離別編Act-7 対立
バンッ!
机の上を叩かれてジェイムズはハッとなった。

「いい加減にしろ! 俺達の問いを無視しやがって!」

ピキン、と切れたモーガンがジェイムズのスーツを引っ張ってぐい、と引き上げる

「殺しちゃだめだよ、モーガン。」
「解ってる。呼吸困難程度に抑えてるよ。」

ぐい、と躰を引き上げられてジェイムズは顔を歪める。

「君は部下を喪った。私だって、部下を喪った事があるから気持ちは分かる積りだ。だが、桜は父親を失ったんだぞ? わかってるのか?」
「あぁー… 充分、解っている積りだよ。 だが赤井君はFBI捜査官だ。 潜入捜査をしていた。 それだけだ。」
「それなら尚更IRTに捜査をさせる事が出来るだろうが!」
「気持ちは有りがたいが、これは私達のチームの事件だ。」
「じゃあお前は桜に、父親が殺された、お前も危ないから証人保護で別人になれとでもいう気かよ! お前ントコのジョディ・サンテミリオンのように!」
「父親が殺されたから親戚ぐるみで証人保護を受けるっていうなら兎も角、捜査協力を断るなんて可笑しいわよ!」
「この件は私達だけで捜査をする!  BAUとIRTは必要ない」

ジェイムズはFBIの日本支部として用意されたビルの1室で答える。

「桜ちゃんの事は白馬警視総監とそのご家族が今暫くの間、保護者として守ってくれる。私は赤井君の車の分析も遺体の検視も日本警察に任すつもりだ。」
「君はそれが桜の為だと思っているのか。 父親が殺されて、犯人が捕まらずー… スターリングのような気持ちをさせるつもりか!」
「それは、」
「スターリングの父親を殺したのは黒の組織の幹部だろう!」
「コードネーム"ベルモット" 表の世界ではシャロン・ヴィンヤード、それともクリスと呼んだ方がいい? 貴方たちが付けたコードネームは<腐った林檎>。老けメイクで一人二役のベルモットは工藤有希子ー… いいえ、藤峰有希子の友人だそうね。」
「何故それを」
「私のIT技術を馬鹿にしないでよね? BAUは仲間を殺されて尻込みをする貴方とは違う。 桜は私の可愛い弟子でBAUの一員よ。」
「赤井はお前ン所のチームでもサラは違う。俺達が認めた、俺達BAUのファミリーだ」
「桜ちゃんに危険が及ぶかもしれない。それでもBAUは動くのか」
「桜はそんじょそこらの子供じゃねぇだろ。」
「だが、」
「此処まで言ったら、拗れるだけだな」

ロッシは溜息を吐いた

「ガルシア」
「はいは〜い。 ストラウス部長にはワンコールで繋がりますよ〜!  時差関係 無く、局長に直談判してくれる事になってま〜す。 ジェイムス捜査官はあのストラウスを相手に勝てる自信は有ります?」
「少なくとも、俺はエリンー… ストラウス部長を怒らせたくは無い」
「同感」
「俺も」
「降格処分じゃすまないわよね…」
「と、なると解雇処分か?」
「法律違反はしてないから解雇はされないよ。 スポーツでいう無気力試合でイエローカード。精々捜査打ち切りでチーム全員、帰国命令がでる位じゃない?」

ロッシの言葉にリードが応え、モーガン達が頷く。

「君たちは赤井捜査官のー… 我々の計画を邪魔する気なのか!」
「計画?」
「組織を壊滅させる為に、赤井君はー… 赤井君が、どんな思いで決断したか!」
「その計画の為に、サラを孤児にしたというの? アンタにそんな権利が有るの!?」
「それは」
「いくら知能が高くても、親と保護者は違う。 桜にとっての父親はてめぇでも俺達でも無いだろう!」
「例え、どう思われても私にも云える事と云えない事があるんだ! BAUにだって言える事と云えない事があるだろう!」

