離別編Act-2 罠
正直に言って、白銀があの赤井さんの養女だと知った時は驚いた。
潜伏中に偶々救い出す機会があって保護したもの高熱を発して救急搬送。
病院で心臓移植の治療があり、その技術は超を付けても足りない程の高度医療だった事から組織にとってはそれだけ価値のある子供だと想定された。
意識を取り戻した時は自分の名前を覚えておらず、親の事も何を覚えてなかった事から赤井さんが仮名を付けて保護者となった。
俺が教えて貰ったのは其処まで、だった。
それ以上知りたいなら、誰にも頼らず、自分の経験と推理で捜せ。
と言われた。
「一流の探偵なら自分だけの人脈と推理で解答を導きだせ。ホームズの時代には盗聴機もスケボーもなかっただろ? ワトソンと出会う前、彼は1人で解決していた。 人や武器に頼るなら探偵を名乗るな」
「明美さんにもそう言ったの?」
「明美の事を出せば俺が全て言うと思ってるなら赤ん坊からやり直せ。 俺も、坊やの秘密を知っている。証拠付きで世界に公表するのは容易い事だ。」
「なっー……」
病院の屋上で俺が考えた事は、赤井さんもとっくに考えていた事だった。
「俺の娘は嘘を見抜く耳を持つ。 坊やは絶対音感があると聞いたが、桜は絶対音感と絶対聴覚を併せ持つミューズの祝福を受けた娘だ。 声で桜を騙せると思うなよ。 坊やのアイデアは俺も考えた事でもあるが、やり抜く自信はあるか?」
「でも、そうしないと組織の目を欺けないんだ! 灰原の事を護るには阿笠博士だけじゃ足りねーんだ!! 白銀には白馬の家の護衛もいるじゃねーか! 僕の考えた計画に全面的に乗ってくれなきゃ困るんだ! 死んだ明美さんの為にも」
灰原の姉である宮野明美さんの事を使えば、赤井さんはNoとは言わない。
だから、明美さんの名前を使った
白銀桜は日本警察のTOPである警視総監の家にいる。
灰原には誰も居ない。
万一の事があったら解毒剤の研究に支障が出る。
俺は、1日も早く元の姿に戻りたい。
それが、
まさか、此処まで恨みを買うとは、思ってなかった。
赤井さんが事故を起こすのは夜中の予定だったから、その明け方までには白馬邸に連絡が入って、忌引きで休む―… そう思ってた。
なのに指紋などの確認が遅くなって、連絡がきたのは1時間目が始まってから、だった。
正門にパトカーに先導されたばあやさんの車が止まり、白馬の兄ちゃんが体操選手並みの身体能力で柵を飛び越える。
白銀は眼を丸くしているし、外を見ていた白銀に注意をしようとした小林先生迄が見とれる程の綺麗なフォーム。
警備員のおじさんが警察官と二言ほど話すと慌てて門が開かれると数名の警察官が玄関に向かう。
あの何時も冷静な白馬探がバタバタと教室に駆け込んで来て、皆が白銀の方を向いた時、俺は独り顔を背けてしまった。
白馬の兄さんから何事かを耳打ちされランドセルに教科書をしまう間に、護衛で付いてきたSPが小林先生に小声で説明する。
先生が顔色を青くして、コクコクと、頷くのを見て、俺は今頃事故発覚かよ…… と思った。
数名のSPに囲まれるように守られて唇を噛み締めて早退する白銀。
そして、小林先生が「白銀さんはお父様が交通事故に巻き込まれたので早退になりました。お父様の容態次第ですが、暫くお休みになります」と誤魔化した。
確かに、小学生に事実を言うには縁起が悪い。
赤井さんの力が欲しくて、俺の計画に巻き込んだ。
白銀にはアメリカにも日本にも守ってくれる奴等がいるから
けれど灰原には居ないから。
俺は、その程度にしか考えていなかった。
そして数日後「白銀さんはお父様が亡くなられたので当分お休みです」と朝礼での報告があった。
忌引きで学校を休んでいる筈の白銀が見知らぬ男性と一緒に商店街を歩いて居る。
基本的にばあやさんの車にしか乗らない筈の、白銀が。
そして、俺の視線に気が付いたのか、怯えたような視線を向けてくる
けれど、車の後部ドアが開くと、その男性の車に乗り込んだ
(白銀!? 誘拐、とも思えないけど、白馬邸じゃねぇ方向に? 新しい護衛か? にしては隙だらけだし)
コナンはポケットからシール状の発信器を取り出すと野球のボールよろしく投げる。
発信器はギリギリの所で車の車体に張り付いた。
(万一組織絡みだったら、行先を突き止めれば―… それが本拠地だったら、組織壊滅に大きく進む)
ワクワクする。
灰原の解毒剤で大人の躰に戻って、組織を壊滅させる。
組織の連中を数珠繋ぎで逮捕する時、傍らには俺が居る。
そして、事件解決の全貌を大々的に新聞記者やTVの前で話す。
新聞の見出しは“日本警察の救世主、高校生探偵工藤新一が謎の組織を壊滅!” ってな!
