Act-15 故郷
「此処? 教会じゃ無いの?」

桜は小さな寂れてお参りに来る人が要るのかどうかもわからない寺をに続く門を見回す。

「此処は無縁仏が8割だからな。日本ではお寺に葬る場合が多い」
「パパのお友だちは、無縁仏?」
「あぁ。 両親は小さな頃に死んだと、聞いている。彼女だけじゃない。 此処に眠るのは身元不明とか名前がわから無い人達だ。」
「兄弟は」
「さぁ、な? 居るのか居ないのか」

「可哀想な人達」
「そうだな。だからな、お前の唄で、慰めて欲しい。」
「聖歌でいいの?」
「勿論。何でもいい。 お前が唄いたい曲を好きなだけ。 読経より喜んでくれるだろう。」
「唄いたい曲を好きなだけ? いいの?」
「今日は特別だ。 だが、お前の体力が持たないと判断したら2曲目だろうと無理矢理にでも止める。」

桜は墓地に続くを見る

(ジン兄と同じ言葉)
”お前が唄いたい曲を好きなだけ”
(ジン兄に、お姉ちゃまに会いたい気持ちはこの墓地に眠る人たちと同じ…)

「赤井さん」

探が声をかける。

「この墓地の周囲の安全確認が取れました。先程通った分かれ道から機動隊が一方通行にして迂回するように看板を立てました。」
「そうか」

赤井は子供には少し足場の悪いのを見て桜をひょい、と抱き上げて肩に乗せると靴を持つ。

「門まで少し距離がある。落ちない様に掴まってろ」
「うん」
「じゃ、僕が靴を持って行きます。 赤井さんは桜ちゃんをしっかりとホールドして下さい。」
「桜、靴くらい、自分で持てるよ。探君はお線香とか持ってくれてるもん」
「だーめ。桜は落ちない様に赤井さんに抱きついてる事。」
「ありがと、探くん」
「どういたしまして」

探はビニール袋に靴を入れると地元の花やで買った菊の束と前もって用意しておいた線香を持った。

「ー……」

じっと、寺の周囲を見渡す桜

小さなハミングをしてるのは唄う曲を選んでいるのだろうか。
童謡に讃美歌も混じってる。

「何を、唄ってくれるんでしょうね、桜は」
「さぁ、な? だが、私達は、あの子を守ってやらなくては成らない。 桜が拉致されて居た組織は、強大だ。 お前が追いかけている、もう1つのマーケット並に、な」
「そうですね。」


赤井は、寺の門の前で探が置いた靴を履かせてワンピースを直す。

門をくぐれば、袈裟懸けの僧侶が独り、黙って頭を下げる。

「桜。 この寺を守ってる僧侶の安良様だ。」
「初めまして」
「こんな寂れた寺にようこそ。―… 赤井さんもご無沙汰しております」
「こちらこそ、無理を言って申し訳ない」

穏やかな空気は僧侶だから、なのか。

桜はにこりと笑う。
僧侶がまとって居る空気は穏やかだが、墓地は違う。

キョロキョロと墓石を見つめてる。

「桜?」
「んー…?」
「どうした? 墓地はこっちだ」
「うん…」

視線が、ふわふわと、泳ぐ。

(泣いている人達が、いる。 家に帰りたいといっている。 遠く離れたふるさとは何処?)

ディーヴァとしての記憶。
リサイタルで歌い手達が私を呼ぶハミングに重なる。

私は歌媛

組織が誇るセイレーン……

どんな場所で唄おうと、私の歌う場所が舞台。
オペラハウスだろうとカーネギーホールだろうと墓地や教会、小学校の教室だろうと、
そこが私の居るべき舞台。

組織にいた時、私の声が裏切り者を捕まえる為の武器だった。
でも今は

この時だけは
この墓地で泣く魂の為に歌ってあげよう。

”唄いたい曲を好きなだけ”
ジン兄。
ジン兄は、何処に居るんだろう。
大好きなジン兄。
大好きな秀パパ。


今だけはパパの友達の為に、迷い嘆く人の為に。


♪・・・・・・・・♪


兎追いし かの山 小鮒釣りし かの川
夢は今も めぐりて、忘れがたき 故郷


♪・・・・・・・・♪

名前の分からない遺体の墓石に刻まれるのは無くなった日と、僧侶が善意で付ける戒名のみ。

足場の悪い墓石の間を縫うように歩いて透き通った声を響かせる。

(泣いている人達がいる。 でも、私はセイレーン。 船を迷わせる事も、導くことも出来るローレライ)

家族の所に還れるように、唄ってあげる。
私の声に導かれて、迷う事なく還りなさい。


♪・・・・・・・・♪


如何に在ます 父母 恙なしや 友がき
雨に風に つけても 思い出ずる 故郷

志を はたして いつの日にか 帰らん
山は青き 故郷  水は清き 故郷


♪・・・・・・・・♪


透明な声が響き渡る。

桜には赤井たちの姿は映らない。

映るのは、家族の元に帰りたいのに還れない魂たち。
帰りたくても帰れない私の心…


(私が、貴方たちを送ってあげる。)


桜は墓石が人であるかのように唄い続ける。


♪・・・・・・・・♪

もしも僕が小鳥ならば
そして一対の翼があれば
君の元へ飛んでいけるのに
でもそれは叶わぬこと
僕はここにひとり

Bin ich gleich weit von dir,
Bin ich doch im Traum bei dir
Und red' mit dir.
Wenn ich erwachen tu',
Wenn ich erwachen tu',
Bin ich allein.

遠く離れていても
夢の中では そばにいて
君と語らう
目が覚めれば
僕はひとり

Es vergeht kein' Stund' in der Nacht,
Dass nicht mein Herz erwacht
Und dein gedenkt,
Dass du mir viel tausendmal,
Dass du mir viel tausendmal,
Dein Herz geschenkt.

夜の時は過ぎず
心は夢から覚めぬ
思い起こすは
君の贈り給いし数多の心


★ドイツ民謡 小鳥ならば


♪・・・・・・・・♪


何処までも伸びる透明な声。

近隣の住民が窓を全開にして聞き惚れる。

それは、涙こそ流さないが赤井を始める、和尚や小僧、探と白馬の心の奥底を癒し、赦し、警備に当たる警察官のギスギスして緊張溢れる心の金線を震わせるのに充分な唄声だった。
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