離別編Act-3 うらみ・ます
脳裏に響くような唄が響いてコナンは嘔吐感に襲われて目を醒ました。
冷たい床の上に転がされていたらしい。
「此処ー… 俺、は」
躰を起こして時間を確かめようとポケットを探ったが全身がしびれて思うように動けず、腕時計は無く、眼鏡も落としたのかして無いのが直ぐに分かった
「気が付いた?」
くすくすと笑うのはコナンとは違って、暖かそうなソファに座っている桜
片手でもてあそんでいるのは小型の銃
「白銀、さん?」
「気分は如何? と言ってもよくないわよね?」
♪・・・・・・・・♪
うらみます うらみます
あたし やさしくなんかないの
うらみます いいやつだと
おもわれなくていいもの
ドアに爪で書いていくわ
やさしくされてただうれしかったと
あんた誰と賭けていたの
あたしのこころは幾らだったの
恨みます恨みます
あんたの事死ぬまで
(中島みゆき うらみ・ます)
♪・・・・・・・・♪
録音なのだろうか、細く澄んだ声。
「一般の歌謡曲にも存外面白いものがあるものだわ。ねぇ? 私が本気でこの唄を歌ったら脳に異常をきたして狂わせる事もできるわよ?」
くすくすと笑う桜
「でも大丈夫。可也手を抜いた、江戸川君レベル録音だから狂ったりしないわ。嘔吐に頭痛、運が良ければ風邪をひく程度よ。」
♪・・・・・・・・♪
うらみます うらみます
あたし やさしくなんかないの
うらみます いいやつだと
おもわれなくていいもの
♪・・・・・・・・♪
(なんだ、この違和感。小学生とは思えねぇ言葉使い)
「ねぇ? 工藤新一君。 私からパパを奪ったのは何故?」
「… 僕は、江戸川コナン、だよ? 新一兄ちゃんが白銀さんのお父さんを奪ったって… なんのこと?」
「藤嶺有希子の息子だけあってとぼけるのがお上手ね。」
「白銀さんのお父さんは車の事故で―…って先生が」
「赤井秀一が国際A級ライセンスを持っている事を知らなかった? FBIが誇るスナイパー。そのパパが事故るなんてありえないのよ」
「… でも、現に」
「なら。 水無怜奈がパパを撃った衛星画像を日本警察と公安、TV局にリークしましょうか? 帽子で顔を隠してたけど画像処理で直ぐわかるわ。 彼女がCIAの捜査官であると証明する事が出来ない今は、殺人者とその仲間として世界中に有名になれるわよ? 名探偵さんには助ける事が出来るかしら? 弟さんは犯罪者の弟として世間から白い目で見られる」
「なん、の事?」
「ふふっ! 教えてあげるわ。 私は白銀A桜。A、は赤井のA。FBI捜査官の赤井秀一の養女でもあるの。 ー… ここまではとっくに知っていたわよね?」
「赤井さんは時々白銀の姓を使って、た?」
「そうよ。赤井秀一は組織から狙われているから。 ー… 私もね?」
「白銀ー…?」
「私のもう一つの名前は宮野彩華 組織が誇る歌媛よ。 コードネームはディーヴァ」
「宮野!?」
コナンはビクンと顔を上げる。
「APTXを飲んで死のうとしたけど幼児化して阿笠博士の研究所でクラス灰原哀の本名は宮野志保。 ー… 父親違いの私の姉よ」
「姉妹、だったのか? けどそんな年が離れてー…… それに灰原のお母さんはおめーが生まれる前に死んだ筈」
「世の中には卵子を冷凍保存させる技術があるのよ? 私は宮野エレーナから採取された卵子を核に体外受精で産まれたの。」
「ー… そんな倫理的に可笑しいじゃねーか」
「それが、組織よ。 残念ながら宮野宮司の精子との結合は失敗したから異父姉妹になってしまったけど。」
「ー…」
「何とか育ったのは私一人。 他にも受精に成功した子がいるけれど流産や早産、機能障害で1歳まで生きられずに亡くなった子もいたとシェリーから聞いたわ」
「(そんな、理不尽な命があるなんて)」
「最も、私だって健康体ではなかったわ。 赤ん坊に必要な日光浴をさせようとして外に出せば日光アレルギーで真っ赤になって、養育係と保育士を大騒ぎさせていたそうよ。 それに、2歳の時に組織に潜入してきた狗が脱走しようとして、偶々私を治療室から部屋に戻そうとした研究員を人質に取られて心臓を刺された。」
「!!」
「私がこの声の力に目覚めたのはその時よ。」
泣き叫んで、助けを求めた。
その時、脱走を企んだ捜査官たちは頭を押さえて口から泡を吹いて苦しみ出した。
捜査官だけじゃない。
組織の人達も頭痛で近寄れなかった。
彩華!!さーや!!