いや、待てよ。高校生探偵の方がいいか?
“高校生探偵工藤新一が解き明かす世界的犯罪組織とその全貌と壊滅!” の方がTVや雑誌でインパクトが有るか?
灰原に言って、解毒剤貰わねーと!
(くーっ!! TV局や雑誌の取材に答える時の高揚感と優越感。―… ネタを話す時のあの瞬間!! 服部が悔しがる顔が目に浮かぶ。 待ちきれねぇっての!!)
コナンは口元を緩めて眼鏡のスイッチを入れるとスケボーに飛び乗った。
が、車は僅か5〜6キロ先で停まった。
(こんな近場にアジトがあるのか? )
コナンはスケボーから降りて脇に抱え込むと首を傾げる。
車が止まっているのは米花町を少し外れた閑静な住宅街
バックシートに桜が座っているのが分かる。
そして、スケボーの音を聞きつけたのかゆっくりと振り向いて、子供に似会わず、にっこりと、そして内緒、というように指を1本口にもって行く。
(ぇ? 何、だ ―…?)
罠!?
白銀そっくりな子供を使った罠、だったのか―…!?
ドクン、と心臓が高鳴った時。遊園地で背後を取られて頭を殴られたような衝撃が来た。
(やば、い。 ―…俺、は、また、事件の事だけ考えてー…… 注意を怠った)
道路に崩れ堕ちる瞬間、誰かの腕に抱え込まれた。
桜は車の後部シートでコナンが崩れ落ちたのをみてくすり、と笑った。
「油断してたとはいえ、よくやったわ」
車から降りて気を失いかけているコナンを見る桜の目は冷たい。
「恐れ入ります。」
「存外、簡単に捕まえらるものね、工藤新一さん?」
(工藤、だと? なん、で俺の名を―…)
「ふふふ… 江戸川コナンは工藤新一。 そんな事―… アメリカにいる時から知ってたわ。 黒羽快斗が2代目怪盗KID。母親はフランスを基盤にしていたファントムレディ。 父親が初代KIDで生死不明という事も。」
(な、で…)
くすくすと笑う。
「これが、追跡眼鏡で探偵バッチ。 睡眠針が仕込んである時計に 変声機付のネクタイ…… 記念品に貰っておくわ。 被害者の物を持ち去る事を犯罪用語では“コレクター”というのよ。」
霞んでいく意識の中で阿笠自慢の発明品を取り上げるのが分かった。
「途中で目を醒ましてジタバタされるのは面倒だわね―…。睡眠剤は」
「ここに。 1時間、2時間、5時間、半日ー…… の効果持続を持ってきておりますが」
「2時間のを投与なさい」
「承知しました」
チクリとした刺激があり、コナンの意識は闇に沈んだ
「眼鏡と腕時計に変声機。スマホからも何かしかのデータが獲れるかもしれないわね。身に付けてるものは服以外没収して。 ベルトもサスペンダーも靴も同じ素材で同じデザインのを作った筈よね? 坊やの躰だけシーツに包んで、車の後ろのトランクにでも入れときなさい。 躰に何も付いてなければ6歳の子供よ」
「はい、ディーヴァ様」
「小道具はジェラルミンケースにいれて電波を遮断して」
「畏まりました」
「小道具は分析班に届けるのよ。 下手に開けて電波がつながるとFBIか日本警察が蟻のように来るかもしれない。 いいわね?」
「ジン様に組織にお戻りのご報告は」
「必要ないわ。 ジン兄に連絡する時は私がします。まだ、遊んでいたいから」
「出過ぎた事を申しました。 ですが、ジン様や他の幹部の方もディーヴァ様を探しておられまして。」
「そうだったわね。 でも、いいのよ。」
「後で、バーボンの様になるのはごめんですが」
「バーボン?」
「唄媛を拉致された罪で、1年程オークションにだされました。 あと、体内にニトロが入ったアンプルを埋め込まれているとの噂です」
「オークション! あの顔だもの。 高値が付いたでしょうね。」
「金額迄は……」
「そうね。お前はまだ組織に入って日が浅い。 唯の連絡員だものね。 ならば、ジン兄には、もう少し、此方の領域で遊ぶからと連絡するわ。さ、車を出して。 例の場所へ。」
「はい」
抑揚のない声の持ち主は、まるで執事のように片腕を胸に当てると
再び車の後部シートに乗り込んだ桜を確認してからそっとドアを閉めた
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