離別編Act-6 寝顔
車の中でガルシアとリードの間にちょこんと収まった桜はリードが暗誦する<トリスタンとイゾルデ>を聞いて、ガルシアが冷凍苺を使って飲むヨーグルトとカルピスを混ぜて作ってきたドリンクを満面笑顔でごくごく飲んでいるうちに小さな欠伸を連発するとコテン、と瞼を落としてガルシアのふくよかな胸に抱き付くように寄りかかった。
元々が可愛い物、綺麗な物、楽しい事、動物とかが大好きでBAUの中でも一番優しい心根のガルシアである。
お気に入りの妹分が自分に凭れかかって寝ているのであればストライクで心臓スナイプ一撃である。
自分は多少窮屈でも腕の中に抱きかかえるようにして寝やすい姿勢を作ってやってご満悦になって頬を緩めてしまう
最も、それはリードも同じで、ばあやさんから託されたセカンドバックから膝掛毛布を取り出す。

「…まだまだ序盤だったのに。いつも思うけど可愛いなぁ……」
「今日は病院って言ってたからな。アレルギー検査とはいえ寄り道をしてたし、疲れたんだろ」
「ふふっ! 天使はおねむタイムに突入っと。 あぁぁぁぁ!! 写メりたい。起こしたくないからできないけど写メりたい!!  誰かこの天使ちゃんが起きない様に寝顔撮って」
「3D加工してデスクトップにする? 」
「あ〜〜 いいわねぇ。 画面全部に桜の寝顔… 嫌な事件の写真見ても速攻癒されそう」
「いっそポスターにでもすっか? 子供の寝顔を護る為にとかってフレーズでFBIの宣伝を」
「駄目よダメ! ダーリンの提案でも却下! この子の寝顔はBAUが独占権を持ってるンだから!」
「幼児性愛者で目を付けられたら赤井パパに殺されるぞ」
「700ヤード先から眉間をスナイプされるね」
「1000ヤード先かもよ」
「地上の裏から一撃必殺ってのもあり得る」
「ちょ…っ 想像できちゃうからヤメテ」

ふかふかのフリーズの毛布を桜の胸元から膝にかけながら大真面目に云うリードと答えるガルシア。

「で、どうするの? 白馬邸に着いたら桜の事はばあやさんと探に預けてジェイムズ・ブラック捜査官の所に殴り込み?」
「殴り込みはしないがジェイムズが個人名義で借りたビルに向かう。そこで一戦交える事になるかも知れないから覚悟しとけ」
「了解。ホテルの予約はどうします? 東都ホテルか米花ホテル。それかベルツリーになりますが」
「ベルツリーは鈴木の資本が入っているから避けよう。 取るなら東都ホテルの方がセキュリティは高い。 だが、今回は総監が白馬邸にあるゲストルームを無償提供してくれた。シングルが丁度6部屋あるそうだ。残念ながらホテルと違ってTVとバスルームはないが同じ階にゲスト用のシャワールームが2つあるから男性女性で使い分けをすればいいだろう」
「個人宅でゲストルームが6部屋?」
「それからサンルームを打ち合わせ用に貸してくれるそうだ。桜がティーパーティをした所が一番広いからと。」
「警視総監宅に泊まるの!?うわーうわークワンティコに戻ったらケビンに自慢してやろっ FBIの局長の家に泊まるとの同じレベルよね」
「まぁ、そうなるが家の間取りとか教えるなよ」
「勿論! セキュリティとか見せてくれるかな」
「いくらお前がテクニカルアドバイザーでも無理だと思うぞ。」
「あー… やっぱそう思う?」
「屋敷のセキュリティは24時間。正門裏門360度の監視録画。屋上はノーチェックだが監視カメラも有るし、微弱ではあるが壁に電流も流せるそうだ。 一番安全な場所だろう? 正面から堂々と入ってくれとのお言葉だ。」
「了解。 ブラック捜査官に俺達を敵に回したらどうなるか思い知らせてやらなきゃね」
「それなんですがー…桜ちゃんが起きると大変なので、エミリーに皆のタブレットに新情報を送って貰いました。ガルシアは桜ちゃんを抱いているのでスペンスが見せて上げて」
「OK」

