Act-16 唄の力
「っつたく、なんで迂回しなきゃならねーんだよ。」
「仕方無いじゃない。機動隊警備の二股を、近道だからと、強行したら捕まるのはお父さんだよ? 日帰りじゃ無いんだから。」
「俺は天下の名探偵だぞ! 眠りの小五郎だって云えば通れたのに、てめぇらが迂回するからて! つったく幸先悪ぃじゃねーか!!」

ブツブツと車を回す小五郎

「でもさ、おじさん. 名探偵だからこそ、人の見本になる事が大事だと思うよ。 コネ使って二股の近道通ったのを見られたら”眠りの小五郎を尊敬する”沢山の人達のお手本に成らないじゃない? 」

コナンは眠りの小五郎を尊敬する、という言葉に業と力を込めて云う

「そ、そぉかぁ?」

小五郎はコナンの言葉に満更でもない顔をする。

「おじさんの好きなヨーコちゃんだって、マナーを守るドライバーの方が好きだと思うよ、ね、蘭姉ちゃん」
「コナン君のいう通りよ。 特別扱いを断る位のマナーを見せないと。名探偵なんだから!」

コナンの言葉に蘭が便乗する。

「折角ヨーコちゃんが地方ライヴですが、って招待席くれたのによぉ。ライヴ前に会う手配もしてたンだぞ。 有名人って辛いなぁ〜〜 あぁぁぁぁ ヨーコちゃん」
「だったら尚更だよ。 ヨーコちゃんのマネージャーさんの連絡先知ってるんだからさ、迂回ルートで行くので、遅刻したらすいませんって、電話かメールをすれば大丈夫。 有名人が寂れた墓地に気付いて急遽お参りをすることになって、安全確認の為、近いルートで行けなくて迂回ルートで行く事になりましたって、言えばいいじゃない」
「でもなぁ」
「特別扱いで近道で会いにきてくれるより、たとえ、遅刻したとしても迂回ルートで一般のドライバーマナー優先の方が格好いいと思うよ」
「けどなぁ」
「コナン君の方がよっぽどしっかりしてるじゃない。新一だったら、誰が来てるか興味津々推理之助で嬉々として通るだろうけど、お父さん迄そんな恥ずかしい真似しないでよ!? ね、コナン君」
「そ、そうかなぁ?(って、ガキの姿プラス機動隊相手じゃ部が悪くて迂回ルート進めただけだっつーのに、蘭のやつ)」

コナンは溜め息を吐く。

「ー………? れ? 」

コナンはかすかに漏れ聞こえる音に耳を澄ます。

車の中に響く沖野ヨーコの歌とは違う声。

「お、おじさん、一寸、CD止めて、窓開けて!」
「あ〜? ヨーコちゃんの新曲なんだぞ!」
「CDは逃げないよ! 窓を開けて! 早く」
「ヨーコちゃんの新曲………」

毛利はブツブツといいながらも音を止めて、窓を開ける。

「声が聞こえる。」
「声?」

蘭は小首を傾げて耳を済ませる。

「ー……… ホントだ。お参りしてるのって、有名な歌手かしら? ソプラノ? オペラ歌手見たいに通る声ね」
「うん。 おじさんも車止めて聞いてみなよ! 」
「あー? 俺にはヨーコちゃんの声が一番なんだけど、まぁ、たばこ1本吸う間なら、 」

小五郎は呟きながらも車が止められる場所を見つけて止める

同じような目的の車が数台止まって、聞き惚れている人達の中、一組の夫婦がぼろぼろと泣いている。

「な、何かあったんですか?」

蘭が聞く

「あ、いえ。 さっきからあの歌声聞いてるんですけど、死んだ両親を思い出して。 お、親不孝しっぱなしだった、から、ここ数年間お墓参りも、してなくて」
「俺も、親父とお袋から勘当同然だった、から。 ずっと会ってなくて」
「父さんが危篤って病院から連絡、有った時、会いに 行けばよかった、母さん、今、独り暮らしで、足、悪いのに、私はっ 田舎暮らしは嫌だって、この2年位帰ってないし。」
「―…… なら、電話の1本もしてやりゃあ良い。 それに旦那の御両親は健在なんだろ?」

