会社に行く、っていう事もあったから。」
(探君? 白馬探? まさか… 白馬のおじさまってのは)
「でも、白馬のおじさまとパパには歩美ちゃん達と遊びに行っていいか聞いてみるから、お外では遊べないけど家の中ならいいよって許可をくれたら、その時は見せてね?」
「うん! いつでも見せて上げる! なんなら貸してあげるから! ね、元太君、光彦君!」
「俺の宝物のプラチナヤイバーカードもみせてやるぜ!」
「僕のDVDで良ければ学校にもってきます!」
「ありがとう、歩美ちゃん。小嶋君、円谷くん」
コナンの頭が回転を始める。
(白馬探ってのはイギリスにいるっていう探偵だった筈。するってぇと白馬のおじさまってのは日本警察の頂点に立っている白馬警視総監か! ー… それなら昨日きていたSPの多さも納得できる。)
「日本語とロシア語を混ぜて歌えるなんて凄いのね。白銀さん」
「ありがとう。 でもロシア語は挨拶しか出来ないの。歌なら何曲か歌えるんだけど」
哀の言葉に桜はにこりと笑う。
「これからは安易に絶対音感がある、なんていわない方がよさそうね。江戸川君」
哀がくすりと笑う。
「あ… あははは…… ごめんね。白銀さん。(ただでさえ音楽の時間嫌いなのが余計逃げ出したくなりそうだ)」
コナンは背中に嫌な汗を感じながら謝った。
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