Act-11 幹部への道 前編
「そういえば、日本の彼女から聞いたんだけどさ。」
日本に帰る飛行機の搭乗時間まで時間があって、待合所のソファで珈琲を飲んでいる時に声を掛けられる。
「ン?」
「日本に帰って、今回の任務の査定がでたら、幹部に昇進するって?」
「らしいな」
「らしいな? 反応悪いなァ? お前が付き合ってる女の妹は組織のトップに入る天才科学者シェリーだろ? いいよなぁ…… つてがある奴は」
「確かにシェリーは俺が付き合ってる女の妹だが彼女の事は関係ないだろ? それに、残念ながら、俺はシェリーには避けられている…… というか、どちらかといえば嫌われているからツテにならない。」
諸星は否定する。
シェリーに好かれてないのは、明美を通じて紹介された時からだ。
明美が二人を紹介した後、会話らしい会話もなく、諸星は何度か仲良くなろうと会話を試みたが、返事はおざなりで、何か聞かれる事もない。
勿論、組織内部でしている研究の事は聞けないし、彼女に部下が何人いるのかもわからない。
緊急時の連絡先と携帯の番号は教えてくれたが、それは、明美との連絡用に用意された普通の携帯で通話記録といえば一方通行で返信はない。
そこから足がかりを調べることはできなそうだった。
警察の立合いで情報調査はできるが、その警察にも弁護士にも黒狼達が紛れ込んでいる。
何度か3人で食事をともにした事もあるが、会話らしい会話もなく、自己紹介も好きなことも明美から教えられ、彼女の口からはきいてない。
しかもよくドタキャンが入って待ち惚けを食らうことも多いのだと明美は静かに笑った。
姉である自分より、妹より5歳ほど年下の幹部であり組織が誇る歌媛でもあるディーヴァの方と仲が良いのだと聞かされた。
けれど、明美自身はディーヴァと実際あった事はなく、ランク的に会う許可も取れない
シェリーとの関わりはプライべートではほぼ皆無。
組織に深く入り込む為、仲良くしたいのは山々だが無理は禁物。
もしかしたら義理の兄妹になるかもしれないからと、一緒に食事に誘ってみても、実験が立て込んでいる、とアシスタントを通じて遠回しに断られる。
唯でさえドタキャン気味で姉妹だけの時間が取れるも少ないとなれば、任務の為とはいえ、他人の自分が乱入する事はできない。
”ごめんなさい…… 二人には仲良くなってほしいのに、志保ってば実験の合間に歌媛様と会う時間は作るのに私との時間は作ってくれないの”
そう謝って落ち込む明美に
”気にするな。 仲良くなる機会は必ず来る”
と笑って見せた。
シェリーとディーヴァ
一体どれほどの繋がりがあるのだろう?
あまりのセキュリティの固さに情報が得られない……
多少 時間をかけても、まずはシェリーの信頼を得なくては……
とはいっても、シェリーと諸星の繋がりは幹部と構成員。
仕事の都合で万一薬を使う羽目になった時の正確な使い方を教えてもらう時位しか会う事はない。
任務に向かう前の幹部候補生と構成員に事細かに講義を行う。
その時のシェリーは科学者に徹して、薬液の使用量、解毒、効果等を事細かにレクチャーしてくれる。
諸星もこの時は組織の新人に徹して、プロの説明を聞く態度を崩さないので私情は一切はさまない。
公私をわけた見事な関係。
代用薬や2種類の薬の混合などを聞けば、響くように回答をくれる。
女だから、年下の幹部の講義だと甘く見た構成人は手痛い目に合う。
諸星も業とひっかけた質問をして試してみたら平手を食らって部屋から出ていけとまで言われて、謝罪を入れた。
「噂じゃ確か、姉の特権を使って、妹に頭下げて自分の男に任務を回すように頼んでるって…… きいたけど、な」
諸星の方をチラとみてくっくっくっと笑う仲間の一人。
諸星よりも早く幹部に上がった仲間。
「上の連中に身を任せる事もしてるってのは俺も聞いた事がある。 諸星が最優先で任務がもらえるのは妹のおかげだろ? その恩恵が幹部なんだから、本部に帰ったら、礼を尽くす事だ」
「ああ…… ソレさ。 シェリーは姉があまりに五月蠅くて本部に相談したって話もでてるだろ?」
「まぁ、諸星位の腕を持ってるなら慌てなくてもそのうち、実行部隊の小隊を任せても大丈夫だろうって判断もでるだろうけどさ、自分の男を1日も早く幹部にする為に、自分の身を売って妹の7光を使うって。 彼氏思いの内助の功で羨ましいことだ」
「羨ましい?」
「宮野明美は下っ端で出世には役に立たねぇけど、その妹は美人で組織の科学者チームの中枢に立ってる。しかも実行部隊のジン様と出来てる。 お前が幹部に昇進したらジン様との仕事も夢じゃない」
「ジンとの仕事……」
「ジン様にはすでにウォッカ様っていう歩くメモリーバンクのような相棒がいるからその後釜にはなれねぇだろうけど、直属部隊に配属されたら、報酬も高くなるし、女も選び放題。さえない女より幹部の女を抱くチャンスも増える」
「恩恵なんか迷惑だな。 面倒な任務を全ておしつけらる」
「だが、女は選び放題だ。」
諸星を無視して、こそこそと話をする仲間の事は無視して、平然を装って煙草に火をつける。
「最も、あの姉妹、余り仲はよくないって聞いたぞ」
