離離別編Act-11 風に吹かれて
「結局、飛行場のVIPルームに行けませんでしたね」
「仕方ないだろ。 コナンが病院であんな事さえいわなきゃ会えたのによ」
「江戸川君が一緒じゃなければ、アメリカに一時帰国の前に会えたかも知れないわね」
「ホント。また 日本に戻って来るっていってたから何時戻ってくるか聞きたかったんだよ! 学校に挨拶にきた時は言わなかったし」
「わ〜るかったな!」
「仕方ないわよ。普段だったら事件といえば首つっこむ江戸川君が、この事件に手を出すな、みたいな暴言吐いたんだもの。白銀さんだって気分的に会いたくないでしょう」
「お通夜の時だって、びーえーゆーのお兄さんとお姉さんがコナン君みて睨み付けてたよね」
「コナン君はまだ謝ってないですよね…」
「音楽の授業で自分が音痴なのを散々自覚させられたのがよっぽど悔しかったのかしらね?」
「ちっせぇ事で根にもつのを ”きもったまのちいさいおとこ” っていうんだぞ! 」
「そんな言葉、良く知ってたわね」
「母ちゃんが父ちゃんと喧嘩する時に良くいってるぞ! 男の癖にちいさな事でぐちぐちいうなって」
「成程ね…」
(授業位で怒るかよ…)

何故か自分の味方に成らずに少年探偵団の勝手な言葉に相槌をしている哀を横目で見ながらコナンはひとりごちる

(最も白銀が住んでるマンションのセキュリティがあそこまでとは赤井さんも教えてくれなかったんだよなー…)

同じマンションの住人が焼香に訪れるのはいい。
だが外部から焼香に訪れた場合は受付を通してロビーに入って更にセキュリティを解除して貰わないとエレベーターは上がらない。
郵便物は1階のポストに入れる。宅急便は宅配業者に配布している身分証明が必要で直筆の入館証明書へのサインも必要。

”死人”となった赤井がマンションに入れる筈もなく。
ましてやクラスメート、というだけで「学校からのプリントを持ってきた」で簡単に入れるマンションでもない。
プリントを渡す為に入りたいという理由だけでは受付が預かるだけ。
蘭が同行して空手でちょっと受付を壊して御挨拶、をしようものなら24時間多方面380度録画の画像を警察と学校に提出され、器物破損の弁済処分に警察署への両親呼び出し、運が悪ければ退学ー… 良くて停学処分ー… を受けるのが目に見えている。

(安全の為に博士に作って貰ったGPSもあっという間に片付けー…この場合は葬儀会社が何も気が付かずに持って行っちまった可能性も高いんだけどな… BAUの犯人検挙率と行動力は半端じゃねぇしー… 白銀を可愛がってる白馬が俺に協力するとは思えないし。 どうすっかな…)

空港の展望台からはBAUとは兄弟分の付き合いというIRAが使用している大型の円盤のようなジェット機が待機しており、米国空軍と日本の空軍機も待機している
眼鏡の拡大機能で見渡せば礼装姿の自衛隊の軍人たちー… それもアメリカ軍と日本の自衛隊が揃っていた―… が銃を背中に背負って並ぶ方向を確認している事から弔砲を鳴らすのだろう。
礼装服の両胸にバッチが山ほどついた将校も立ち入っている。

日本の領空内では日本の空軍機が先導しアメリカ軍が後ろに付く。
空域を出たらアメリカ軍が先導し日本空軍機が後尾に付く。
空港内の警備を請け負う警備会社も日本警察警視庁の面々も喪服の礼装姿で安全確認に余念が無い。
捜査一課の高木や佐藤が特別室の警護していたらあっさり通してくれるだろうが、コナンたちの面識のないBAUのメンバーは違うのだ。
ジェイムズたちがひと目位はと声をかけたが、肝心の桜が ”コナンがいるからNO” といったのだから仕方ない。
それじゃあ、僕は展望台でまってるから、と行ってはみたが、入れないからと元太や歩美たちに何かを仕込むからもしれないと言われた。

コナンが計画に巻きこんだのはそれほどの捜査官、だったのだ。
国葬が営まれるという事は黒の組織は潜入捜査官である赤井が死んだという事を対外的に知るという事なのだ。

遺体を納められた棺の正面には桜とアメリカ迄同行する探が立ち、棺はBAUと赤井の同僚がジェット機まで運ぶ事になっている
赤井の同僚であるジョディやキャメルはアメリカでの葬儀が終わったらトンボ帰りで日本に戻って、組織に関してのの捜査をすると教えてくれたがBAUメンバーの動きまでは把握していないと言った。

