Act-17 魂の浄化
墓地の間を縫うように広範囲の音程を自在に操り歌う桜

明美のお墓に連れて行く前に、墓地の中をゆっくりと歩いて何かに話しかけるよう童謡を歌いだしてしまった。
故郷から始まって、アヴェ・マリア、讃美歌、得意のアメージング・グレイスにオペラ。
いずれも赦しの歌や愛の歌。
墓地本来が纏う嘆き悲しむ魂も天に行ったのではないかと思える位静まり返っている。
少し小高い山の中腹にある墓地は、いつもは鳥がさえずる場なのだと聞いていたが桜の歌に鳥たちも羽音を立てる事がない。

炎天下ではなく、曇りとはいえ、此れだけ歌うという事は躰に可也の負担が掛かっているだろうと赤井は考えた。

教えた訳でもないのに最後に立ち止まったのは広田雅美の名前で彫られた墓標
警察病院の死体安置所から、組織が回収して打ち捨てた明美の遺体。
遺体発見当時は顔も分からず指紋や耳紋すらも分からない状態だったという。
明美の遺体だと判別できたのが奇跡に近い。

(すまない、明美)

赤井には謝る事しか出来なかった。
組織の残虐性は十分知っていたのに後手を踏んだ


♪・・・・・・・・♪

It's a world of laughter, a world of tears
It's a world of hopes, a world of fear
There's so much that we share
And it's time we're aware
It's a small world after all

There is just one moon and one golden sun
And a smile means friendship to everyone
Though the mountains divide and the oceans are wide
It's a small world after all

It's a small world after all
It's a small small world

世界には
笑顔もあれば 涙もある
希望もあれば 恐怖もある
僕らは分かち合うものを沢山共有している
皆、もう気付く時なんだ
結局世界は小さいんだから

月はたった一つ 黄金の太陽が一つある
笑顔は 全ての人達にとっての友情なんだ
山に隔たれ 海も広いけど
結局世界は小さいんだから

やっぱり世界は小さいんだ
小さな小さな世界なんだよ

It's a small world(小さな世界)


♪・・・・・・・・♪


USAのディズニー・ランドには2回程連れてった。
トロピカルランドと人気を2分するほどの人気のアミューズメント。
不協和音だらけで閉口した顔はしたものの、愛くるしい縫いぐるみやお姫様や王子様のいる魔法の国はいたく気に入った様で終始ご機嫌で、BAUのガルシアとJJが揃って超お薦めと云われ、勝手に予約されてしまったレンタル衣装のお姫様のドレスルームを見て瞳を耀かす。
銀色の長い髪を生かしてラプンツェルのドレス。
髪には、イミテーションだが花を編み込んで貰って化粧をして、買ったばかりのダッフィーベアの縫いぐるみを持てば周りの視線を集める。

"パパ! 桜もお姫様になれる?"
"勿論だ。いつか素敵な王子様が現れるだろう"
"ミニーちゃんにはミッキーが、デイジーにドナルドがいるように?"
"あぁ、勿論だ"
"じゃあ、王子様がくるまでは、秀パパが桜の王子様になってくれる?"
"お前は十分にお姫様だよ、プリンセス・サラ"
"ホント?"
"だが、勿論、パパが認めるような王子様じゃないと嫁にはやらないぞ"
"え〜? パパより素敵な王子様なんていないもん。 桜、お嫁さんになれない"
"さぁ、どうだかな?"

普段は早く寝かしつけるがディズニーランドにいる時は特別だ。
心臓疾患の後遺症の関係でアトラクションの殆どは乗れなかったが、木陰でパレードを見て、夜は花火、早起きをしてベランダでゼッケンをつけたキャストのリハーサルを見る。
ホテル宿泊客限定者しか買えない、季節で服のデザインが変わって、売り切れ御免の縫いぐるみが沢山欲しいとねだられる。
ガルシアとJJ、何故かホッチまで加わったお勧めのホテルの部屋はかなり上のランクのVIPルームでミッキー&ミニールームと呼ばれる部屋だったが、日差しが強い昼のパレードは桜の躰には悪いからと、部屋のバルコニーでみた方が良いと言われて、その時は、休憩をかねてしまえばよいかと納得した。

人気のパレードだけにキャストが勢ぞろいするスポットエリアのメイン広場がホテルの南正面
ダンサーや縫いぐるみたちがバルコニーに向って手を振ってくる
微妙に見難いと強請られて抱っこをせがまれる。
ミッキーやミニーの投げキスに歓声を上げて俺の顔を遮るように桜もぶんぶんと投げキスを返して両手を振って挨拶すればダンサーや下でパレードをみている観光客たちも手を振り返したり投げキスを返してくれる
これで、ご機嫌にならない筈がない。

「桜、サラ! 頼む、危ないから手を振ってパパの目を遮らないでくれ!」
「や!」
「や! っていわれてもな、視界を遮られるとパパがお前をホールドしてやれないから困るんだ!」
「降りるとミッキーもミニーも観れないもん!」
「つったく。困ったお姫様だな」