そして、個々でデータを見て、一同は息を飲み込む

「ぇ、」
「これ、まさか」
「CIAと日本警察…いや、FBIとICPOの合同捜査、じゃねぇよな?」
「でもコイツ―… 日本人だろ?フリーアナウンサー? 」
「日系だから、かもしれないとエミリーが言ってる。エミリーは元々ICPOの凄腕だから色々つつきやすい。お袋さんは大使だから、ICPOからCIA、挙句KGBや政治家のTOP官僚に顔が効く。いざと成れば協力仰ぐって言っていた」
「エミリーがそう言うのは珍しいね。お母さんの力は極力使いたがらないのに。」
「エミリーにとってもこの子は特別よ。 BAUには小さな家族が沢山増えたけど全部男の子。女のコはサラだけだもの。」
「まぁ、あのお袋さんは政界の繋がりが半端ねぇ。上の弱みをたっぷり握ってるしな。」
「わー怖い」
「そういえば、エミリーのセルジオは? 何時もはペネロープが預り、だよね?」
「今回はペット仲間の友人に預けたって。ペットホテルじゃ可哀想だもの」
「桜もセルジオと仲良しだから、エミリーも一緒なら連れてこれたのに」
「でも、探のペットは鷹でしょう? とても良く躾られていたけど、喧嘩になったら大変よ」
「そうだね。 」
「桜には動画見せるから大丈夫。私、 エミリーから毎週貰ってるから。 その名も <今週のセルジオ君> 」
「あ、いいな。私も見たい」
「OK。じゃあ、後で見せるね。」
「僕も!」
「りょーかい。個人スマホに送ったげる」
「まぁ。セルジオの件は置いといて、… この情報が確かと、なると、赤井とブラックは一枚かんでいるという事だな」
「100%だね。」
「でなきゃいくら頭の回転が良い、見た目がガキになっちまった高校生探偵のアイデアとはいえ早々簡単に成功しない筈だ」
「科学的には子供になる薬なんて存在しない筈だけど、指紋とDNAが同じじゃ認めざるを得ないしね」
「組織のセキュリティは突破するのがペンタゴン並。私一人でも突破できるとは思うけどケビンにも手伝って貰ってる。」
「そんなに?」
「念の為の目くらまし。FBIのパソコンからだけど十重二十重に網を貼って貰ってる。アクセスポイントも複数経由して地下電波に衛星電波も駆使した罠を作って貰ってる」
「そちらの方はガルシアに任せる。」
「はい。任されました」
「それはいいとして、赤井がヒロタマサミにー… いや、ミヤノアケミに負い目を感じるのはわかる。でも、だからといって簡単に計画に乗るなんて」
「本気だったって事?」
「それは赤井しかわからねぇよ」
「もし、赤井が本気だったならー……」
「ロッシ?」
「離婚した私が言うのもなんだがー…… 私は、別れた妻達を愛していた。 だが、私は任務ばかり優先していて。 その為に、別れを言われるまで仕事仕事、だった。 もし、そのせいで彼女が危険に巻き込まれ、命に危険が迫ったら、私は全身全霊で彼女を守ろうとするだろう。だが、間に合わなずに死なせてしまったら。その彼女に弟妹が居たとしたら…… 私は仇を討つまで手段を選ばないだろうな。」
「―……」

奇妙な静けさが車内に漂う。
すーすーと、安定した寝息だけが、ささくれかけたメンバーの心を和ませる。

「でも僕はー… もし、これが事実なら、赤井捜査官を許さない」
「私も」
「サラをー… 娘1人護る事が出来なくて、娘を泣かすような事しかできねぇ親なんて親じゃねぇ」
「離婚歴3回の私がいうのもなんだが、同感だ」

そしてー…

白馬邸に着いても安心しきったようにすーすーと眠る桜を先行で降りたJJが受け取って、伊達に母親はやってないとばかりに起こすような事もなく、探の案内で2階にある桜の部屋に連れて行き、これまた見事に起こす事もなくネグリジェに着替えさせるとベッドに寝かせて優しいキスを一つ、額に落とした。

「流石お見事ですね。桜は若干人見知りをするから起きちゃうかと思ったんですが」
「ふふっ。これでも母親ですからね。ー… と、言ってもウチは男の子2人だけど。」

探はJJが桜に着替えさせる間にベランダに続く窓の雨戸とカーテンを引いて、出窓のブランドを下げてレースのカーテンを引くとウサギとクマの縫いぐるみをベッドサイドの椅子に置く。