つらつらとそんな事を考えていた時、コツコツ、と足音がしてコナン達は足音のした方を向く。

「桜ちゃん!」
「桜!」
「桜さん」

コナンとはー… 赤井と比べても体格差がありすぎるモーガン捜査官とジョディと比べても遜色なジャロウ捜査官、そしてふっくら系で奇抜な喪服姿だがそれが反対に魅力的なガルシア捜査官にと細身のリード捜査官に守られて、喪服姿の桜と探が展望台に登って来たのだ。

「桜さん! どうしたんですが? 出発時刻迄、お父さんの傍に居るはずじゃあ」
「父ちゃんが悲しむんじゃねぇか?」
「そうだよ! 棺の中で泣いてるよ!」

口々にいう光彦、元太、歩美

「安全確認迄後20分は掛かるって言うから歩美ちゃんと元太君と光彦君と哀ちゃんに会いに来たの。 パパにはジョディおばさんが付いてくれてる。 あ、ジョディおばさんはね、パパの元カノなの。」
「モトカノ?」
「以前付き合っていた、彼女の事よ。喧嘩して別れたとかね。 蘭お姉さんのご両親も別居中でしょ? 彼女達も元妻、元旦那って区分けになるわ。正式に離婚届けを出してないから元の関係に戻ったらそれは”元の鞘に収まる”っていうの」
「桜が産まれる前の事だからって理由は教えてくれないの。たぶん、お仕事の関係で別れたんだと思う。 だから少しのあいだ2人っきりにしてあげたのよ 」
「へぇ… コナン君も物知りですけど灰原さんも桜さんも、物知りですね」
「ガルシーが教えてくれたの。 ガルシーも恋多き女で恋バナ大好きなのよ。でね! JJは男の子が二人いて、ホッチおじさんも男の子。ロッシおじさんは離婚歴3回!」
「さん‥っ 3回!?」
「そ!すごいでしょ?でも子供は最初の奥さんとの間に娘がいて、2番目の奥さんと3番目の奥さんは離婚後10年以上も友人関係があるの。でも2番目の奥さんは病気でなくなったわ」
「へぇ… 別れてからも友人関係に?」
「そうよ。ガルシーもロッシおじさんも、未練がましく分かれた恋人や死別した奥さん、勿論別れた奥さんや旦那さんに固執しないタイプなの。」

ニコリと笑う桜にコナンは頬を引き攣らせる

(何気に凄い事いうな… ってかジョディ先生が元カノ? じゃあ明美さんは? 明美さんと付き合っていたっていうのも本気じゃなかったっていうのならー… 俺の計画は)

コナンの事は綺麗にスルーして居る事から病院での暴言を許して無いのだろう。
最もコナンに謝る機会が無いというか、謝っていないのだからそれまでと言われたら其れまでだが。

「光彦君、ピアノ頑張ってね。アメリカから戻ってきたら連弾しましょ!」
「連弾って、また教えてくれるんですか?」
「勿論! ピアノ教室で先生に注意された事が解らなかったらメールして。 私に解る事なら教えてあげる。」

はい、とDVDを渡す桜

「光彦君が習ってるバイエル練習曲を幾つか録音しておいたから参考にしてみてね」
「あ、ありがとうございます。 僕、きっと桜さんが吃驚するぐらい、進めておきます!」
「楽しみにしてるわね。 光彦君の引き方は丁寧だから練習すればもっともっと上手になると思うわ」
「ま、任せて下さい! 僕、勉強もピアノも頑張ります!」

光彦から視線を歩に向けた桜は綺麗なビニールに入ってラッピングされたカチューシャを取り出した
タグは付いてないが鮮やかな向日葵の柄とチューリップの柄のカチューシャは歩美にピッタリだ

「可愛い! これ、歩美にくれるの!?」
「歩美ちゃんに似合う生地だと思ったの。向日葵と朝顔とチューリップと… えっと… 沢山のキットが有ったんだけど、歩美ちゃんなら向日葵かチューリップが似合うと思ってばあやに教えて貰って縫ったのよ。 一番難しい接着はばあやが手伝ってくれたけど」
「桜ちゃんの手作り!? ありがとう! 歩美、一生、大事にする! 」