ジェイムズは答える。

赤井に計画を聞いた時。

「この計画は俺も考えました。ですが、落とし穴が有ります。」
「落とし穴?」
「ボウヤから聞いたこの計画には、桜と、BAUの事が組み込まれて居ません。 BAUは一度メンバーとして受け入れたら”家族”として動く事が多い。 仲間の誰かが、傷ついたら守ろうとする。仲間の家族に被害が及べば犯人を捕まえようと一丸になる。 ボウヤはそれを知らない。アメリカの本部には万一の時の遺体照合の場合に備えて全ての捜査官のDNAの記録があります。 そのDNAデータの差し替えは局長レベルの協力者が必要です。」
「つまり、桜ちゃんの家族を殺した人を、全力で探そうとする訳だね?」
「そうです。 桜はBAUと仲が良い。BAUも桜の事を受け入れて末っ子メンバーとして可愛がってくれている。 BAUが動けば兄弟の用に仲が良いIRTも動くでしょう。」
「BAUとIRTか……… どちらも敵にはしたく無いチームだ」
「ボウヤの計画は諸刃の剣。 ですが、俺はその計画に乗らなくてはなりません……」
「乗らざるを得ない、という事か……」
「はい。ボウヤは明美の事を出してきました。明美が死んだのは俺の所為です。俺は亜米利加にいる間、桜を守り育てる事に逃げて、彼女を探そうとしなかった。」
「私たちが宮野明美のアパートに行った時、部屋は蛻の殻になっていた。 赤井君だけの所為じゃない。 仕方ない事だと思うがね……。せめて、桜ちゃんが身代わりだと気づかない事を願うよ」
「頼みます。 俺はそのまま、ボウヤのー… 工藤新一の両親が用意してくれたアパートに直行しますから。 ボウヤは俺が彼の正体をしっている、という事に気づいていません。そして灰原哀も、諸星大=赤井秀一だとは気づいてないようです。」
「分かった。 後の処理は上司である私が引き受けよう」
「お願いします。 俺の "遺品" は全て桜の名義に。 万一の時の書類は日本に来る前にクワンティコの弁護士に預けました。桜が大人になるまで、生活に不自由はしない筈です」
「其処まで計画をしていたとはね。 ー……承知した。BAUとIRT相手じゃ分が悪いが頑張って見るとしよう。」
「健闘を祈ります」
「50:50になればいいが、20:80でこちらに不利だ」

赤井と話した時の事を思い出して、ジェイムズは深い溜息を吐いた

「ブラック捜査官。君が捜査をする気が無いのはよくわかった。 BAUは今後、君と君のチームからの協力依頼は全て断る。 ガルシアの協力を得たい場合は、ストラウス部長を通すか、ケヴィン・リンチに依頼をしろ。 ケヴィンはガルシア程では無いが分析官の端くれだ。 ただし、ストラウスの指示が無い限りガルシアの技術は使わせない。」
「FBIの分析官だろう、ガルシア捜査官は」
「ガルシアはBAUのフロア内に彼女個人の分析室を持っているんだよ。 ジェイムズ捜査官のチームじゃ無い。 ケヴィンの所属は分析チームだけどね。でも、上を通して依頼した方がいいよ。ケヴィンはガルシア程優れた技術は持ってない。 分析班の連中を3名程合わせたらガルシアレベルになるだろうけどね。あと、IRAのラス・モンゴメリー捜査官はガルシアの友人でもあるから彼の協力もアテにしない方がいい。」
「ちょっと! それジョーシキだから! ラスがこいつ等に協力したら私が作ってるゲームサロンへの出入り禁止! 私のグループに入りたいっていうキャンセル待ち希望者がただいま12名程いるの」
「7名? メンバーは5名限定で増やさないって言って無かった?」
「この間、子供が生まれるからゲームを自重せざるを得ないという旦那がいてね。奥さんもゲーム大好きなんだけどm子供が産まれるならその子を優先して育てたいって。だから、その変わりを1人募集したの。ラスに頼んで選別中」
「まぁ、ゲームをするなとは言わないが、ほどほどにしておけよ」
「アイ・サー」

