Act-22 リトルパーティ
席について取り分けられたカップスープとキッシュとスコーンを前に”頂きます”を言った後。
挨拶が終わるか終わらないかで元太は片手でスープ皿を取り上げると、あちっ、ウメーと言いながらごくごく、ずずーっと音をたてて一気に飲み干すとガチャンと置き、スコーンを取り上げ、大口でかぶりつき、クローテッドクリームとジャムを置いてある硝子の皿を漁るように口の中に、文字通りほおりこんだ。
皿に盛られたサラダに一口チキンをあれだこれだと口に押し込んでむぐむぐと咀嚼して、ミルクピッチャーのミルクを飲み干して一息ついたのかげっぷをする。
それこそあっという間で、食事を味わっていないだろうとしか思えないスピードに桜を始め、ばあやと一緒に給仕を手伝ってくれているメイドまであっけに取られてしまう。
「れ? おめーらまだ食ってねーのか? いらねーなら俺が食って… いてっ」
あっという間に自分の皿と分けられたスコーンとキッシュを完食した元太は、手の付けられてない違う種類のキッシュを大皿ごと取り上げようと手を伸ばしてばあやにペチンと手を叩かれる
「食欲があるのはいい事ですが、食べるのが早すぎでございますよ。 次々に口の中にいれたら味わう事が出来ません。一つの料理を食べ終わってから、次のを食べるのがマナーでございますよ。 それからスープ皿はマグカップではございません。両手で掴みあげて音を立てて飲むのは御法度です。」
「父ちゃんがスープは1滴も残すなって、ラーメン屋で言ってるぞ、 一気にかき込んでずずーっと飲み干すのが男の食い方だ! ちまちま食うのは男じゃねぇってな!」
「元太くん、これは丼じゃ無いんですよ。 本来スコーンはジャムを塗ってクローテッドクリームを塗ってゆっくり味わって食べるものなのに、スープを一気のみしてキッシュを一口で放り込み、スコーンを齧ってスプーンでジャムとクリームを口にそのままいれるんですから」
光彦は呆れたように説明をする
「だってよー。 すこーんなんてでっかいクッキーだろ? 味がちょーっと足りねぇからジャムとクリームを貰っただけじゃねーか? スープ皿は持ちにくいし、ミルクだって、うちじゃああの10倍はある大きなマグカップで一気に飲んでるぜ!」
「…あ、あの、ですね…! ジャムとクローテッドクリームは皆が付ける分もあったんですよ! それを勝手に自分で食べてしまうなんて!!」
「ミルクは紅茶用なの… 最初にアッサムティーを出す予定だったからお好みでミルクティが出来る用にシナモンスティックと一緒に用意しただけなのよ………」
元太の言葉に桜が言う
「ジャムとクリームは一人分じゃなかったのか!?」
「皆で分けて付けるんですよ! 一人で全部抱え込んでスプーンですくって食べるなんて礼儀に反します!」
「あ、歩美、スコーンにジャム付けてクリーム付けて食べるの、とっても楽しみしてたのに…」
「私と江戸川君は我慢するとしても吉田さんと円谷君と紅子さんは…」
「わたくしも大丈夫よ。クローテッドクリームなら爺やに頼めば買ってきてくれるでしょうし」
呆れたように友人たちから見られてやっと自分の食べ方がおかしかったと気づいた時には皆の分で綺麗に盛られていたジャムも濃厚なクローテッドクリームも元太が同じスプーンでてんこ盛りにして皿ごとかかえてバクバクと胃におさめた後、だった。
「ばあや、クローテッドクリームはまだ残ってる?」
「桜嬢ちゃまに言われて旦那様方の分も大目に取り寄せましたから。 ジャムはまだまだございますよ。 嬢ちゃまの提案で4名分ずつに分けて置いてようございました。お変わり分を持ってこさせます」
「ぇぇ、お願いね。 あと、スープの変わりにミルクをマグカップで。」
小さな溜息を吐く桜を見て、ばあやがメイドの一人に頷くけば、小さく頭を下げてパタパタとサンルームから出ていくメイド。
「さすが白銀さん。最初から分けておくなんて、元太君の事を御見通しだったようですね」