市販のと遜色ないカチューシャをギュッと胸元に抱きしめる歩美

「俺には?」

自分を指さして聞く元太に桜はパンのデザインの袋を手渡す

「元太君には食べ物だと思って、ベーコンや人参をいれてジャガイモのパウダーを使ったカレー味スコーン。 ばあやが考えてくれたレシピで教えて貰いながら作ったのよ。 作ったのは私だけどオーブンで焼いてくれたのはばあやなの」
「すげー! 俺、大事に食うからな! 日本に帰ってきたらまた作ってくれるか!?」
「勿論! その時は学校のお弁当持参日のお昼の時に作ってくるわ! 私が居ない時の給食のおかず、皆で食べてね」
「食う事なら任せとけ! 約束だぞ!」
「うん。」

そして、桜は二つ折りにした紙を哀に差し出す。

「哀ちゃんにはこれ」
「メモ?」
「ばあやの知り合いにアレルギー対応やマクロビオテックのお菓子、ローカロリーの料理を専門に教えてる料理研究家がいるの。 本も何冊か出しているのよ。 その人のWEBサイトのアドレスよ。本にはサイトを書いてないわ。」
「ー…ありがと。 私も幾つかブックマークしてるサイトがあるのだけど、このサイトアドレスは知らないわ。家に帰ったら見てみるわね」
「そこのサイトはメンバーの紹介制でね。 サイトに入るにはメンバーの管理者への紹介者のメールとサイトの管理者から暗証番号を教えて貰わなきゃならないの。 私がアレルギーで食べれる食材に制限があるからばあやが色々教えて貰っているんですって。ばあやも料理上手だからサイトに色々と投降してるみたい。 生活習慣病の博士の食生活改善にも役立つと思うの。 ばあやが哀ちゃんの事を紹介するメールを送ってある筈だから連絡を取ってみて」
「紹介制って…」
「公開すると管理しにくいから、って言ってた。以前は公開してたんだけど、相談コーナーとかにネットマナーを知らない人たちとか来た事があるんですって。」
「それで紹介制に?」
「複数の管理人がいるサイトなの。有名人もメンバーになっているのよ。スポーツアスリート選手とかモデルさんもアドバイスを貰ってるんですって。ばあやもメンバーなの」
「そう。 ありがとう。 帰ったら連絡してみるわね。」
「ー… またね、(”シェリー”)」
「(! 貴女、やはり 記憶が… )ー… また学校で会いましょう(さーや)」
「(日本に来る前に戻ってたの。でも組織の事は誰にも話してない。もう少し、こちら側にいるから。 ジン兄には何も言わない。)また、お勉強教えてね」
「何時でも(信じるわー… さーや) 気を付けてね」
「うん。来月には戻れると思うから (あとねー…)」
「! (わかったわ。 子供達は私が誘導する)待ってるわね。 また音楽の授業で素敵な声を聴かせて頂戴」
「必ずね」

声にならない会話に、哀は桜を抱きしめてポンポンと背中を叩く。

「あ! 哀ちゃん ズルイ! 歩美も!」
「僕も!」
「俺だって!」

わいわいと寄ってくる3人

「思い切り抱き着くのはダメよ! 白銀さんの心臓に負担がかかるわ」
「お、おう!」
「じゃあ、哀ちゃんと同じようにポンポンするだけ!」
「僕も撫ぜるだけにしましょう」
「俺も!」
「ふふっ! じゃあ、順番ね。」

桜を囲んでポンポンし合う子供達の姿に探たちは少し頬を緩めて笑う

「いいわねぇ? 子供たちって」
「そうですね。」
「若干1名 蚊帳の外になってるみてーだがな」
「仕方ないわよ。メガネボーイは 私たちの桜にまだ謝ってないってきいたわ」
(ふざけるなよな。 俺がちかよれねぇように睨み付けてる癖に ってゆうか、白銀と灰原は何を言ってたんだ?)

眼鏡の解像度を上げて二人の会話を聞きたいと思ったものの同行している面子が悪すぎて機を逃した

「(まぁ、避けてくれてた方が動きやすいっていや動きやすいんだけどな…)」

一通りポンポンし終わった桜は哀とそっくりな瞳の色でコナンを見つめる

「え? えと… 白銀、さん? なにか?」
「私が戻ってくるまで、ドレミ位は音程を外さない程度になるといいわね」
「っ! ぇ!?」

にっこりと微笑む桜

「ね、絶対音感を持ってる事件ホイホイの死神さん?」
「し、死神って…酷いなぁ。 偶々、だよ」
「偶々、ねぇ? 江戸川君が関わった事件の犯人は皆、大怪我をしているって聞いてるわよ? 」
「!!」
「皆にあげて、コナン君になーんにも上げないのは可哀想だからー… コレ上げる」

