Act-18 星に願いを
「赤井さん。もう、いい加減に止めないと。 桜ちゃんの上体が揺れてきてますよ」
「そうだな。もっと聞いていたいが、そろそろタイムオーバーだ」

探の言葉に赤井も同意する。
白馬が前もって用意しておいた桜の好物の苺のジュースを入れた水筒を確認する。
赤井が桜の傍に寄ろうとした時、小さな躰が何かに操られるように歩き出した

♪・・・・・・・・♪

When you wish upon a star
makes no difference who you are
Anything your heart desires
Will come to you

If your heart is in your dream
No request is too extreme
When you wish upon a star
As dreamers do

Fate is kind
She brings to those who love
The sweet fulfillment of
Their secret longing

Like abolt out of the blue
Fate steps in and sees you through
When you wish upon a star
Your dreams come true
Dreams come true...

輝く星に 心の夢を
祈ればいつか叶うでしょう
きらきら星は不思議な力
あなたの夢を満たすでしょう

人は誰もひとり
哀しい夜を過ごしてる
星に祈れば淋しい日々を
光り照らしてくれるでしょう

(When You Wish Upon a Star/星に願いを / ピノキオ)

♪・・・・・・・・♪

最後にしっとりと唄ったのは星に願いを。
どこで唄うのかと思ったら、お寺の門。
階段を下りてしまうのではないかとガードが慌てて飛んでくる。

門で立ち止まった桜はすぅっと指を天に向かって差し示す。
まるで天への道を示すように。

そんな桜をみていた和尚が目見開いて数珠を握り締める

星に願いをはディズニーランドの七夕のイベントの時に流れてて桜はとても気に入って、ピノキオのミュージカル。
子供だけに配られるカードに番号がかかれており、舞台の前に妖精が大きな箱からカードを取り出す。
選ばれた10名の子供たちが物語の最後に舞台に上がってピノキオにおじいさん、妖精と一緒にテーマ曲を歌ってカードを貰えるというその10名の中で最後に選ばれた。
可也手を抜いて唄ったものの、伸びのある声だけは隠せない。
最後はソロになってしまって観劇している人全員の拍手を浴びてにっこりと膝をおって挨拶までして見せた

妖精やおじいさん、ピノキオにハグされキスもされて嬉しそうに舞台から戻って俺の胸に飛び込んできた。
イベントフロアから出る迄注目をあびて、そのフロア近辺でソロで唄い納めた客を見ようとたむろって去ろうとしない奴等の目をどうやって晦まそうかと考えていたらピノキオが出て来て目を引いたタイミングでスタッフがこっそり裏口から出してくれた。


「桜、歌はそこまでだ。」

そろそろ限界だろうと唄い納めたタイミングでそっと抱き上げる

「パパ? だって、ここに眠る人たちは、寂しい、家に帰りたいって云って、るの。もっとー……」
「もう、充分だ。 パパの友人も、ここに眠る人たちも皆、天に上っただろう。 きっと、お前に感謝してる」
「ほん、と?」
「これ以上はお前の躰が持たないだろう。」
「で、も」
「いったろう? お前の体力の限界はパパがよーく知っている、これ以上唄い続けたら倒れるぞ。入院は、したくないだろう?」
「うん。でも、お墓で眠る人達が、」
「これ以上は駄目だ。」
「そうだよ、桜ちゃん。 とても、綺麗な癒されるような歌だった」