「見通してはいないわ。テーブルが大きいからあっちこっちと動かすのは面倒だと思ったの。 スコーンは、おじさまも好きだし、明日の朝食にも出せるから沢山焼いて、メイドさんや警備の人たちの休憩時間のおやつにして、入荷の少ないクローテッドだから、おじさま達にも付けてあげようと、思って………。」
「悪ぃ… け、けど!美味かったぜ!」
ぐすん、と少し目を潤ませた桜にうっと息を飲む元太
「桜さんのせいじゃないです。 悪いのは元太君ですから!」
「そ、そうだよ! 桜ちゃんは悪くないもんっ」
「だ、だって」
「桜。招待した方がそんな顔をしては駄目だよ。 クローテッドクリームはまだ有るし、取り寄せたのとは違うけど、スーパーに行けば買えるんだから。 ね?」
「うん。」
"必殺! 国宝級美少女ビスクドールの泣き落とし" 戦法のような顔になった桜を宥める光彦と歩美。
そして、やんわりと嗜める探。
(完璧に白銀のペースにはまったな、こいつら)
探は兎も角、光彦と歩美はわたわたとなっている。
「兎・に・角っ! 次のメニューからは元太君の分は、一番!最後です! あれもこれもと皆の分まで取りかねませんから」
「んな事しねーよ!」
「言い訳無用! テーブルマナーが一番悪いのは君です!!」
コナンの決めポーズではないがビシリと指を指していう光彦に歩美がうんうんと同意する
「とりあえず仕切り直しね。 クローテッドクリームとジャムは直ぐに新しいのを用意して貰うわ。 ミルクもね。 あ、私は牛乳NGだからストレートの紅茶になるけど、皆はミルクでもストレートでも好きにしてね。 元太君は食べちゃったから仕方ないけどマグカップにたっぷりな牛乳をピッチャーで用意させるわ。スープが冷めちゃうから召し上がって」
「は〜い」
「え〜〜 おれの料理は!」
「元太君は自分のスープのんじゃったし、スコーンもサラダも食べちゃったでしょ! ばあやさんが止めなきゃ皆の分も食べちゃったでしょ!! 歩美、食べ方が下品な人嫌いだもん」
「ぐ・・!」
桜に続いて歩美にも言われて元太は黙り込む
「美味しい! 綺麗な金色だね。」
「元太君ってばこんなに美味しいスープを味会わずに一気に飲んでしまったんですね」
「子供達の言う通り、久しぶりに美味しいスープですわ。 コンソメで此所まで濃厚だけとあっさりとした味を出せるなんて、白馬君と桜ちゃんのお誘いに感謝いたしますわ。」
一口飲んだ歩美と光彦が云い、紅子が続ける。
「蘭姉ちゃんが作るコンソメはコンソメキューブで作ってるけど、同じコンソメでここまで味が違うんだね」
「ありがとう。 これね、アメリカのカフェ・クリストファーのコンソメなの。 2日かけてじっくりと煮出して作ってるのよ。 私がお茶会するって話をどこで聴いたのか先週、日本旅行の予定と重なったからとわざわざスープを作りにきてくれたのよ。 材料は太田市場と築地で買ってきたのを段ボールで運び込んで、どこだかの井戸水を取り寄せたのを持ち込んできたよ。 学校から帰ってきてもう吃驚。ばあやもメイドさんたちも飛び入りの料理教室タイムになってるんだもの。 残念ながらスープはおじ様やメイドさん、SPのお兄さんたちにも出してあげたいからお変わりはないけれど。 昨夜の飛行機で帰国したから紹介できないのが残念だわ」
「このコンソメとチキンライスだけはばあやにも真似ができません。嬢ちゃまがコンソメとチキンライスだけはクリストだファーの方が好きだと仰ったわけが分かりました。 一度レシピを習いに修行に行きたい所です」
「アメリカのカフェ・クリストファーって、あの世界中のセレブ御用達の、超高級レストラン? あのレストランのシェフは大金積まれてもケータリングはしねぇ筈…」
「江戸川君はクリストファーのオーナーシェフを、知ってるの?」
「オーナーの事は知らねぇけどカフェの事なら知ってる。 一見の客はどんな有名人であろうとも入れない。1回目は必ず招待者との同行が必要なレストランだろ? 俺も未だにはいれね―… じゃない、新一兄ちゃんのお父さんですら、初めて見つけた時に入店を断られて、招待されてからやっと入れるようになったって言っていて、新一兄ちゃんは今だに連れっててもらってないから父親と母親の名前出しても入れないっていっていたから。」