小五郎が聞く

「良い嫁じゃなかったから。何時も反抗して、仕事優先で」
「会いに行ってくればいい。 勘当同然でも子供は子供だ。」
「でも私、3年前に流産して、仕事ばかりしてるからだって2度と顔を見せるなって。私も悪態付いて2度と会うもんか、しんじまえって。 だから、彼も、帰りずらくなって。私を連れて帰って来るなと。だから、彼、お兄さんの結婚式にも招待して貰えなくて行けなくて、お祖父さまの7回忌の時も日をずらしてお参りに行って………」
「あ、ー…… 義理とはいえ、そんな悪態つかれたら俺も勘当するか叩き出すだろーなぁ。そいつぁ、1発殴られるのを覚悟で謝るしかねぇよ。」

小五郎がポリポリと頭を掻く。

「俺も売り言葉に買い言葉でテメーらなんか親でも兄弟でもねぇって啖呵切っちまったしな」
「でもっ! 今度も流産したら、私」
「大丈夫だよ、おばさん。」
「坊や?」
「聞いてご覧よ。 今、聞こえているのはアメイジンググレイスだよ?」
「ぇ?」
「アメイジンググレイスは赦しの歌だって、知ってる? 」
「赦しの歌」
「さっきグノーのアヴェマリアも歌っていたよ。車の中で讃美歌も聴いた。 でも、どの曲も人を赦して、愛する歌だよ。」
「ー……… 有り難う、坊や」
「御礼は、多分、むこうの墓地で歌ってる人にいってあげて。 無縁墓地らしいんだけど、そのお墓に気がついた外国のオペラ歌手が歌ってるんだって」
「ー……… オペラ歌手。」
「うん。凄い声だよね。こんな所まで聞こえるんだから」
「ホントよね。 まるで天使の声。 ね、コナン君。 新一が聞いたら羨ましがると思わない?」

蘭が何気ない言い方でくすくす笑う

「新一、兄ちゃん?」
「だって、ホラ、新一は超絶音痴だから! ヴァイオリンも引くけど、癖があって上手とはいえないし。 …ってコナン君は新一のへったぴな歌、知らないから分からないわよね」
「そ、そんなに、下手、なんだ?(わーるかったな! 探偵には必要ねーんだよ、歌が上手じゃなくても耳が良い方が大切なんだっつーの)」
「もっとも本人は上手だって思ってんだから平和よねー。」
「新一兄ちゃんかわいそー」
「あら、いいのよ、これ位いっても聞いてないから! あーんな音痴の歌より、今歌ってる歌手の声の方が素敵だもん」
「そ、そう、だね」

コナンの頬が引き攣る
(ま、確かにな。墓地から此処まで風に流されてるとはいえ此処まで聞こえる程なんだからー… 蘭たちが聞き惚れても仕方ねーけど。 しかも鍛えられた、自信のある声。)

「よし! 決めた。 此れから親父の家にいこう。 親父達には俺が謝る! もし、お前を認めないなら、土下座してでも認めさせる! お前と、赤ん坊は俺が守る!! でもって、仕事の折り合いつけて、お前のお母さん、こっちに呼ぼう!狭いマンションだけど、ちいさな4畳半があるからそこの荷物片づけて、1週間でも2週間でも遊ぶ感覚できて貰って!  もし、遠慮するなら、俺達が、会いに行ってもいい」

ゴゴゴゴゴ、と、背中に炎を背負うような勢いで拳を握りしめる男。

「よっ! 格好いいぞ! その息だ。 もし、何か在ったら、この、毛利小五郎が乗り込んでやる。」
「お、お父さん! 探偵は必要無いでしょう!」
「頑張って、おばさん。今、お腹の中にいる赤ちゃんが味方になってくれるよ。 僕らも応援する。それでもダメなら、毛利のおじさんが話つけてくれるから」
「有り難う。坊や」
「行こう! 幸い今日は土曜だから、親父が止めてくれなきゃホテルを探せばいい」
「うん! 私、ちゃんと、お義父さんとお義母さんに挨拶してみる!! この子を抱いて貰う為に。」

ぼろぼろと泣きながら頷く夫婦に、蘭も貰い泣きをする。
夫婦は、細く高く響き渡る声に、向かって丁寧に頭を下げると、小五郎達にも頭を下げて、車に乗り込んだ。

「歌って、こんな力も持つんだね。 綺麗なだけじゃなくて、全て赦してしまうような。」
「俺にとっちゃヨーコちゃんが一番だけどな。 けど、ヨーコちゃんの次にいい声だ!」
「もう!」

蘭は溜め息をつく。

(に、しても、この声ー……… 白銀の声に似ている。 墓地の場所は聞いてねぇけど。 けど、白馬警視総監の家に居候しているっつーんだから、週末に行くって言ってた墓参りも無縁墓地って事はないだろうけどな。)

コナンは溜め息を付いた。
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