Act-11 温盛
総監との話が済んだのは深夜過ぎ。
1時を回ろうとした時だった。

ばあやさんが用意してくれたウィスキーとブランデー、氷、ビターチョコやチーズの摘みでセキュリティで幾重にも保護され固まったノーパソを開いて情報を交換する。

「すいません。話込んでしまって。 朝は何時も6時に家を出られると伺っていたにも関わらず…」
「明日―… いや、今日はスケジュールをゆっくりと組ませなおしたから心配はいらない。 朝、8時に迎えがくる事になっている。」
「そうですか。 ―… あ、自分が片づけます」

カチャカチャ、とグラスを片付ける白馬を止める赤井。

「総監は少しでも休まれて下さい。 明日は確か―… だった筈です」

声を低めた赤井に白馬は苦笑する。

「さすが情報通な赤井君だ。ならば、片づけは君に任せるとしよう。飲み足りなければボトル1本開けてくれて構わないよ。グラスはシンクに入れておいてくれればいい。下手に片づけるとばあやが五月蠅いからね。 そうそう、泊まるんだから、朝食は君も一緒にな。朝食の時間は6時だ。」
「ありがとうございます。是非。」
「おやすみ」
「おやすみなさい」

赤井は軽く頭を下げてグラスをキッチンにもっていく。

ばあやがお手伝いさんを躾てるのか、シンクは綺麗に光るように磨かれている。
赤井は氷の入ったタンブラーと水の入ったボトルグラスを丁寧に洗い籠の中に伏せて置く。
子供が乗るような台が用意されているのは桜が夜中に喉が渇いておりてきた時に水を入れられるようにという心遣いなのか。
ディズニーのキャラクターの硝子のコップがさり気なく置いてある
ふと、冷蔵庫をあければこれ見よがしに桜の好きな林檎や苺のジュースのパッケージも目に入る

(可愛がってもらえるのは嬉しいんだが、な…)

そして、2階にあるバスルームでシャワーを浴びてパジャマに着替えると足音を殺して桜の部屋に入る。
赤井用にと用意された客間もあったが、桜と供に寝られる日はアメリカに居た頃と違って激減する。

ばあやが様子をみにきた時に枕元に置いたのか、お気に入りのウサギのアリスを抱いているのをみて赤井は口元を緩めた。

「桜―…」

ダブルベッドなので赤井が潜りこんでも狭くはないが縫いぐるみは邪魔なのでそっと取り上げてベッドサイドの椅子に置き直した。

熱もなく、呼吸も穏やかでぐっすりと眠りこんでいる。

赤井は桜の額にキスを落とすと自分の手が冷たくないかを確かめてから首に触って脈を確かめる。

規則正しい心臓の音。
微かに残るシャンプーの香り。

子供にしては低い体温だが、それすら愛しい。
赤井の温盛を感じたのか、身動ぎをして胸に顔を寄せてくる。

(日本に連れて来たのが正解なのかどうかは分からない。 ―… だが、帝丹小学校にはあの、江戸川コナンがいる。 そして、組織にいた時、何度かあっている宮野志保によく似た少女―… 瞳の色も赤茶の髪も同じだが、年が違い過ぎる。)

推理しなくてはならない事は沢山ある。
そして、任務に失敗した為に、結果、明美は死んだ。

(任務で近づいただけだった女、だった。 任務の為に、俺はジョディと別れ―… 傷つけた)

ジョディは平気な顔で任務に失敗した俺を出迎えた。
そして、失敗の原因を作ったキャメルは、新人と一緒になって、任務をこなした。
失敗したのは自分の所為だと。

(お前だけは)

赤井は自分の躰の中にすっぽりと収まってしまった少女を抱きかかえるようにして、目を瞑る。

(お前の両親も姉も見つからなければいい。 そう願うのは俺のエゴかもしれない。 子供らしく。組織の事なんか綺麗に忘れて。)
(無くした記憶の中でお姉ちゃまに会いたいだろう? そして、ジンにも会いたいのかもしれない。)
(だが、俺は、二度と、お前の声を武器として使わせるような世界に戻したくない。 お前の声で癒されているのはパパだけではないのだと。―… いつか、全てを話してやりたい)

赤井は様々な事を考えているうちに久しぶりに深い眠りの世界に入っていった。
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