「確かに、カフェクリストファーの味のようだと思いましたけど。 日本でいただけるなんて思ってませんでしたわ。 わたくしもアメリカに行くときには予約を入れますのよ。 ボランティアにも積極的なオーナーでしたわ。 そこのシェフが日本旅行の最中にわざわざ来るなんて余程のお付き合いをしてますのね」
「ボランティア?」
「バックヤードで障害者を雇ってるの。 野菜の皮をむくとかペーパーナプキンをセットするとか畳むとかの軽度の作業で。ちゃんとお給料も出しているのよ。 福祉の社員さんが何人かいて彼等を手助けに入ってて、リハビリかねて月に2回位料理をテーブルに置いたり珈琲を注いだりとかする日を作ってるのよ。」
「クレームは来ないのか?」
「一寸珈琲をこぼす程度でクレームをつけるようなお客様はクリストファーには居ないわ。 障碍者を雇っているのは公開してるし、彼等のクッキーは売り切れてると残念がるような方々よ。 クリストファーは障碍者だからと区別はしない。 足が不自由でも料理は上手な人がいる。 手が不自由でも語学に優れた人がいる。 言葉が喋れなくても聴覚が優れてる人がいる。 目が不自由なのにとても綺麗に手早くナプキンを折る人もいる。クリストファーの評価が高いのは差別をしないという所よ」
「中々と出来ない事だわね」
「彼等が作るクッキーはとても美味しいのよ。 沢山持ってきてくれたから、後で少し出すわね。 一寸不恰好なのもあるのだけど味は一流のお店並よ」
「そんなお店があるんですね。僕も大きくなったら差別のない人間になりたいです。」
「歩美も!」
「オーナーが聞いたら喜ぶわ。」
「さっきから黙っている白馬くんは、そこのオーナーとはお知り合いですの?」
「正確には母がですが。イギリスにいた時には何回か行った事があります。」
「お母様?」
「カフェクリストファーの今の制服デザインは母が考えたものなんです。3年事に公募して替えるんですよ。」
「そんな頻繁に変えるの?」
「条件はデザイナー歴10年以上。 デザイナーの国籍は問いませんが半年かけて選考してテーブルクロスからナプキンから作り替えるんです。古いのはサンプル以外焼却処分です」
「そんなに?」
「テーブルクロスにも制服にもクリストファーのロゴとデザイナーのロゴをいれます。」
「つまり有名になるって事なのか?」
「残念ですが宣伝するのは禁止です。」
「ぇ」
「気が付く人だけ気が付けばいい。だから目立つ場所へロゴを入れないのも条件なの」
「桜ちゃんも行った事あるの?」
「パパがね、お店のオーナーシェフが恐喝された時に警護を付けるなら彼がいいって、パパを御指名してきたの。 その時以来のお付き合いよ。 桜がチャリティで唄う時、オーナーはお店を休館にして料理を振る舞う勢いで沢山のクッキーを持って来てくれるのよ。 勿論リボンにもカフェとデザイナーロゴが入ってるわ。 一度クリストファーがチャリティに出店するというのをネットで出したら当日は長蛇の列…」
その時を思い出したのか小さな溜息を吐く桜
「で、オーナーも一度で懲りて次のチャリティからは一切ネット公開はしない事にしたの。」
「それは凄いわね」
「そういや、1年位前にカフェクリストファーのクッキーを親父が…」
「親父?」
「あ、いや、新一兄ちゃんが優作おじさんの事を親父って呼んでたから。つい。優作おじさんがね、1年位前に偶々立ち寄ったチャリティコンサートでそこのクッキーをみつけたから買ってきたと、土産にもってきた事があったんだけど、新一兄ちゃんは不恰好なクッキーはいらねぇって食べなくて、そのまま蘭姉ちゃんにあげてたなって」
(蘭からお裾分けにと、クリストファーのクッキーを貰った園子がリボンをみて目を丸くしていた。元々チャリティに熱心なカフェだったが、クッキーを出す、という事は無かったと驚いていたのを覚えてる。 あの鈴木財閥がイベントでカフェクリトファーに破格の金額でケータリングを頼んでも首を縦にふらなかったと云ってた店が、白銀さんのために日本に来た、と?)
