Act-20 もうひとつの招待状
「小泉さん」
授業が終わり、部室に向かう生徒、帰宅部の生徒が騒めきだす放課後。
柔らかい声で声をかけられて小泉紅子はカバンに詰めていた教科書から顔を上げる。
転校してきて2週間足らずだが、あっと云う間に学校中の女生徒からラブレターを受け取る羽目になってしまったイギリスからの帰国子女である白馬探。
「何か御用かしら? 白馬君?」
「はい。 実は小泉さんに伺いたい事がありまして」
「わたくしに?」
「小泉さんが占いを趣味としている―… といいますか、得意だと伺いまして」
「それが何か?」
「実は、桜ちゃん―… いえ、僕の家で預かっている子が、お友達を招いてチャイルド・パーティをしたいと言い出しまして、来月の第2週か第3週の土曜日がお暇なら是非ゲストとして来て頂きたらと思いまして…」
「チャイルド・パーティを催されるの? 素敵ですわね。 小さな時からパーティになじむというのは後々の為にも大切な事ですわ。 でも、それがわたくしが伺うのとどのような関係がありますの?」
「実は桜は今迄アメリカにいたのですが、そのアメリカで長く入院していたので、パーティがどんなものなのかまだ知らないんです。で、初めてのパーティですので、できれば楽しいイベントを考えていたのですが思いつかず、そうしたら小泉さんがプロ顔負けの占いをすると伺ったので」
時間の都合が合えば子供達に楽しい占いとかをリーディングとか見せて上げて頂けませんか?
やんわりとそう聞かれて紅子は黙り込んだ
「私の占いは遊びじゃありませんのよ? 人を生かす事も殺す事もできる魔術ですの。 お子様相手の遊び相手なら黒羽君にマジックとかをお頼みになってみてはいかがかしら?」
「僕も最初はイベント企画会社に楽隊とかピエロとかマジックとかを頼もうとしたのですが、桜にピエロは兎も角、不協和音の楽隊やマジックは却下と一刀両断に捨てられまして」
「―…あら、まぁ」
はぁ、と溜息を吐く探。
興味津々と話を聞いていたクラスメートが、マジックを得意をする黒羽快斗の方をみれば、なぜか口の端が引き攣っている。
「マジックが嫌いなんですの? その桜ちゃんという子は」
「嫌いな訳ではないと思います。 ―… アメリカで東洋のマジシャンと云われた人の舞台―… と、云ってもTV録画なんですが、 そのマジシャンのビデオをみた時は繰り返し何度も観ていたと聞いてますし、そのマジシャンの話はしてくれます。 なので、イベント企画会社のマジシャンの画像をみせてみたのですが…」
「ですが?」
「言葉が悪くて申し訳ないのですが、一言でいうとこんなレベルでマジシャンなのかとボロクソに散々貶しまして。」
「―…ボロクソって…」
紅子は マジックという言葉に反応して聞き耳を立てていたが、一刀両断に切り捨てられたという言葉の当たりから顔を引き攣らせて始めたクラスメートの一人に視線を巡らせ、探もそれに気づく。
「あぁ、すいません。 黒羽君もマジックを勉強しているんでしたね。 僕はマジックを馬鹿にする気はないのですが、桜は心臓疾患で産まれてから殆ど病院生活で外に出られず長い事入院していたものですから色々と目が肥えてるようで」
「それとマジック嫌いとどんな繋がりがあんだよ?」
ぶすっとした顔で云う黒羽
「ICUと病室を行ったり来たりの日々だったので外で遊ぶ事もできないのは退屈で可哀想だからと、体調の良い日には病室で勉強を見たり、TV特集の録画を見させていたんですが、その中に世界中の一流のプロマジシャンの特集があったとかで、デビューしたてのようなマジックは面白くないと。」
「心臓疾患で入院していたのにパーティなんて大丈夫なんですの?」
「えぇ。 移植の後遺症もでずに無事に退院しまして。 父親が日本で長期赴任するのに伴って連れてきたのですが、シングルファーザーですし、留守がちになるとの事で付き合いのあった僕の家で預かる事になったんです。 後遺症はないと言っても月に3日の検査入院は必要で、体育の授業も駆けっこもNGなんですが、小学校に行ける位になったんですよ。 最も長期入院の影響で外に出れない日が多かった所為で紫外線にも弱い子なので学校の送り迎えは必要なんですが」
「そうですの。 でも、小学校という事は白馬君とは随分年が離れてますのね?」
「まだ6歳です。 何回か、危険な状態になって。それでも頑張って、やっと退院したのは半年程前ですからそれまで子供らしい楽しい記憶は殆ど無いのと同じ。 僕が桜と知り合ったのはアメリカで2ケ月位前の事です。」
「それでチャイルド・パーティを?」
「外国では6〜7歳からパーティの経験をさせますからね。 小学校で初めて同年代のお友達ができて、お外ではまだ遊べないけど家の中で遊ぶ位なら、と父が子供だけのパーティを進めてくれたんですが、パーティにはピエロやマジックとかの華が必要でしょう?」
ホテルでの堅苦しいアフタヌーンランチパーティではなく、家庭での楽しいパーティにしてあげたいので
探はにこりと笑うが、一般家庭でアフタヌーンパーティをする時にマジシャンやピエロやら楽隊等を呼ぶという感覚はないのではないかと紅子は思った。
「僕もイギリス留学をしてましたからクラスメートが妹や弟が誕生日にかこつけてピエロやマジシャンを呼んでのチャイルド・パーティを開くのを良く見てました。 それに、イギリスで探偵なんてしてましたから、ヤードの人達から参考資料として色々なビデオを見てますし。」
「警察…? ヤードの関係ってその子は警察関係の子か?」
「はい。桜の父はとても優秀な捜査官ですが、それが問題でしょうか?」
「あ、い、いや、別に。 でも、その子が見たビデオは、そんなに―… 凄いマジックだったのか?」
興味をもったらしい黒羽だが父親も警察官だとして口の端が引き攣る。
(い、いや 俺がKIDだとバレた訳じゃねぇんだから、落ち着け俺…!!)