「姉の容姿は10人並で普通の大学。妹は美人で海外で大学院まで飛び級をして博士号まで取った天才少女となればなァ」
「姉妹の仲まで俺に関係があると?」
「ははっ 確かに関係ねぇよな。シェリー様と比べたら大抵の奴はレベル下だ」
「確か13で幹部になったんだよな?」
「コードネーム自体は10歳位でついたンだよ。けど、幹部にするにはまだ子供って事で大学院の卒業を待って正式な辞令が下りたんだ。しかも、一気にBランクからだ。」
「Bランク?」
「幹部にもランクがあるンだよ。最初はCランクから。 シェリー様とディーヴァ様は別格だよな。」
「ディーヴァ… 様、も13で大学を卒て幹部に?」
「歌媛は海外の有名な音大を史上最年少の成績で卒業したらしい。今は、その下に沢山の歌い手が居る」
「13で大学院? 音大?……」
「確か博士号も持ってる筈だ。薬学と化学。あと5ケ国語位は自在に操るって聞いた」
「お前さ、姉から妹に乗り換えたらどうだ?」
「……無理無理。 いくらなんでもジン様が相手じゃ脳天に風穴が空いて終わりさ」
「ジン様は、昨日<リサイタル>があって、その為に任務を一端切り上げて帰って来たんだと。」
「つったく。 ジン様のディーヴァ様に対する肩入れは半端ないよな」
「今度は歌媛は、どの位稼いだんだ?」
「さあ……? 俺は、日本にいる時はリサイタルの警備に駆り出される事が多いけど今回は任務で行けなかったからなぁ……」
「ホォー…? 俺は前回初めて警備をしたが、あの、盗聴機材の山にはあきれ果てたぞ。毎回ああなのか?」
「確かに毎回すごい事になってくからなぁ…………。警備スタッフの幹部を恋人にする友人からのメールが事実なら、今回は歌媛ギャンブルだけで2億近くはじき出したらしいぞ」
「にっ…!!」
「またすごい数値だな。前回も1億は超えたと思ったが……」
「今回、俺を含めて諸星も行けなかっただろ? 変わりに金髪の新人の幹部候補生をいれたらしい。盗聴機材の回収には抜き出たらしいが顧客にはホストと間違われて車捌きは予定の半分一寸程度で仕事にならず、次回は警備じゃなくホストに回されんじゃ無いか、とメールが来た。諸星の警備の方が仕事がスムーズだったから、次回は諸星に回すって、主任幹部が喚いていたらしいぜ」
「ははっ! 新人はご婦人方に喰われるわけだ。」
(金髪の新人……)
あの狼少年……か。
諸星は褐色の肌に金髪の少年の顔立ちをしている青年を思い出す。
「あの盗聴機材を見つけるゲームは…… 2度と御免こうむりたいと思っているんだが」
「ま、あのチーフに目を付けられたのが運の付きだ。」
「チーフ?」
「チーフもれっきとした幹部だぜ? ものすごい記憶力でな。」
「幹部だったのか」
「何しろ、ドコに犬がいるかわからないだろ? だから、狩るべき相手を見誤るなって、いつも言ってる」
「…………!」
「諸星だったら匙加減を間違わないだろうから、任せられるだろうって伝えてくれってさ。次回は30台か40台位は任せるってさー。いいねえ人気者は!」
「……おいおい…… 止めてくれ この間の倍近い車を捌くのか……」
「何にせよ、新人は上の命令を聞くもんさ!」
諸星は溜息をつく。
「ま…… 仕事とあれば仕方ないが」
彼がどこの立場にいても、俺は俺の仕事をするまでの事。
「でさ。諸星の女の話に戻るけど、昨日の<リサイタル>でホステスとして召集されたらしいぜ」
「明美がホステス?」
「付き合ってる男が幹部になるのに、自分のレベルが一番下のままじゃって、リサイタルのホステスを希望したらしいじゃないか? 暫く、ホステスとしての仕事をする事になったらしい」
「明美が? 明美はホステスには向かないと思ってたが……」
「俺の女がリサイタルでホステスとして毎回呼ばれてるから、間違い無い。 おどおどしてるのが面白いと客がついて、リサイタル後、どこぞのホテルに、お持ち帰りされたらしいな」
「……それがどうした?」
「お前、平気か?」
「お前は彼女がホステスでも平気なんだろう? ホストもホステスも警備も…… お互い、仕事さ」
「まぁそれだけ割り切れるなら、な。 俺は彼女と縛った生活してないし、俺がいない時は他の男と付き合うのも認めてる。 お互い、任務で付き合う相手とは子供を作らない、作ったら別れるってな契約でな。だからいいんだ。 諸星は次回かその次あたり、招待されるだろうな?」
「せいぜい精進するさ。 もし、仕事を回して貰うのが交換条件だというのなら、顔を潰さないように成績を上げてみせるさ」
(明美程 ホステスが似合わない女はいないと思ったんだが………… な。)
少し計画の修正を入れないと計画がダメになる
諸星はいつも泣きそうな顔をして自分を待っている明美の顔を想い浮かべた。
(俺の 仕事は……)
「…… ご搭乗のご案内を申し上げます。 日本航空成田行き16時45分発JA603便にご搭乗予定のお客様。出発カウンター8番ゲートまでお越しください。 繰り返し……」
アナウンスが始まる。
「よし、帰るか!」
仲間たちの言葉に、諸星も立ち上がった
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