事件を聞きつけて駆けつけてくれたのはすでにシェリーというコードネームが内定していたお姉ちゃまと、幹部として頭角を現してきたジンだった。
私の心臓は一度止まった。
人工心臓で命を取り留めたけれど治療には長い長い時が掛かった
(白銀が灰原の妹? なら父親は? 銀の髪の父親だとすると、もしかするとコイツの父親はジンなのか? なら灰原はジンの血はひかなくても義理の娘、という事になる)
「コナンの記憶が良くても、今の会話は忘れるわ。」
楽しそうに云う桜
「赤井秀一が宮野明美の恋人だろうが狗だろうが、どうでもいいの。 宮野明美は組織にとっては役立たずの下っ端の構成員だった。 赤井秀一は諸星大と名乗って宮野明美に接近して恋人関係になった。 ハニートラップにひっかかった愚かな女。でも、結果はシェリーから姉を奪った。」
(ー… 俺は)
「ねぇ? 江戸川コナンはそこを突いてパパに協力させていたんでしょ?」
(俺は、どこで間違ったんだ?)
「オメーは、誰、だ?」
「私? 宮野明美と宮野志保の父親違いの妹にして組織の歌媛。 歌を―… 声を武器にする唯一人の幹部。 上の姉はFBI捜査官が潜入する時に誑かされて情報収集に使われた下っ端構成員で10億円強奪犯の主犯として無縁墓地に葬られた。 そして組織の幹部として頭角を現していたシェリーは、情に流され組織を裏切った。」
「違う! 明美さんは、普通の人になりたくて!」
「そうね。でも、明美が選んだのは志保、だけだったわ。志保と二人、組織から抜け出す為に引き受けた事件。 この私からシェリーを奪おうとした。 殺されて当然だったのよ。」
「!!」
桜の言葉にコナンは目を見開く
「違う! 明美さんは! もう一人助けたい子がいるって言ってた!! 志保には懐いているのに、私には全然懐いてくれない子だけど、外に連れ出したい人が居るって言ってた! それはオメーの事だろう!?」
「低能な人間と外に出てどうなるの? お前は明美を助ける事が出来なかった。志保を日本警察に売らないのは、組織解明に協力させて、さも自分が解決したように宣伝する為」
「…それ、は!」
「鼻を天狗にしてTV局の前で事件の概要を話すのでしょ?」
「違うよ! (ー… 俺は)」
「世界的に有名推理作家の工藤優作と日本の誇る女優である藤峰有希子の名前が後押ししてくれるわ。 たとえ小さな事件でも"流石は工藤優作の息子"だと」
(!! 俺、のした事は)
「その気になればお前をここで殺すのも容易い事よ」
「僕を殺すの? (俺は、死ぬのか)」
「死にたければ、いつでも」
(死にたくない。 俺は、組織を壊滅させて、そして東洋一の探偵になりたい)
「死にたくは、ないようね?そんな顔をしている」
「…!」
「宮野明美も死にたくなかったでしょうね。貴方が事件を解決した所為で死んだ人も」
(赤井さん。俺は、どこで計画を間違った?)
"桜は見かけと違ってかなり気が強い。一歩間違うと手痛いしっぺ返しがくるぞ"
"大丈夫だよ! 新一兄ちゃんの推理が間違った事はないんだから。 そうでしょう?"
(工藤新一が立てた計画、なんだからな)
その自惚れが無かったとは言えない。
"新一君と坊やの推理力は認めるが、過信は禁物だ。 桜は嘘を見抜くからな。バレた時の計画も立てておけよ"
"大丈夫だよ。新一兄ちゃんと一緒に考えた計画にモレはないよ! 6歳の子にバレルなんて心配はいらないよ。 それに赤井さんの子なら、一時は怒るだろうけど、理解できる年になれば赦してくれるよ!
"だと、いいがな"
赤井の死が偽装だと云ったら計画がダメになる。
かといって水無怜奈の正体がばれたら―…
バン!