「あら? そこがアリスとライの定位置なの?」
「父が家具店で、この子たち用に買ってきたんですよ。 でないと、寝る時に両方ともベッドの中に連れ込んでしまうので」
「あらま。この子たちは抱き枕なの? それも可愛くていいけれど。ー…あ、縫いぐるみの服を作ってきてあげたのにバックの中だわ。」
「なら、起きたら上げて下さい。 3時間位眠れば起きるでしょうし。」
「そうね。忘れないように出しておかなきゃ」
「さ、下に戻りましょう。ばあやが珈琲を淹れてくれてる筈です。お客様がくるというのでメイドたちが張り切って夕食を作ると云ってました。 食事は人数がおおい方が楽しいし美味しいですから」
「ホテル代わりに滞在してもいいと伺ったけど、本当に良いの?」
「ホテルのように利便性はよくありませんよ。ですが、3階のゲストルームと1階のリビングとキッチンは御自由に。食材は豊富に仕入れておきましたからお腹空いたらお好きなものを作って下さって構いませんが使ったお皿やカップは綺麗に洗っておいて下さい。 ばあやはキッチンが汚いと不機嫌になってしまうので。 サンルームがあるので会議用にどうぞ。サンルームには警察署のような設備はありませんが打ち合わせなら十分できるかと。まさか、警視庁の会議室を使う訳にはいかないでしょう?」
「分かった。皆にも伝えておくわ。 それに軽食とか自分達で作れるのは助かるわ。 この屋敷に桜ちゃんがいれば、私達は捜査に集中できるもの」
「僕だって許せないんですよ。 赤井さんを殺した奴がいるなら、それが有名人であったとしても逮捕して法の裁きを下したいと思ってます」
「そうね。 それは私達も同じ。 子供から親を奪う権利は誰にもない」