ロッシの言葉にガルシアは敬礼して答える。

「と、いう事でまぁ、ガルシアとラスの協力は諦めるんだね。 ってケヴィンもメンバーじゃなかったっけ?」
「あ、それは大丈夫。彼はとっくに抜けた。 付き合ってる彼女が自分の目の前でゲームやらPCを弄るのを嫌うから。」
「あ、そ。別れたから戻りたいって云ったら?」
「再入会は認めない事にしてるの。贔屓になるから。」

ニッと笑い合うリードとガルシアの言葉にジェイムズは溜息を重ねて吐く。

「ー… 桜ちゃんを独りにするという事がどういう事か、赤井君が気づいてないと思うのかね?」
「何?」
「桜ちゃんは組織に拉致されて育てられていた。 世界中の優れた外科医が目を見張る程の心臓移植を受けさせてまで高騰教育を受けさせて駒にしようとしていたのは君達も気付いているだろう?」
「勿論」
「組織の中に閉じ込められている歌姫と呼ばれる子供達の噂を聞いているかね? 情報としてでも構わないが」
「各機関の潜入捜査官が一度聞いたら忘れられない歌い手がいる、というレベルなら」
「桜ちゃんはその歌い手の頂点にたつ<唄媛>として教育をされていたらしい」
「唄媛…? 桜の声はその歌い手のTOPとして教育されていたと?」
「赤井君は、もし、サラ以外の子供達が拉致され、洗脳されているのなら一人でも多くの子供を助け出したいと。 桜がもつような声をもつ子供達を武器として使わるような事はさせたくない、と」
「証拠があるのか」
「大きな<リサイタル>はここ数年開催されていない。組織の<歌媛>は公安の潜入捜査官に重症を負わされ―… 当時潜入していた赤井君がその公安を捕まえたものの、組織の手によって粛清されたのだろうと、言っていた。」
「歌い手の情報は俺達も掴んでいる。公安もICPOもCIAも… 世界中の潜入捜査官が、組織の情報として知っている事よ」
「桜ちゃんは赤井君と暮らす前の事を殆ど覚えていない。もし、君達が動いて記憶を全て思い出したら、どうする気だ?」
「桜が記憶を取り戻したで赤井を忘れBAUを忘れる可能性があるから捜査はしねぇってのか!? それはテメェの言い分だろうが!」

「もうよせ。モーガン」
「あん? なんでだよ! サラは俺達の妹で娘だろう!」

ワイシャツのボタンを引きちぎりそうな勢いでつかみ上げたモーガンを止めるホッチ。

「止めろ、といったんだ。聞こえなかったのか?」
「っ!」

不承不承という顔で手を放すモーガン

「サラレベルの声を持つ子供達ー… という噂が事実なら、尚更調査をするべきだな。」

BAUで纏めていたファイルを閉じるホッチ。

「これ以上の会話は意味がない。 ガルシア、白馬邸に戻ってサラに経緯を話してくれ。 お父さんの遺体を引き取ったら一度アメリカに戻るように。 赤井が契約したマンションの更新は来年まであるから、その間は護衛を付けて日本に居られるようにするからと。モーガンは俺と日本警察に。」
「アポは?」
「ご心配なく。ストラウスがアポイントを取ってくれてます。」
「早っ」
「ストラウス部長が <ブラック捜査官は捜査に首を突っ込むなっていうだろうからストラウスの名前で面会の予約を入れて置く。離席とか会議中とかで逃げ出すようならFBI長官自ら警視総監に国際電話をする用意をする>と伝えても構わないそうです。 だからホッチがブラック捜査官に会うと云った時にメールを」
「さーすがストラウス」
「まぁ、こっちに来る時に僕もお願いしておいたけどね」
「スペンスも」
「そりゃあ、家族の一大事、だし」
「ねぇ?」