イチゴのジュースが入った水筒を差し出す探。

「ほんと?」
「ホントだよ。 はい、沢山唄ったから喉渇いただろ? 苺ジュースをどうぞ?」
「ありがと!」

苺、ときいて水筒を受け取るとごくごくと飲んでいく。

「お嬢さん。」
「?」

墓地を護る和尚が穏やかな瞳を向ける。

「私は、僧侶として長くこの無縁墓地を守ってきました。この中には法の裁きを受けた人達もいます。 死んでしまえば皆善人―… といいますが、許せない人がいるのも事実。たまに、犯罪者に墓を与えるなんて、という電話がありますが、犯罪に走るにはそれなりの理由もあった筈。 そんな彼等がどんな思いで死んでいったのかは、拙僧には分かりませんが、教を上げて宥めていた墓地がお嬢さんの歌声で隅々まで浄化されたように感じます。」
「和尚さま」
「お嬢さんの声は、癒しの声です。」
「―… ここで、眠る人達は、天国に行った?」
「えぇ。 きっと。そして自らの罪を悔い、時を経てまた産まれかわるでしょう。」

桜は疲れたように、赤井の胸に顔を埋める

「あぁ―… 沢山唄ったから疲れたな。ありがとう、桜」
「歌手は体力勝負ともいいますからな。 あれだけの音程を操るのは大変な事ですよ」

和尚が云う。

「―… 和尚様、庫裏にお茶の御仕度が整いました」

パタパタと小坊主が寄ってきて頭を下げる。

「そうか。 庫裏の奥部屋に客用の布団を敷いて差し上げなさい。 総監方に茶を点てる間、そこで躰を休めさせてあげましょう」
「あ、お気づかいなくー…」
「いえ、待って下さい、赤井さん。 和尚のお言葉に甘えて少し時間を置いた方がいいようです」
「何かあったのか、探」
「桜ちゃんの声の影響ですよ、あっちこっちで車が止まって一寸した渋滞になってるようです。今、降りたら大騒ぎになるかもしれません。」

スマホで護衛と連絡を取っていた探が答える

「―… やれやれ」

唄い疲れたのかごしごしと目を擦っている娘を見つめて優しく背中撫でながら口角を上げる赤井。

「二股路でこのお寺に上がろうとする強者もいたようです。 凄いですね。地元の民放のTV局が報道の自由だなんだと機動隊と押し問答になってるようです」
「放映されるのはこまる、な」
「それは私の方で一報を入れよう。放映したら番組キャスト総入れ替えの申し入れをしてもいい」
「申し訳ない。 此処までの影響は考えていませんでした。 せめて2〜3曲にとどめておくべきでした」
「この寺の自慢になりますよ。 有名な海外のオペラ歌手が立ち寄ってくれた、とね」
「和尚…」
「さ、ご遠慮なさらず。 大した持成しはできませんが、茶だけは良いものをおいてますでな」
「是非休まれて行って下さい。 和尚様は茶の湯を嗜まれていて、月に2回檀家の方に教えられているんです。半年に1回は京都の本家師範の方々に教えに出向かれる程なんですよ」
「ほぉー… それ程の御腕前なのか。 確かに以前頂いたお茶も美味かったが」
「なに… 昔取ったなんとやら、でございますよ。 若い頃はなんでこんな女々しい習い事をと反抗しましたが、今はそれが役にたっております」
「では、お言葉に甘えるとしようか。」