桜はポケットから野球ボール位の小さな箱を取り出す

「開ける時は気を付けてー…(工藤新一さん?)」
「ぇー!?」
「まぁ、絶対音感を持っていて音痴なんてー… 症例は聞いた事がないけど」

くすりと笑うと桜はくるりと踵を返す

「アメリカに一時帰国する前に聴かせてあげるー… 」

桜は、すう… と息を吸い込んで目を瞑った。

「‥っって! エンジェル! ここで唄ったら目立ー…」
「もうダメだよ。 意識が飛んだから 一曲歌わないとサラの意識戻ってこない」
「はぁー…」
デレクが溜息を吐く

「仕方ねぇな。 展望台だから地上からなにかあるって事はないだろうけど、 必要外の騒ぎは避けたい。」
「そうね。 展望台への立ち入りを KEEPOUTにしましょうか」
「止めとけ。どうせ飛行機のエンジンの音とかで録音しても雑音になるだろう?」
「念のため短時間のジャマ―を掛けとこうか。」
「ここ、飛行場だよ? 空路とかのシステムへの影響は大丈夫?」
「うふふん 半径5メートル内のジャマ―作って試してみたかったのよね。サラの声の波動だけに上書きするシステムの試作品。ガルシーにおまかせあれ」
「1曲だけだ。 そこで切るぞ」
「ラジャー」

ガルシアは小型のパソコンを取り出してカタカタとタイピングを始める。

(特定の音波だけのジャミングシステム!? なんて… 技術だ? 博士ですらできないー… ジャミングプログラムを組めるなんて)

英語を聞き取れるコナンは桜が慕うBAUの技術に驚かせれる。

(その技術ー… 人脈に行動力。 日本警察とは違う。 こいつらを協力者にする事ができたらー…)

けれど、桜に暴言を吐いている以上、桜を通じて仲間達の協力を仰ぐ事は出来ないだろう。

ふっ と閉じられていた瞳が開くと、その瞳は子供の目ではなく、唄媛としての瞳



How many roads must a man walk down
Before you call him a man?
How many seas must a white dove sail
Before she sleeps in the sand?

どれだけ多くの道を歩めば
人は人として認められるの?
どれだけ多くの海の上を飛べば
白い鳩は砂浜の上で休めるの?

「ボブ・ディランの風に吹かれてー… ですね。 DVDで聞くよりすごいです」
「光彦君。知ってるの?」

How many times must the cannon balls fly
Before they're forever banned?
The answer, my friend, is blowin' in the wind
The answer is blowin' in the wind

どれだけ多くの鉄砲玉が飛んだら  それらが禁止されるの?
友よ、答えは風の中に舞っている
答えは風の中に舞っている

How many times can a man turn his head,
And pretend that he just doesn't see?
The answer, my friend, is blowin' in the wind
The answer is blowin' in the wind

ある人々が自由を許されるまで  どれくらいかかるの?
人はどれぐらい顔を背けて  知らない振りをするの?
友よ、答えは風の中に舞っている
答えは風の中に舞っている

How many deaths will it take till he knows
That too many people have died
The answer, my friend, is blowin' in the wind
The answer is blowin' in the wind

どれだけ多くの耳を持てば  人々の泣く声が聞こえるの?
どれだけ多くの死者が出れば  
余りにも多くの人々が死んでしまったと  気が付くの?
友よ、答えは風の中に舞っている
答えは風の中に舞っている

(Blowin' in the wind  風に吹かれて/ ボブ・ディラン)



それは、 飛行機の エンジン音や喧騒すらをものともせずに展望台を中心に響き渡る声。
コナンはいうに及ばず、毛利小五郎がどれ程 ヨーコちゃんラブを喚き散らしても太刀打ちできない歌声である。


「ボブ・ディランはアメリカ・ミネソタ州出身のミュージシャンでノーベル文学賞受賞者よ。本名はロバート・アレン・ジマーマンだけど法律上の改名をしているの。 彼の歌に影響を受けた歌手はとても多いわ。アメリカで文民に贈られる最高位の勲章である大統領自由勲章を授与された事もあるの」
「灰原さん、詳しいですね」
「ー… 亡くなった姉がね、ボブ・ディランが好きだったのよ。」
「亡くなった…」
「そうよ。 離れて暮らしてたから電話で聞く程度だったけど。CDとかライブの持ってた筈よ。」
「僕のお父さんも彼のファンですよ! 姉さんが産まれる前になるんですけど、母さんと一緒に来日ライブに行った事もあるって聞きました」
「へぇ… 良く取れたわね。」
「運が良かったんだって、 今でも言ってますよ。」
「そうね。」

彼等は知らない。

タートルネックに眼鏡をかけた男性が展望台の近くでその歌声を聴いて 拳を握りしめていた事を。
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