Act-09 車内密談 前編
「さて、とここら辺でいいかな。 車を止めてくれる?」
「はい」
探の言葉に運転手は静かに車を止める。
「ドアを開けてくれるかな?」
「はい」
探は身軽に外にでると、桜が座る方のドアを開けて助手席のドアを開ける
「桜ちゃん。 もう、助手席に移っていいよ」
「ホント!?」
「学校の駐車場じゃ雇い主の立場上助手席に座らせてあげるのは無理だけど、ここなら小学校から離れているから助手席でもいいからね。 僕が運転して赤井さんを後ろにしてあげたい所だけど、日本では4輪は18歳にならないと免許が取れないし。警視総監の息子が法律違反したら父の立場がない。 でも、雇い主が助手席に座っちゃいけない、なんて法律はないからね。」
「ありがとう、探君!」
「どういたしまして。」
「坊ちゃん。 ―… いや、探君。私に気を遣う必要はない。 今の私は表だって桜の父だとは名乗れない立場だ。小学校の書類上は桜の名前に合わせて白銀姓で書類を作ってセキュリティチェックマンションを借りているが。 桜が同年代の友達を作って元気ならそれでいい。今日だって、偶々総監との内々の話があるからと自宅へ来てくれとと言われ、そのついでに桜を迎えに行くというチャンスを得た。 俺は、週末に桜と少しだけでも会えればそれで満足なんだがな。」
「かもしれません。 でも、僕も父も、赤井さんの任務を知って、その上で桜ちゃんが日本で暮らす間の家を提供しました。そして、桜ちゃんは僕の護衛対象です。ですが、今、運転席にいるのは赤井さんです。ここから白馬の家まで10分ちょっと。バックミラー越しで見るよりも助手席の方が僅かとはいえ距離は近い。 桜ちゃんとの時間が短いなら尚更、その時間を大切にして下さい、」
「―… だが、今日の俺は坊ちゃんと嬢ちゃんの護衛兼運転手に過ぎない。」
「大丈夫。赤井さんの事ですから、僕たちの目に届かない範囲で護衛車を配置しているんでしょう?」
「見越してたのか」
「ワトソンを連れてきたら護衛車に気づいてしまうからね。 彼女はヤードの人たちの顔は覚えているけれど、日本警察の顔はまだ覚えてない。興奮して大騒ぎしてしますから、あの勘のよい”コナン君”に感づかれるかもしれない。」
「…流石、白馬警視総監の息子さんだ。ヤードの友人が"サグルが飼っている鷹は人以上に役に立つ立派な捜査官だ"と云っていた」
「ワトソンはお利口さんだもの! 桜の事だって、すぐ覚えてくれた賢い鷹なんだから」
桜が口を添える
「そうだな。 レディ・ワトソンはとても利口な鷹だ。 ―… おいで、10分位しかないが、助手席で街並みを見るといい」
「何か聞かれたら街並みを覚える為に助手席に移った、といえばそれでいいからね」
「うん!」
桜は助手席に座ると甘えるように赤井の腕にしがみ付く。
「こら、桜。 運転中は危ないだろ。 抱っこは家までお預けだ。 今日は白馬警視総監と打ち合わせもあるから俺も泊まる。」
「お泊り! ホント?」
「あぁ。 だが、明日の朝はばあやさんの車で小学校に行く事になるが」
「うん。大丈夫! あのね、お友達できたんだよ。 吉田歩美ちゃん、円谷光彦君、小嶋元太君に灰原哀ちゃん。 給食の牛乳、アレルギーで飲めないからって元太君に飲んで貰ったの」
「―… 桜ちゃん。 僕たちの前では無理に子供言葉はしなくていいんだよ。」
「探君」
「白馬警視総監と、探君とばあやさんはお前が高校レベル以上の知識を持っているのを知っている。 必要以上に子供のフリは必要ない」
「―… うん。」
桜は頷く。
「でもね、パパ。 見かけと同じ子供のフリをしてないと素がでて来そうなの。 私は ―… 江戸川コナンが 何等かの事故で小さくなった工藤新一だって知っている、なんて言えないから」
「―… 全くね。 僕だって叔父の研究所で工藤新一のDNAと江戸川コナンのDNAが100%マッチしたのをこの目で見るまでは信じられませんでした。 指紋、という動かぬ証拠もあるにも関わらず。」
「―… そうだな。 あの研究所は個人の研究所にしておくには勿体ない。 あの技術があればFBIと共同研究も夢じゃないぞ。 なんなら俺がFBIの鑑識に掛け合ってやる」
「FBIからの協力要請があれば、叔父は進んで協力すると思います。 ですが、共同研究は断ると思います。 何しろ思い込んだが100年目で、自分の研究一途ですから」