JJと探は顔を見合わせてると足音を殺して部屋をでると1階にある居間に向った。

「探坊ちゃま。嬢ちゃまは?」

一足先に寛いでいた面々に珈琲を振る舞い、土産だと貰ったクッキーの詰め合わせとチョコレートをプレートに置いていたばあやが聞く。

「ぐっすりと夢の中だよ。ベッドサイドにライとアリスを置いておいた。検査の後は2〜3時間寝ちゃうから今日もその位で起きてくるんじゃないかな」
「お熱は?」
「無し。BAUの人達が来て安心したんだと思うよ。 残念だけど、学生である僕や一般人のばあやでは死因の調査とは出来ないし、事故現場にしゃしゃり出て調べる権利もないからね。」
「旦那様が報告書を読んだ結果を少しは教えては下さいますけど、それだけでは犯人は捕まりません。 やはり坊ちゃまに現場に出て頂いて物的証拠をつかみませんと!」
「ここは日本だよ。イギリスだったらヤードの人達が入れてくれるけど僕は日本では素人同然。父さんの名前を借りて現場に首を突っ込むとかしたくないから」
「けどどこぞの高校生探偵は親御さんが有名作家とか県警の幹部だからと事件に首を突っ込んでるじゃありませんか? 坊ちゃまだってー…」
「ばあや。学生の本分はまず勉強。僕が追ってる組織と、工藤君が追ってる組織は別物だよ。」
「ではございますけどー…」
「桜が危急の特は僕も父さんとおじさんのコネを盛大につかうけどね。今はまだその時じゃない」
「全く。坊ちゃまは人が良すぎますよ。 工藤君の服部くんも親の七光で現場に入っていますでしょう? 坊ちゃまの方が事件の解決数は多いんですからそれを話せばいいのでは?」
「飼い被りすぎだよ ばあや。 権限もないのに事故現場に入るなんて法律違反もいい所だ」
「けど工藤新一君の方が父親が世界的に有名な推理作家で母親が日本が誇る女優。服部平次君は、親が警察の幹部だからとほいほいと事故現場に入ってますよ? 坊ちゃまだってその気になればー…」
「ばあや。探偵は目立つものじゃないよ。 僕はあの2人のように新聞に書き立てられようとは思わない。」
「ヤードに友人がいる警察官として耳の痛い言葉です。ですが探が日本の警視総監の息子だと知ってる人間はとても少ないですよ。ばあやさんに同調するわけではありませんが、探なら英吉利で父上の名前がなくても一流の探偵になれると思います」
「僕もそう思う。卒業したらアメリカにきてアメリカ国籍取得してFBIアカデミーに入ったらすぐに活躍できると思うよ。」
「その時はBAUで引き抜かせて貰おう。 ストラウスにいえば人事をちょっと突いてくれるだろうしな」
「探なら歓迎するぜ。それまで俺達がいれるかどうかわからねぇけどな」
「ありがとうございます。でも僕は多分、イギリスでヤードに入るのが夢ですから。勿論FBIに魅力がないわけじゃないんですが」
「おやおや残念だな。」
「桜嬢ちゃまにはアメリカなんぞに帰らなくても白馬の家に一生いても構わない、と申し上げたんですけどね……」
「それは仕方ないよ。赤井さんはアメリカ国籍でFBI職員なんだから」
「それは重々承知してますけれど。」
「その後は赤井さんのお母さんに引き取られるんじゃないかな。僕達が育てたくても血縁者が優先だろうし」
「赤井の実家って結構金持ちだよな」
「けど実家には滅多に返ってないらしいし、親父さんは行方不明のままだろう?」
「年齢的に血縁者に引き取られるのが一番とは思うけど、桜は高校ランクの知能もあるし、あの一家と仲良くなれるかどうかは微妙だと思うわ」
「あー… 特にあの男の子、じゃない、妹さんね」
「ありゃ女じゃねーぞ? あの年であの言動だろ? 活発というよりも乱暴の部類だな。 たしかコナンが怪我した時にバイクで半殺しにして書類送検になったって記録がある。よく書類送検だけですんだな」
「一応日本国籍らしいから、イギリスで育ってても日本の法律になったようだな」
「未成年には甘いのね。」
「だが、経歴は封印されずに残る。」
「正義感が強いのはお兄さんの影響かしら?」
「下の兄さんは将棋の世界で有名だからな。 兄二人に似て頭の回転はいいし、長兄譲りで武道もできる。だが、自我を押さえる事はとても下手だ。桜が苦手とする分野の人間だな」
「桜は頭脳派だからな。 乱暴な子は嫌いだし」
「でも気は強いよ。血の繋がりがないとはいえ、そこは赤井さんに似たんだね」
「桜がおっきくなるまでテクニカル分析官でいられたらなぁ… それまでにテクニカル分析班の専用フロアを作って才能ある子を育てたい」
「もう育ててるじゃないか? サラは<BQ>の一番弟子だろ?」
「ホントにそう思う? 一番弟子だと思う!?」
「桜は以前、ガルシアの弟子だって言ってましたよ。<SP>という称号を貰ったって。」
「マジ!? いつの間に上げたの!?」
「えー… 日本に戻る前にシルバープリンセスって、その、私がクィーンだから… ほ、ホラ桜はとても綺麗な銀色の髪の毛でしょ?」
「桜にピッタリの称号だな。 ならば今度から桜の勉強部屋をガルシアの部屋に―…は手狭になるからまずはあの部屋を広くする事を、折をみてストラウスに進言してやろう」
「ウッソ! マジ!? ホント!?」
「俺が嘘をついた事をあるか? ストラウス部長も桜がお気に入りだ。息子さんと娘さんがいるから重なるんだろう。だが、子供にPCの画面を長時間視させるのはよくないからな。そこらへんも考慮しておかないと」
「も、勿論です! あ、ありがとうございます! もっとスキル磨かなくちゃ!」
「当分は今の勉強部屋で、ガルシアの所に移るのは課題がクリアできてからだね」
「うん。体力面はモーガンがいるし、知識の泉のリードがいるし、情緒面はJJがいる。 甘やかし担当はホッチとロッシ。コネはエミリーが作ってくれる。 やっしゃ! BAU最高の捜査官だわ」
「おいおい… 小さいうちは思いっきり遊ばせてやらないと偏った人間になっちまうぞ」
「あ、そうか。 じゃあBAUでのお勉強は週2、3で後は小学校通いかしら…」
「音楽の才能があるからいっそジュリアード… は遠いから、声楽の教室とピアノの教室でも探してもいいかもね。プロのオペラ歌手っていう道もあるわ」
「もう教会で聖歌隊を鍛えてる方に音楽教室にオペラか? それよか絵画とかどうだ?」
「なに、モーガンは桜をホワイトカラー部門にでも行かせたいの?」
「ホワイトカラーの方が危険度は低いぞ。 桜は語学とかも才能あるしな」
「体力をつけるというならバレエとかフィギュアもいいと思うが」
「バレエ! 舞台映えしそう… イギリスのロイヤルバレエアカデミーとかパリのオペラ座… デビューしたら私毎日日参しちゃうわ。バルコニーシートを年間で買い締める」
「おいおい… ソリストになるには大変なんだが」
「あ、そうよねー… 沢山のコンクールで優勝してバレエコンクールで入賞あるいは優勝しないと。」
「レッスン漬けになると会えないし」
「やっぱバレエは却下。同じ理由でフィギュアも駄目。会えないのは我慢できない」

事件の話は何処に消えたか。
あれよあれよと進学ルートを話し出す面々に探とばあやは顔を見合わせて苦笑した。
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