Act-09 海外任務
組織に入って初めてのリサイタルの警備が終わり、翌日、俺は1日の休暇を貰った。
その後、金髪の小狼や警備主任とスリーマンセルでの任務を幾つかこなしー…
そして本部から3ケ月近くの海外任務を命じられた。
上海にあるカジノでの集金やら組織を裏切って逃亡中の元構成員の処分。
トンボ返りのように日本と海外を云ったり来たりで、付合っている明美とのデートもままならず、電話での身近なやり取りばかりだった。

たまに日本に戻っても報告書を提出して、その2日後にはまた海外……。

「仕方ないわよ。 大君は私と違って期待の新星だもの。 幹部になるかなれないか見極められているんだわ……」

明美は電話口でそういった。

「済まない。 できるだけ早く終わらせるように努力しているんだが……」
「いいのよ。気にしないで。」
「だが……」
「怪我をせずに帰ってきてくれればそれでいいの」
「勿論。」
「そうそう。 志保が久しぶりに連絡をくれたんだけど……」
「志保が? 随分と久しぶりに聞く名前だ」
「もう、意地悪ね。 志保は私と違って忙しいのよ」
「すまない。そうだったな。何時もは必ず顔を出してるリサイタルも実験の都合で来れない程忙いと聞いた」
「良く知ってるわね」
「警備の先輩幹部がな、そう言ってたんだ」
「そう。」
「どうか。したのか?」
「ううん。 なんでもないの。 志保が電話で教えてくれたんだけど、大君のコードネームが決まったそうよ。」
「俺の?」
「日本に戻ってきたらお祝いしなくちゃね」
「ああ……」
「もう…… 気安く大君、なんて呼べないね……」
「そんな事はない。明美にはいつまでも名前で呼んで貰いたい」
「でもね、組織が…… 許さないわ」
「2人だけでいる時位構わないさ。それに志保の事を名前で呼んでいるだろう?」
「組織に呼ばれている時は呼べないわ。 最近は…… 歌媛様に掛かり切りで…… あまり会えなくて」

明美の声が寂しそうに変わる

「ディーヴァに、か?」
「リサイタルは組織の軍資金か集めって知ってるわよね」
「ああ? ディーヴァ の姿や声を盗撮録画で賭けになってたな。 この間のリサイタルで初めて聞いたが…… 見事な声だった。それまでは明美から噂しか聞いてなかったからな」
「あ、あのね? ディーヴァ様は……」
「え?」
「志保が…… ディーヴァ様 をとても可愛がってて…… この所ずっと 会えなくて」
「それは ディーヴァに嫉妬してるのか?」 
「変かな? 歌媛様と志保は幹部同士で…… 仲がいいって聞いてるけどその歌媛様がどんな子なのかは一言も教えてくれないの……」
「ディーヴァの姿形は一部の幹部しか知らないTop Secretだからな」

諸星は溜息をつく。

「この間、俺は偶々贈り物の果物を控室に届ける機会を得たんだが、ディーヴァはカーテンの奥にいて1歩も姿を見せなかったぞ。」
「そう」

明美の言葉が曇る

「志保は今、取りかかっている研究を一段落させないといけないからって休日返上で実験室に籠ってて」
「そう か……」
「躰…… 壊さなきゃいいけどって」
「……大丈夫じゃないか? お前の妹なら」
「だといいんだけど」

トントンと肩を叩かれれば、腕時計を示される。
集合時間まであと10分。
俺は解ったと手で合図を送る。

「済まない。もうホテルを出る時間なんだ。来月には日本に帰れるから」
「あ あの…… ね!」
「どうした?」

電話を切ろうとして明美の声にクローズボタンを押すのを止める

「ううん…… なんでもない。 行ってらっしゃい」
「ああ。 お前も風邪とかひかないようにな」
「ありがと」


この時の俺は…… 明美が口ごもったわけを知らなかった。
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