「研究所のおじ様も面白い人よね。 私が興味を持ったものについて全部説明しようとしたもの。 それも子供に分かりやすい説明じゃなくて、小難しい理論で喋りだすの。突っ込み所が多すぎて目をぱちくりさせて見せるのが精一杯だったわ。」
「ははっ! 確かにあの顔は見ものだったな」
「焦った所員の皆が総出で分かりやすい見本を探そうとするわ、ネットで検索するわ。 一向構わないのはおじさんだけ。」
「全くね。―… 最もそんな叔父だから、怪盗KID=黒羽怪斗のDNA照合をあっという間に出してくれたんだろうけれど」
「現場に落ちてた毛髪のDNA照合があるのに黒羽快斗を逮捕しないの?」
「うん。 ―… 実は、ここだけの話だけにしておいて欲しいのだけど、黒羽快斗はKID2代目だって、桜ちゃんも知っているよね? それに、イギリスにいた時から一寸気になる事があってね。」
「それって初代の怪盗KIDに関係してるの? 表向きは東洋の魔術師とよばれば天才マジシャンの黒羽盗一。 そして妻の千景夫人は仏蘭西を中心に騒がせていたファントム・レディ」
「流石詳しいね。―… そう。 でも盗一氏の死に方には疑問があってね。 僕なりに調査をしていたんだ。 これはまだ極秘事項なんだけどCIA情報部ととヤードの知り合いから聞いた情報なんだけど、桜が拉致されていた犯罪組織とは違うブラックマーケットがあってね。 そのブラックマーケットの連中がステージ中に何等かの事故―…つまり、マジックの最中で初歩的ミスで死んだ、という状況を故意に作り出したんじゃないかと思える節もあるんだ。 裏情報では生存説もある。」
「確かに盗一氏の死亡説は偽装で、狙わているのに気づいた彼が、失敗するように仕組まれたマジックに気づいて、それを逆手に取ってすり替わったという説はFBIで聞いた事があるが」
探の言葉に赤井が云う。
「はい。 遺体はDNA鑑定で盗一氏と断定されましたが、千景夫人の手によって提供されたDNAのすり替わりが行なわれた可能性も否めません。ファントムレディの腕を持ってすればすり替えも不可能ではありませんから。 それに、黒羽盗一氏のアシストをしていた寺井氏は盗一氏の死後アシスタントとしての仕事を隠退して小さなバーを経営していますが今だ健在。 2代目に協力していても不思議ではない。」
「探君は、そのブラックマーケットを潰すつもりね?」
「最終的にはね。 でもまだその時じゃない。 黒幕の姿が分からないからね。 ホームズにモリアーティがいたようにそいつらは探偵としての白馬探のモリアーティなんだ」
「モリアーティはライヘンバッハの滝に落ちて死ぬのでしょう?」
「そう。 だから、僕は彼をその滝壺に追い詰めなくてはならないんだ。でも、それにはまだまだ証拠が必要で、警察との連携も必要になる。今回は、黒羽快斗の同行を探る為の来日でもあるからね」
「探君ならきっとできる。 ね、パパ」
「あぁ。 君ならきっとやり遂げるだろう。 必要な資料はFBIに協力を要請するといい。 資料収集に敏腕のIT技術者いる。 桜を妹のように可愛がってくれているBAUの連中だ。 桜が一言オネダリすればすぐに動いてくれるだろう」
「ガルシアの事ね? 任せて! それに、私、ガルシアに教えて貰ったから大抵の所に潜り込めるわよ。 足跡をのこさずにね。」
「桜。 ガルシアの真似は止めろ、と以前も言っただろ。」
「平気よ。 パパが駄目って言ってもガルシアに頼めば二つ返事で一緒に潜ってくれるもの」
「―… ガルシアが解雇処分になるぞ」
「大丈夫! 元々ガルシアは裏の世界で名を馳せた超1流のハッカーで、その腕を見込まれてBAUにトレードされたのよ。 塀の中に行くかBAUで働くかの2者選択だったけどね」
「へぇ… そんなに凄腕なのかい?」
「うん。 裏の世界ではBQ―… ブラック・クィーンって名乗ってた。ガルシアが本気になったらNASAやペンタゴンのセキュリティを突破する事も可能だと思うわ。 私はガルシアの一番弟子でシルバー・プリンセスって名前を貰った。 FBIやCIA、日本警察位ならサイバー・パトロールに見つからないように情報を引き出す事ができるわよ」
「桜〜〜〜。 頼むから、パパの寿命が縮むような事だけは止めてくれないか」
「パパ位強心臓の人がその程度で寿命が縮むなんてないでしょう? 眼つき悪いんだから、サンブラスで隠してなければヤクザさんじゃない」
「はぁー…」
赤井は溜息を付いた。
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