にっ と顔を見合わせるリードとガルシア。

「まぁ、消極的なブラックには申し訳ないが、私達は行動分析課、なのでね。 担当している捜査一課の目暮警部に会って日本警察のまどろっこしい捜査中止の依頼と捜査権の移行を申し入れにいくとしよう。ガルシアとリードの御蔭でこちらには白馬警視総監がいるから否やは言わないだろう。 リードとJJは監査医に会って赤井の遺体の検視データを全て貰ってきてくれ。 日本警察なんかにひとかけらのデータも残すなよ。 ロッシは部長に経緯を話してブラック捜査官が捜査をする気がない事を連絡して下さい。 それから赤井の遺体引き取りに関して俺達のジェットでは乗せる場所がないからIRTのジェットを借りれないかギャレット捜査官に聞いて下さい。 確か、今は韓国にいる筈。帰りに寄って貰えれば助かると」
「ギャレットには貸しを作ってある。 クワンティコに戻る次いでなら即日動いてくれるはずだ」
「頼みます。」
「IRTのマシューは俺のダチだ。 桜の事を話してるから俺達がどれだけ桜を可愛がっているかも知っている。それに娘と息子で4人の子持ちの父親だから子供絡みの事故なら二つ返事だな。」
「赤井捜査官は日本の名前だけど国籍はアメリカだから遺体引き取りにはなーんの問題もないし。」
「ならこれ以上余計な情報をブラック捜査官上げる必要なんてないわよね。 CIA捜査官が潜入していたとしても?」
「っ… 君、達は…」
「ねぇ、私は一足先に帰ってサラと遊んでていーい?」

ドアを開けながらガルシアが言う。

「勿論。ガルシアにはそのつもりで用事を頼まなかった。」
「私のセカンドバックにライとアリスのお洋服をラッピングした袋が入ってるの。お昼寝が起きて熱もなくて元気だったら渡しておいてくれる?」
「僕が持って来た紙袋にさっき話した本がー…」
「サラの好きなカフェ・クリストファーのコンソメスープのレトルトをダースで持って来てる」
「クリストファーの? 良く買えたわね? あれ、非売品でしょ?」
「あのおっきな箱!? 何かと思ったら…」
「カフェのオーナーはサラの事は知ってるからな。日本に行く用ができてサラにも会う時間を捻出したからって拝み倒した。もー大変だったんだ。 日本の酒を土産に持って行くって約束までした」
「私とホッチからドイツオペラの新作のDVDとミュージカルの楽譜が…」
「あははー… 皆さん、揃ってますねー」
「そーゆーガルシアは?」
「サラの喜びそうな動物の赤ちゃん特集のガルシー編集バージョンと、エミリーからチョコレートとクッキーの詰め合わせ。」

ジェイムズをスルーして会話を始めるBAUメンバー。

「待て! こちらの話はまだー…」
「終わりましたよ。 貴方の”行動”も赤井捜査官の計画とやらも、ボウヤの計画もー… ね」
「なら、協力してくれると?」

僅かな言葉尻を捉えてジェイムズが声をかける

「勘違いしないで頂きたい。 組織壊滅は極秘裏に勧められている計画。今現在はブラック捜査官のチームがただ、情報収集をしているだけ、という認識に過ぎません。 BAUは捜査中に父親が殺させた”家族”を護るだけであって、貴方たちへの協力をするつもりはありません」
「そうそう。 桜を泣かせるなら、俺達は俺達が掴んでいる情報を全てー… 裏ルートの情報屋に売りつける。」
「お前等なんかに協力なんてしてたまるかよ。」
「私達はサラの味方であって、君達の味方ではないのでね 」
「私たちにとって桜は。」
「たった一人の娘であり」
「孫娘でもあり」
「末の妹で」
「姪っ子で」
「可愛い弟子」
「俺達は桜を護る。 組織なんかに渡したりはしねぇ」
「赤井やブラックのように泣かせるような事はしない」
「!!」
「BAUが桜を護る。死人なんぞに帰さないからそう思え!!」

その言葉にジェイムスは黙り込んだ
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