「優作… 工藤優作さん?」
「新一兄ちゃんのお父さんを事知ってるの?」
「カフェのオーナーから聞いた事があるわ。工藤夫妻は常連の一人で、パパと一緒にお会いした事もあるのよ。息子さんは好奇心が強すぎてカフェにつれてくることができないといってたけど。」
「そ、そうなの?」
「カフェには有名人が沢山いるの。 優作さんと有希子さん以外にもお目にかかった事があるわ。 有希子さんはスピード狂いらしいわね。桜が乗ったら発作を起こしそう。それにショッピングで連れまわされるの嫌いだし」
「あ… あはは(詮索にスピード狂にショッピングか。 当たってるだけに反論できねー)。確かに、か… 有希子お姉さん、凄いスピードだして運転する事あるし、買い物大好きからね」
コナンは渇いた笑いをする。
「でも、あのクッキーはいつも午前中に売り来ててしまうのに。よく買えたわね」
「そうなの?」
「早い時は2時間位で完売しちゃうのよ。売上は主催した教会の収益になるの。 桜が所属していた聖歌隊はチャリティでは人気なのよ。」
「つまり白銀さんの所属する聖歌隊ファンクラブの会員ってトコかしら」
「ふふっ!」
哀の言葉に探が答えて桜が小さく笑った
(本当に似ている。 でもこの子が彩華ならどうして日本にいるの? 私も組織も必死になって探してるのに。 ―… 恐らくジンは今でも探している筈。 銀の髪に私と同じ瞳。 あのまま公安とかFBIに保護されたとしたらなぜ証人保護をかけて海外に生活基盤を移してないのかしら…)
「桜ちゃんは歌がとてもお上手だと、白馬君が言ってたけれど、チャリティで歌うとなると、そこらのレベルではないという事ね。向こうのチャリティコンサートはプロの歌手がサプライズゲストで来る筈ですもの」
「紅子さんは本当によくご存じですね。 食事が落ち着いたら桜が何かしら唄ってくれると思いますよ。―…ね?」
「うん。」
桜はにこりと笑った。
キッシュは数種類あって、その内の一つは元太のリクエストに応えてカレー味だ。
育ち盛りの子供達は次々と胃袋におさめていく。
それはコナンも例外ではない、
スープを味わう事もなく飲み干して、スコーンも自分の分をあっさり胃におさめてしまった元太は歩美たちの感想に味を思い出そうにも出せず、スープ皿は片づけられて変わりのマグカップにたっぷりのホットミルクで会話に加われなかったが、その後はキョロキョロと皆の食べ方を見ながらキッシュやサラダを食べていく。
紅子が時々簡単なタロットゲームを披露したり、部屋の何処かに隠してあるという季節外れのエッグハント。
卵に見立てた楕円形の球体が6個、サロンの何処かに隠してあり、それぞれにケーキの絵柄が書いてある
そのケーキは15センチサイズと小さいがそれは個人個人のお土産の引換券になると聞いて元太と光彦と歩美は大張り切りだ。
哀はスタート2分であっさりと見つけて傍観者になる。
コナンは眼鏡を使わないように眼鏡を没収されて皆より5分遅れの卵探し。
歩美はアップルパイで哀はブルーベリーパイ。
元太がレモンパイで光彦はチョコレートタルト。
コナンはオレンジケーキ。
紅子はエッグハントには不参加で残ったものでいいと云った為にチーズスフレとなった。
エッグハントが終わり桜が1曲歌い終わる頃、仕事で家にいる事が出来なかった白馬の父親が顔を見せた。
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