白馬が云う。

「桜ちゃんも瞼が落ちてしまってますし。この騒ぎの中、車で寝るよりはいいかと思いますよ」
「そう、だな」

すぅすぅと眠りの世界に入ってしまっている娘を見て赤井は苦笑する

「さ、どうぞ」

穏やかな空気。

ふわふわと金色の光をみたような気がした。
腕に抱いている娘を囲むような光

「どうしました?」
「―… いや、誰かにありがとう、と云われたような気がしただけだ。 空耳だろう」
「いいえ。」

和尚が否定する。

「きっと、墓に眠る仏たちがお礼を言いにきたのでしょう。」
「仏が」
「このような墓地には迷っている不幽霊たちも存在します。彼等は人の目には見えませんが、お嬢さんの歌で天への道を見つける事ができたのでしょう」
「そんな事が」
「自殺した人はその罪の重さで直ぐに天に行く事が出来ません。 霊魂となっても同じ場所で繰り返し繰り返し。 ―… デパートから飛び降りた場合は何度もデパートから落ちるのです。そして本人は死を受け入れず、”また、死ねなかった”とデパートから落ちるの事を繰り返すのです。 その死を受け入れて、そしてその罪を悔いた時に、天に昇れるのですが、それは簡単な事ではありません。 それを、お嬢さんは独りで、歌の力で浄化をしてしまった。 だから、天に浄化される前に親である貴方に礼を言いに来たのでしょう。」
「桜が」
「お嬢さんはミューズの祝福を受けた子と伺いました。 霊の一人独りの力は微々たるものですが、沢山集まると恨みにもなります。 その恨みを唄で浄めてしまったのですから、やっと上に行ける事を許された霊たちが、お嬢さんに礼を言ったのでしょう。」
「桜にそんな力が」
「お経でも聖書の言葉でも魂に伝わる波動は同じ。 お嬢さんはまだ気づいてないかもしれませんが、超一流のヒーリング能力資質を持っておられるのかもしれませんな」
「あぁ―… そうかも、しれないな。 どんなに疲れていてもこの子の歌を1曲聞けば癒される」
「ならば、その力を悪い事に使われないように僕がしっかり守りますよ」

探が云う。

「桜ちゃんは僕の護衛対象でもあるんですから。」
「そうだったな。」

我関せずと眠る桜はあれ程歌ったにもかかわらず呼吸も穏やかだ
庫裏にはお香が炊かれ、しゅんしゅんと湯が沸く音はとても穏やかだ。
和尚の抹茶を点てる動作は水の様で出された菓子は寺に植わっている栗の樹の実を甘く煮詰めた甘露煮。
飾られているのは道端に咲いている名も判らない野花。

「今日は最高の日になったな」
「本当に。桜ちゃんの唄と、美味しいお茶と菓子と。」
「全くだ。抹茶が飲めるかは知らないが、菓子を食べ損ねたと知ったら剥れるな。」

赤井が奥部屋で眠る桜を見て小さな溜息を吐く。

「でしたら、少しお持ち下さい。小さな瓶しか有りませんが幾つかお入れしますでな」

和尚が穏やかに答える。

子供連れでお茶を習いに来る女性もいる為、子供達が昼寝をする時の為に用意してある作務衣を寝間着代わりと出してくれたので有りがたく借りた。
サイズ違いで幾つか用意してある服だが、子供達が境内で遊ぶ時は小坊主が1人遊び相手を
寂れた無縁墓地だがそれは見た目で、とても落ち着く寺である。

「久し振りに心の洗濯をさせて頂いた礼にございます。」
「ありがとうございます。 探君、そろそろ落ち着いたんじゃないないか?」

30分程ゆっくりとした時間を過ごした時、ガードの一人が庭から回って静かに頭を下げたのをみて赤井が声をかける。

「そうみたいですね。」
「ならば、私が一足先にでて様子を確認しておく。 探は赤井君と桜ちゃんとあとから来なさい。念の為ガードを1名残しておく」
「分かりました」 ―…赤井さん。桜ちゃんは」
「良く寝てる。起こすのは可哀想だが、着替えさせないと。桜―…」

ぐっすり寝ている桜に近寄りそっと声をかける赤井。

「良ければ服はそのままお持ち下さい。子供用の作務衣はまだ、ありますでな」
「しかし」
「起こしてしまっては可哀想です」
「―… ではお言葉に甘えてさせて頂く。」
「着替えと靴は僕が持ちます。赤井さんは桜ちゃんを起こさないように背負ってあげて下さいね
「確かにこの眠りの深さじゃ暫くは起きんだろうしな」


When you wish upon a star,
Your dreams come true.
(星に願いを掛けるとき、君の夢は叶うだろう。)

When you wish upon a star
makes no difference who you are
Anything your heart desires
Will come to you
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