Act-07 誘い
歩美の言葉にクラスの子たちが声を重ねる。
「あれ? って事は桜さん、お昼は持ってきたんですか?」
「ばあやがね、自家製の苺ジャムのサンドイッチと、苺の紅茶を持たせてくれたの。」
桜は鞄の中から藤色の小さな水筒とバターロールとサラダが入ったお弁当箱を包んだクマの絵柄の包を取り出す。
「バターロール1個とサラダで足りるの?」
「食べ過ぎると心臓に負荷が掛かってしまうから。」
「バターロールってバターが材料なんだろ? 食ってもいいのか?」
「違うわよ。 材料の中に使われるバターの量が、食パンとかより多いの。牛乳も使っているけど、1個位なら平気。それに、これ、天然酵母だから添加物も少ないし」
「てんねんこうぼ?」
「うん。ばあやは凄いの。天然酵母って水と果物と砂糖を合わせて発酵させて作るんだけど、香りも良くて。 おうどんとかお蕎麦まで手打ちで作ってしまうのよ。パンやピザも。和食から洋食まで。」
「へぇ… 凄いわね」
「探君が言ってた。白馬の家の食生活はばあやがいないと成り立たないって」
「すっげー。 うな重もつくれっかな」
「多分作れると思うわ? でも、油ぎってるものは探君もおじ様も好きじゃないから、作らないと思う。」
「残念だったね、元太君」
歩美の言葉にくすりと笑う桜
「そういえばー… 白銀さんは苺が好きなの?」
「うん。今は苺の時期じゃないから美味しい苺がないので、ジャムと、アロマティーのハニー・ストロベリー。でも果物なら大概のものは好き。」
「そう」
(彩華も苺が大好きだった。リサイタルの時の差し入れは苺が6割近くて… あんなに苺ばかりで良く飽きないと思ったほど苺が大好きだった)
哀は懐かしそうに目を細める。
「ね、桜ちゃん! 今日、学校返りにここらへん、案内してあげるから一緒に帰ろうよ。帰りは皆でおうちの近くまで送ったげる」
給食が終わって言い出したのは歩美。
「え?」
「それ、いいですねー! 米花町案内ツアー!」
「美味い物を安く売ってる店、案内してやるぜ。 困った事は俺達少年探偵団が解決してやっからな」
「少年… 探偵団…?」
行き成りの会話にきょとん、となる桜
「団長は俺だ! 光彦と歩美とコナンと、灰原がメンバーなんだ!」
「あと、灰原さんが暮らしてる研究所の阿笠博士が顧問なんです。僕達は殆ど外で活動すしてますが、沢山事件解決してるんですよ」
「それから、学校での顧問は小林先生なの! 先生の彼氏さんは警察官なんだよ!」
「アドバイザーは毛利探偵とコナン君の師匠の服部のお兄さんと、工藤のお兄さんです」
「小五郎さんは当てにならないけどね…」
「あー。 よくハズしますよね〜〜。 眠る時は大当たりなのに、普通の時は的外れです」
「そうだ! 桜ちゃんも入らない? 男の子が元太君、光彦君、コナン君で3人でしょ? 女の子が私と哀ちゃんで二人。 桜ちゃんが入ると3人。 ね、いいよね! 元太君、光彦君! コナン君も哀ちゃんも!」
「3人3人でバランスがいいですね!」
「おっし! 団長の俺も、桜が入るのは認めてやるぜ!」
「ちょっ! 一寸貴方たち。 白銀さんの返事も待たずに勝手に決めたら駄目でしょう! それに、私達と違って走れないから発作とかで倒れたら責任問題よ!」
「あ、」
歩美と光彦、そして元太は盛り上がり、哀が止めに入る
「大丈夫だよ! 何かあったら助けてやっから!」
「小嶋君、そういう問題じゃないでしょう?」
「ううん。 いいの、灰原さん。」
止めに入った哀に向って桜がいう。
「嬉しいお誘いだけど、ごめんね。 転校初日に寄り道したら、探くんやばあやに心配かけちゃう。ばあやはとても心配性なの。それに、長い時間、お外にいるとDrに怒られてしまうから」
「そっか。」
「犯人追いかけて倒れたら大変ですよねー」
「じゃ、じゃあさ。 事件とかじゃなくて、暗号とか解いて貰うっていうのはどう? ほら、すごーく音感いいから、これはどこの踏切だ、とか」
「それいいですね! テープの後ろの小さな音とか分析して貰ったり」
「探偵団の連絡係りってのもあるぜ」
歩美と光彦と元太が盛り上がる。
(オイオイ。勘弁してくれよ。 こいつら3名だけで手いっぱいだっつーのに)
「あ、あのね? 誘って貰った事はパパたちに話しておくけど、主治医の先生がいいって言ってくれたら、でもいいかしら?」
「そうですね。 僕らはいつでも歓迎しますから!」
「おう! 桜はもう探偵団のメンバーだかんな!」
「うん! 今度、探偵団の入団式もやってあげる!」
「ありがと」
(無邪気な子たちー… 私は子供の時、こんな風に遊べなかった。 冷凍睡眠治療を受けて、<リサイタル>の前後数日だけ起きている生活、だった)
「じゃあ、案内ツアーは週末ー…は、お父さんと一緒でしたっけ?」
「うん。 パパは以前に何回も日本に仕事できた事があるけど、桜は初めてだから。探くんや白馬のおじさまたちとお出かけするの。 でも、歩美ちゃんたちが米花町ツアーに誘ってくれた事はパパにも話しておくわね。」
「約束だよ! 沢山沢山案内してあげる」
「楽しみにしているわ」
桜はにこりと笑った。
(ジン兄にはとても会いたいけれど、今はまだ子供で居たい。 工藤新一が同じクラスにいるという事は、彼は組織を探してる筈。 私にだけは優しかった大好きなジン兄。 きっと組織の総力を上げて私を探してるだろうけど、今は赤井秀一の養女として白銀A桜で居たいからー…)
桜は長い銀色の髪を持つジンを思い出す。
(ごめんね、ジン兄。 ジン兄はきっと私を探してる。 そして、私はジン兄への連絡の取り方を思い出してしまった。 なのに連絡をとれないでいる。 … でもジン兄と秀パパがお互いの存在に気づいたら、必ずどちらかが死ぬ。 私は、2人が死ぬのは見たくない。 ごめんね、ジン兄。 もう少しだけ、時間を頂戴……)
桜は小さな溜息を付くとバターロールに齧りついた
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