Act-15 記憶
「良いか? ディーヴァに万一の事があれば、お前は命を持って償う事になる……」
「……ディーヴァの命を守りなさい…………」
インカムを通して涼やかだが居丈高な声が入る。
(何かあれば、俺たち全員にとばっちり…… いや、他の連中にも飛び火するという嚇しか)
耳に入って来る言葉に、安室は顔を強ばらせて舌打ちをする。。
小さなインカムは警備員のアシストとして支給されているのと同じタイプなので疑われる事はない。
ジンの弱点と思われる歌媛ディーヴァを手懐け、保護して、中枢に潜り込む。
そして、叩き潰して日本から追い出す。
更に、宮野エレーナの娘の1人で有る宮野志保を捜し出して助け出す。
姉である宮野明美には接触済みだが、彼女には優秀な狙撃手の彼が居て、会話をすればどう伝わるのか解らない。
此方と彼方で画策している事件が起きて、タイミング良くディーヴァを守る機会を掴み、と…… アクシデントが起こすように依頼済みだが、下手に近寄ったら彼の命が危ない
安室は頭の中で色々考える
(まさか、アレに気付いた?)
刺繍と同じ色の1p角位のモノに?
それとも歌媛ディーヴァには危険を感じ取る予知のようなものが有るのだろうか?
背中に嫌な汗が流れおちる
(気づかれたとすると下手に動けない……)
雑音も多く、ディーヴァの声も低い為、耳に入る語句は少ない。
ディーヴァの声なんだろうけれど、少し違う?
歌っている時は集中してるから音声も音域もかわるんだろうか……?
前回、偶然手にした警備の任務。
顧客にナンパされてホストではないからと、丁重にお断りして 外で待機組になった所為でディーヴァの歌声は少ししか聞けなかった。
それでも、最後に唄う <Amazing Grace> だけはホールの中でも聞けるように音響を調整してあったようで、高く細く天に抜けるような透明な声を 僕は聞いた。
♪・・・・・・・・♪
The earth shall soon dissolve like snow,
The sun forbear to shine;
But God, Who called me here below,
Will be forever mine.
When we've been there ten thousand years,
Bright shining as the sun,
We've no less days to sing God's praise
Than when we'd first begun.
♪・・・・・・・・♪
アカペラなのにホールの外まで響き渡るフレーズ。
水を打ったような静けさの中で
彼女の声は、ささくれた僕の心に昔を呼び起こした。
大好きだった保健の先生。
僕は先生を救えなかった。
僕は
貴女と出会ったから、
今
ここで頑張れる。
僕は
テニスプレーヤーには成れなかった。
でも僕は、
貴女を
ご夫婦を事故に見せかけて殺した奴らを
二人のお嬢さんからご両親を奪った奴らを
叩き潰す為に来たのだと…………
あの歌を聞いて初心に戻れた。
あれが
組織が誇る歌媛の声。
あの声に逆らえる人はいない。
噂以上の<リサイタル>
あの声を、
世界中で傷ついた心を持つ人に聴かせてあげたい。
讃美歌の赦しの歌を。
祝福の歌を。
どれ程の人を癒せる事か……
思い出すだけで涙が溢れそうになり、安室はホールの片隅に用意されたペットボトルの水を紙コップに並々と入れると、一息に飲み干して深呼吸をして頭を冷やす。
”零! 目先の事に囚われるなと何時も教えているだろう!”
”何処を見ている、 相手の動きを良く見るんだ!”
先輩がいつも言う言葉。
僕を鍛えてくれた先輩が教えてくれた。
”そっちのコンセントはトラップだ、引っかかるな!”
”そんな動きしかできなくてよくテニスの試合で優勝できていたな!?”
(警察学校をトップで卒業した僕のプライドをズタズタにした先輩)
そんな先輩を見返してやると、僕は必死になって勉強をした。
”気にするな。彼は君を勝っているんだ。 君の成績表をみて、手ずから育てさせてほしいと、上に直談判をしたんだよ”
”怒られてばっかりですが”
”零は負けず嫌いだから、褒めても伸びない。 怒って、鍛える事で強くなると、言っていた”
”―…!”
”彼は時期に潜入捜査に入る事が決まってる。”
”潜入捜査”
”その彼の後を追いかける事ができるかどうかは、君次第だよ”
(先輩)
分かってるんだ、そんな事は……
(でも、僕は奴らが許せない)
奴等が、大好きだった先生を殺した。
肌の色と髪の色で、いつもいじめられていた僕を守ってくれた先生。
僕は
先生の事をエレーナ・ママと呼んでいた
エレーナ・ママ
(先生との出会いがなかったら、僕はきっと……)
今頃は…………
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