Act-10 白馬邸
桜のリクエストで手打ちうどんを含む和食のディナー。
探と白馬、赤井の為に炊き立てのお米、自家製味噌を使った味噌汁、煮魚、和え物。
料理が得意なばあやは大張り切り。
桜は少ししか食べない為、プレート仕立でバランスよく飾ったのを出してきた。
食後のデザートを食べて風呂に入れて髪を乾かし、フリルをあしらったパジャマにカーディガンを羽織らせる。
眠ってしまう前にと、探の父のリクエストで見事な声を響かせて数曲歌った桜。
喉も乾くだろうとばあやが持ってきた苺のジュースを父親の膝の上で飲んでいるうちにかくん、と船をこぎだした。
「おっと…!」
殆ど空になったグラスが傾きかけたのをみて赤井は零れないようにグラスを押さえる。
「あらまぁ。 桜嬢ちゃまはおねむモードになったようですね。お部屋にお運びしましょうか?」
「緊張してないようで緊張してたんでしょうね。お父さんと赤井さんは話があるでしょう? 僕がベッドに連れていきます。」
探が紅茶のカップをおいて立ち上がる。
「いや。私が行くよ。久しぶりに思いっきり歌えて疲れたんだろう。」
「それは―… 無理をさせてしまったかな」
「いえ。 アメリカで随分と体力が付きました。モーガン捜査官が―… FBIで桜を可愛がってくれているBAUのメンバーなんですが、私が留守の時、彼が身体機能を少しずつ鍛えてくれたので」
「皆に愛されているんだね」
「一部の人間とはそりが合わないようですが」
「一部?」
「怪盗KIDの2代目高校生とか、日本警察の救世主で自信過剰な高校生とか…。」
赤井は苦笑しながら眠りの世界に入ってしまった桜を抱き上げれば、探がドアを開ける
すーすーと眠る桜
小学生にとってはもう夜中。
拉致されている間にどのような実験をされたのか、産まれすら分からない子供。
はっきりしているのは、組織の手に寄って、超高難度医療技術で心臓移植の手術、アレルギー治療等を受けていたという事。
検査の結果、組織の医学レベルは世界最高水準を越していると思い知らされた。
そして桜が思い出しかけている"ジン兄"は恐らくあの"ジン"
兄、と呼べる事から恐らく可愛がって貰っていたのだろうと予測は付く。
ジンが可愛がっているとしたら、桜を使えば間違いなく彼等を逮捕する可能性は高くなる。
だが、記憶を思い出してしまったら桜の心はどうなるのか。
明美を喪うよりも怖い。
明美を裏切ったのは……。
そして先日届いたあのメール。
更にTVで流れたあのニュース。
MASAMI(雅美) HIROTA(広田) は間違いなく宮野明美
つまり、つい先日まで組織の中で生き延びてきた。
それがシェリーの妹としての最後にできた事なのだろう。
そのシェリーが桜の事をとても可愛がっていた。
桜は組織の幹部であるディーヴァ。
組織の歌媛。
けれど、母親の事も父親の事も知っている人は居ない。
ジンの髪の毛1本、煙草の吸殻でもあればDNA鑑定が出来る。
けれど、そのようなへまをするジンではない。
桜の部屋と用意されたのは探の部屋の隣。
時折訪ねてくる赤井と一緒一に寝れるように、ダブルベッド。
最も、探のベッドもダブルで、曰く、躰を伸ばしてゆっくりと眠れるようにという父母の考え方らしい。
故に、邸の主である父親の主寝室はアメリカ・キングサイズ。
此処の部屋も広く、邸宅のような洋館で、庭も広く、その気になればガーデンパーティもできる程で現に母親が知人を招いてパーティを執り行った事もある。
リビングからサンルームに繋がり、探の母親は日本戻ってくると、そのサンルームで仕事のデザインを書いてる場合が多い。
「どっか、いく、なら桜も、いく―…」
「桜―…。パパはここだ。ほら、もう少し頑張って歯磨きを終わらせるんだ」
「うー…?」
寝ぼけてぐずる少女をあやして歯磨きをさせてベッドに寝かせる。
「パパ―…?」
「ん?」
「あのね、歩美ちゃんたちが―…」
「歩美ちゃん? お前と、お友達になった子か?」
「うん。 今度、町を案内案してくれるって、言ってくれて ー…… でも、今週はお出かけするし。パパと一緒にいたい、し」
「そうか。 だが、やっと、同年代のお友だちが出来たんだ。行くのは構わないが、遅くまで出掛けるのは禁止。総監と探くんとばあやさんにはちゃんとお出かけ許可をとるんだぞ?」
「んー…… 」
あふ、と小さな欠伸をする桜
「おやすみ。サラ。 総監との話が終わったら、戻ってくるからな」
「おやすみ、なさい」
赤井はそっと額にキスを落とす。
すーすーと眠りの世界に入る娘。
「You can have a good dream」
赤井は口角を上げるように頬を緩めると、窓のカーテン確り閉めて、部屋のライトを最小限まで絞る。
「ジン、兄…? お…姉ちゃま―…」
部屋を出ようとノブ回しかけて、小さく呟かれた言葉に赤井はピタリと足を止めてベッドに戻って首を触って顔を覗く。
呼吸は深く、安定していて、魘されている訳ではない。
「桜―… 頼む。 思い出さないでくれ。」
お前を喪いたくはない。
奴等はこの日本できっと活動を始めている。
もし、桜が―…ディーヴァが無事に生き延びて、保護されていると知ったなら、全力全を上げて奪還しに来る。
俺は、お前を普通の子として育てたい。
声で人を殺める歌媛にはしたくない。
お前を探している家族を探して。
あの”ジン”が兄だとしたら、俺はあいつを撃てるのか?
この子の前で、お前の兄は犯罪者だったから撃ったのだと―…?
殺した事を云えるのか―……?
血の繋がりはなくても、可愛がってくれる年上を兄や姉と呼ぶ可能性もある
赤井はもう一度、額にキス落とすとそっと足音を殺して部屋を出た。
(渡さない。 桜は俺が護る。 ディーヴァを護ってと、そういった明美の言葉を、忘れてはならない)
赤井はポーカーフェイスを作り直す。
そしてノックいて居間に戻れば白馬は息子を相手にチェスをしている。
勝負は拮抗していて二人揃って丁々発止という進行だ
「桜ちゃんは寝付いたかい?」
「はい。 少し寝ぼけてごねましたが。やっと」
「寝る直前でしたからね。 ―… じゃあ、お父さん。 勝負はまた今度。」
「おや、折角優勢だったのに残念だ」
「そうですね。 でも、チェスは逃げません。それに勝負はこれからだったんですから勝負なんてわかりませんよ」
探はチェスのコマを元に戻して棚に戻す
「すまないな、久しぶりのゲームの邪魔をしたようだ」
「大丈夫ですよ。僕も少し調べる事がありますし。 赤井さん。 父との話が終わったら、桜ちゃんと一緒に寝てあげて下さいね? まだまだ甘えたい年なんですから」
「解っているよ。探君。」
探は一向にした様子もなく場を外した。
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