冷たい刺激が右足を貫いた。
「ーっ! 何を!」
「唯の、氷の塊よ。 ドライアイスのような物」
「ドライアイス?」
「これで暫くはスケボーに乗れない。乗れてもバランスが取れないからスピードは出せないわ。」
「これが、僕に対する仕返し、なの?」
「まさか? 只の戦線布告。」
「戦線布告?」
「今はまだ、命までは取らないわ。 でもコナンの指紋とDNAがベッタリついてる眼鏡や時計、スケボーは貰っておくわね? 組織の化学班―… 私の息が掛かった、私だけに忠誠を違う部隊に預けるの。」
「バーロォ… アレにはGPSが…」
「勿論、想定の上よ。電磁波を遮断する場所で、分解するわ。」
(ー… こいつ… 6歳の時の俺でも考えねぇ事を…)
「そうそう、コナン君のスマホはこれで、工藤新一のスマホはこっちよね?」
桜はにっこりと笑うとコナンの方のスマホを開けるとCDデッキを耳元まで持ってくるとボリュームを上げる
「さ、テープを聞きたくないなら解除コードを言って?」
「だ、れ、が…」
コナンは桜を睨み付ける
「そう? ならー…ヘッドホンで最大ボリュームにしてあげる。」
椅子の後ろからヘッドホンを取り上げるとデッキにセットをしてコナンの頭に当てる
♪・・・・・・・・♪
うらみます うらみます
あたし やさしくなんかないの
うらみます いいやつだと
おもわれなくていいもの
♪・・・・・・・・♪
「ぐっ…!! やめっ」
「いつまで、耐えられる、かしら?」
「ー… しら、無い。 教える、もんか!」
(新一の方には蘭の電話が入ってる。)
「そう。 素直に言えば電話は返してあげようと思ったのに」
桜は苦笑して難なく暗誦コードを解除する。
「あ、蘭? ー… 俺だよ。 実は、コナンが妙な車を追いかけて行ってさ。 …白いRX-7 小五郎のおっちゃんみたく探偵気取りのようだけど、首を突っ込み過ぎだ。 俺みてーな探偵になりたいコナンが奇妙な車を追いかけてってもおかしかねーんだけどな。 うっせーよ!! っったく、コナンが大怪我したら預かってる蘭とおっちゃんの責任だろーが?? 俺は日本警察の救世主だ。コナンとはちげーよ」
変声期付きの蝶ネクタイで電話をする桜
「走って追いかけたんだけど、コナンを見失ったんだ。 だから一応蘭にも連絡しとこうとおもってさ! 見間違いならいいんだけどな。 もう少し探してやるから、帰り遅くなっても心配すんじゃねーぞ。 連絡位いれろって説教位しといてやっからな。」
プチっと電話を切る桜
(ら、ん…)
「さて、これで多少おそくなっても大丈夫。 と、言っても事件ホイホイの死神コナン君が家に帰るのが遅いのは日常ですものね。」
桜はCDを取り替える。
「おやすみなさい、坊や。」
(赤井さん、が言う事を聞いてもう少し計画を練っておけば―… 白銀が組織に戻ったら、赤井さんは)
「パパの変わりはもう居るの。 彼には居場所を特定できるGPSが組み込まれてる。妙な事をしでかせばジンが持つスイッチを入れる。そうすれば心臓発作に見せかける液体が胎内に流れ込んで、The End」
「ー… だ、め、だよ」
と、プルルルル・・ とコナンの携帯が着信を告げる。
「あらあら、蘭お姉さん。 心配症ね。」
桜はするりと応答に出る。
「あ、蘭ねーちゃん! ー… ごめんなさーい うん。変な白い車を追いかけて来ちゃった。 事件かなーっって。 んーと。港の倉庫にいるよ。 ほら、10億円事件のあった倉庫。 でも、車、見失ったからお参りだけしてあげたいんだ。 誰も居なかったら直ぐ帰るよ」
そっとスマホを切るとにこりと笑う
「時期に警察がくるわ。運があれば無事に助かる。ー…さぁ、お休みなさい、坊や…」
♪・・・・・・・・♪
Schlafe, schlafe, holder süßer Knabe,
Leise wiegt dich deiner Mutter Hand,
Sanfte Ruhe, milde Labe,
Bringt dir schwebend dieses Wiegenband.