「らしいです。 残念ながら僕は1度だけ、参考程度にしか見てなかったのでなんともいえませんが、東洋一のマジシャンと呼ばれてたらしいです。」
「ふーん? 東洋一、…ねぇ? マジかよ?」
「その特集の中に”怪盗KID”と名乗るのマジックを使った犯罪者も入ってまして、桜はその犯罪者の声がいいとお気に入りですよ。声をかけているけど東洋一のマジシャンの声と同じだと言ってました。ちなみに犯罪者番号1412」」
「声…」
「今日本を騒がしてる怪盗KIDと同じ名前なんだ? バ快斗はその怪盗KIDが大好きだからそのビデオがあったらダビングしたがるんじゃない?」
探と快斗の会話を聞いていた青子が面白そうに割り込んでくる
「残念ながら僕は持っていないんです。イギリスのTV局かヤードに盗みに入れば手に入るかもしれませんね。 ですが所詮は世界の犯罪者の特集番組でしたから。―… どうかしたんですか、黒羽君?」
「っ―… なんでもねぇよ! 所詮6歳児に怪盗の魅力を説くのが間違いって事さ」
「あぁ。 そういえば、今、日本警察を振り回してるのもKID、でしたね。 桜もそのニュースはTVでみた事があるらしいのですが、初代と同じ衣装の模倣犯。 犯罪用語でいうとコピーキャット、効果音と躰の動きもあってない、超優秀なITの専門家の知り合いがいる子なのでその人に調べて貰って正体を調べて貰って、腕の筋でも使えなくなるようにしてやりたいとか、今のKIDに同情したい位な言い方をしてました。」
その言葉に快斗は頬を引き攣らせて青子は我慢しきれずに爆笑する。
「はははっ!! 白馬君には良い妹さんがいるんだねー! 桜ちゃんも最高!!」
「そうでしょうか? 気にいらない事があると口が悪くなるので女の子があれではいけないと再三注意はしてるのですが。」
「いいって! 義賊だろーがなんだろーが犯罪者は犯罪者! ね〜バ快斗!」
「うっさいな!! 日本警察はその義賊を捕まえる事ができねーじゃないか! つまり義賊の方が一枚上って事だ」
「そう、でしょうか?」
「え」
「僕には業と同じ衣装をしているように思えてますし、できれば現行犯で捕まえたいと思ってるのですが。」
「―…」
快斗は黙り込む
「話がそれてしまいましたが、どうでしょう? 大人は論外とはいえ、子供達は占い好き。 綺麗な女性に占ってもらえると、招待した子供達も喜ぶのではないかと思いまして」
「そう、ですわね…」
紅子は少し考え込む
「よろしいですわ。 来月の第2なら土曜日、第3週なら土曜と日曜で予定が開いていますから。 子供達に正しい未来を示してあげるのは大人の役目ですものね」
「ありがとうございます。 ではすぐに日程を決めて、来週中にも招待状をお送りいたします。」
「承知しましたわ。 占い師らしい服を用意して、箒にとんがり帽子とか水晶やタロットも持って行ってあげますわね。」
「ありがとうございます。 お礼は何も出来ませんが、ばあやが自慢の料理を沢山作ると今から張り切っておりますので。」
楽しみにしていて下さい、とにっこりと柔らかな笑みを見せる
「白馬君はその子を随分と可愛がっていますのね?」
「はい。 何しろ父も母も娘が欲しかったと日ごろから云っておりましたし、父親同士が仕事の関係で顔だけは知っているもので。 僕にも満面の笑みで懐いてくれたので妹も同然のようなものですよ。 ばあやも桜の事を滅法気に入り、初めて会った時に大きくなったら僕の嫁にもらうのだと云った程で。」
白馬の言葉にクラス中からどよめきが走る
「あらあら大変なばあやさんをお持ちですのね。 ロリコンの噂がたってしまいましてよ?」
紅子がくすくすと笑う
「ですが、ばあやは白馬の家の人間の胃袋をガッチリ掴んでますからね。 下手に逆らえないんですよ。 桜だって、もっと大きくなったら僕なんかより素敵な恋人を作ると思うので、いい迷惑と思ってるかもしれません。」
パチリ、と悪戯っこのようにウィンクをする白馬
「そうですわね。 では、招待状が届くのをお待ちしておりますわ。」
「ありがとうございます。 桜も喜びます」
探はにっこりと笑みを返した
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