パレードが終わるとVIPフロア宿泊階限定のサービスラウンジでジュースを飲む。

「いーい!? 赤井さんが泊まる部屋はVIPフロアなんだから、ラウンジはぜーったい!! 行くべきよっ!! 置いてあるお菓子もメニュー・ドリンクも宿泊料金に含まれているんだから朝7時から夜11時まで。他のフロアの宿泊客は入れないラウンジだkらゆっくりできるわよ。あ、ラストオーダーは10時半よ」
「無料、なのか?」
「そ! なんでもかんでもオールで無料。チョコやらスナック、ビールのつまみになりそうなサラミとかは取り放題でおいてあるわ。」
「それから果物にオレンジジュースとリンゴジュースに珈琲」
「夕方8時から11時まではアルコール類が追加されるんだけど、無料よ! 」
「まぁ、赤井が好きな強い酒がおいてあるわけじゃないけどな、あーゆー場所で無料の酒と思えば美味い」
「ミニパンケーキ程度の軽食程度なら食べれるぞ」
「僕、ガルシアとJJのお土産でラウンジのスナックを貰った事あるけど、美味しかったよ」
「カクテルもキャラクターイメージのあって可愛くてねー」
「ヘンリーなんかチョコとスナック菓子ばっか食べてた。あと、夏に行ったもんだからアイスばっか。お腹こわすんじゃないかとハラハラしたわ」
「うちのジャックも同じだ。冬だったからホットチョコレートばかりで見ているこっちが胸やけしそうだった」
「ホットチョコ美味しいもんねー。 私も好き! 夏のアイスココアは頼めばミントも追加してくれるのよ」
「まぁ菓子類は土産で売っているものと殆ど同じものだがな。」
「―…」

話題に付いて行けない赤井と勝手に盛り上がるBAUのメンバーに頭をかかえそうになったのは今でも覚えている。

お姫様のコスプレをしていたからだろうか。
パレードを見終わると日差しの強いなか外に出たがりそうなのをみて赤井は止める。

「ガルシアたちがラウンジを覗いてみろ、と教えてくれたんだ。色々な菓子やジュースもあるみたいだから少し寄ってみないか?」
「お菓子! うん!」

菓子、の言葉に釣られるのは子供ならでは

ラウンジキャストや一息入れてる宿泊客から"プリンセス"と呼びかけられて嬉しそうに返事をする。
娘を褒められて嬉しくない親はいない。
沢山の縫いぐるみが置かれたラウンジでフレッシュジュースを飲んで、お菓子を食べて
覚えたばかりの It's a small world をご機嫌で唄ってしまってラウンジにいた客が驚いてお姫様のプチコンサートだと喜んでウェイトレスがディズニーのカードをプレゼントしてくれた
ドレスをワンピースに着替えさせようとしても嫌がり、ドレス姿で夜のイルミネーションパレードイベントをみる。
バルコニーのパレードも限定の縫いぐるみも桜を甘やかし放題のガルシア達の入知識と気がついたのは膨大なお土産を買わされた後だった。
その時に買ったCDで覚えた曲なのだろう。


(明美…)

赤井はチラリ、と墓石を見る

(桜は、ここまで大きくなった。 組織の事は、殆ど覚えて居ないんだ。 ー……名前も未だにわからない。 今も桜を探している筈の君の妹には申し訳ないと思ってるが、俺は、この子の親として此処に居る。)

(大君)

ふっ… と明美の声が聞こえたような気がした。

(ありがとう。 ディーヴァを連れて来てくれて)
(明美?)
(ありがとう。 ディーヴァのおかげで、やっと、上の世界に行ける)
(上の世界?)
(この無縁墓地に眠る人達…… 皆、喜んでる。ありがとう)
(俺は、お前に何もしてやれなかった。 ジンに撃たれて沢山血を流して、死んでからもなおも傷つけられた)
(そんな事ない。)


there’s so much that we share
(私達は沢山の思いを分かち合っている)
smile means friendship to everyone
(笑顔は誰にとっても友好を意味している)
that it’s time we’re aware
(だから、今こそ気づく時です)
it’s a small world after all
(結局、世界は小さいのだということに)


(ねぇ? もう、私の事は心配しないで? ディーヴァの御蔭でジンに撃たれた所も痛くないの。)

明美の声が聞こえる

(私は、ディーヴァの名前も大君の本当の名前を知らないけれど、彼女の声が持つ能力は知っているわ…)
(明美?)
(確かに、私は身元が分からないような姿で捨てられてしまった。 でも、こうやって埋葬させて貰った。 本名じゃないけど、名前も掘って貰ってる)
(それは俺の力じゃない)
(でも、大君は、こうしてちゃんと来てくれた。 それだけでいいの)
(もう、苦しくないのか?)
(ちっとも! ディーヴァの力が組織に傷付けられた躰を綺麗にしてくれた。)
(桜が)
(桜ちゃんというの?)
(桜は自分の名前を憶えてない)
(でも、ディーヴァは、大君、貴方の名前を知っている。)
(あぁ、知ってる)
(ディーヴァをお願い。何時か、志保に合わせてあげてね?)
(わかってる)
(志保は、優しいから、きっとディーヴァを探してるわ)
(そうだな。 この子の姉を探して、家族を探して―… いつかは、志保にも合わせてやりたい)
(約束、よ? )

「明美……」

赤井は広田雅美の墓標の横に、明美の姿をみたような気がした。
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