(シューベルトの子守歌 WIEGENLIED)
♪・・・・・・・・♪
眠れ眠れ 母の胸で
眠れ眠れ 二つの顔。
罪を問わぬ 黄泉の世界
全て忘れて 消え失せる
静かに響く桜の声にコナンは頭痛が収まっていくのを感じた
「歌媛。ご無事でしたか?」
カツカツカツとスーツ姿で姿を見せたのは褐色の肌に金髪の青年。
白い手袋をはめた状態でP7M7を握っている安室は手を後ろでに縛られて右足を討たれているコナンに目を止める。
「遅かったわね、バーボン」
(バーボン? 誰だ? 声しか分からねぇ。 顔が、わかれば)
「申し訳ありません。何しろ、組織上げてお探ししてる唄媛から直に連絡を頂くと思って居なかったので。これでもジンに云われた任務を終わらせて、直ぐに来たんです」
「そう。 まぁ、いいわ。 体内に埋め込んだ機械が取れない限り、下手に動けないものね」
「!!」
「私が何も知らないとでも?」
「いえ。」
「ねぇ、バーボン。」
「はい。 この坊やは私の大切な玩具を壊したの。 壊したのはキールだけど、計画したのはこの坊や。」
「玩具… ですか」
「そうよ。 私を組織から連れ出して、記憶が無かった間、父親になってくれた赤井秀一。 とっても気に入ってた玩具だったのに。キールが壊したの。」
「それは… 気の毒としか申し上げれませんが」
「赤井秀一は一時、組織にいたわよね? 諸星大って名前で。 私をジンの弱点としって組織から拉致しようとした公安の人間を処分したとか。 お前はその部下で幹部になる直前だったのにスコッチを撃てなくてー… オークションに出された。」
「よくご存じだ。 流石は声で操る媛でいらっしゃる」
「当然よ。この場にキールを引き出して唄をきかせてアナウンサーとしての大切な声を奪いたい位ね」
「それはー…… 随分嫌われたものですね。」
「私の玩具を壊したのよ? ジン兄なら笑って許してくれるわ」
桜はにこりと笑とソファに座る
安室はくすりと笑って床に落ちている暖かな毛布を拾い、パタパタと埃を払うと桜の膝に欠ける
「お前がこの子供を処分してもいいのよ?」
「子供を手に掛けるのは少々気が引けます。」
「ま、確かにね。でもスコッチは3歳の私を殺そうとしたわ。どちらの罪が重いのかしら? お前はそのスコッチを断罪するのを躊躇った」
「それはー… 仮にも上司でしたし、僕もまだ幹部になれるとは思ってない時の事でしたから」
「情けない幹部ね。 コードネームを貰ってもなお、躊躇いを棄てられないなんて」
「僕の専門は情報収集なのでー… 射撃は」
「つまり、宮野明美と同じ、今だに下っ端幹部という事ね。」
「きつい言葉を仰る。子供じゃなければそれなりに処分致しますよ」
「その言葉、忘れないようにね」
「はい。」
「ここは危ないわ。 倉庫を丸ごと処理して頂戴。そこらのドラム缶の中には若干だけど油だかガソリンが残ってるわ。一発撃てば火災位起きるでしょう」
「承知しました。」
と、そこへ遠くから小さなサイレン音。
「おっと。 奴等に姿を見られるのはよくありませんね。ここまではどのように?」
「ジン兄が私の直属部隊としてくれた護衛攻撃部隊の新人を迎えに来させたの。 お前に連絡を付けてあったからもう本部に帰った筈よ。 ジン兄にも連絡が行ってる筈」
(歌媛直属の部隊、だと?)
「余計な詮索をしたら声で体内のスイッチを入れるわよ」
「声で?」
「お前の躰に埋め込まれている薬剤のスイッチを入れる波動はこの耳が教えてくれる。私の声でお前は死ぬわ。」
「心得て、おきます。」
安室はにこりと笑みを見せて桜の前で膝を付く。
「っと… このデッキは再生不可能にしておかなくては」
バシュ、と銃声が響いてデッキにあたる。
「それから椅子、は燃えれば大丈夫ですね。」
椅子から降りた桜を背後にかばいポケットからマッチを取り出してソファの上に置けば昼間のように明るくなる
「コナン君。 人の後を追いたいなら状況確認を忘れずに」
残っているマッチをポンっと炎の中に投じた男はコナンを抱き上げて思いっきり鳩尾に容赦のない拳を入れる。
「グ…っ」
「次に目が醒めた時、君は今の出来事を全て忘れている。ー…全く大した能力ですよ。ディーヴァの声は.前もって耳栓をしておけと言われてなければ僕の記憶も抜かれる所です」
♪・・・・・・・・♪
Schlafe, schlafe in dem süßen Grabe,
Noch beschützt dich deiner Mutter Arm,
Alle Wünsche, alle Habe
Faßt sie liebend, alle liebewarm.
♪・・・・・・・・♪
(僕は、何をしに此処に来た? 白銀、さんは、無事なのかー…)
コナンの意識が暗闇に落ちる。
細く透明な歌声だけば、何時までも耳の奥に残ったー…
♪・・・・・・・・♪
あんた誰と賭けていたの
あたしのこころは幾らだったの
恨みます恨みます
あんたの事死ぬまで
♪・・・・・・・・♪
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