Act-16 想出は遠く
「また喧嘩したの? 駄目よ 零君」
「だって…… だって! エレーナ・ママ! 悪いのはあいつらだよ!」
「あいつら?」
「あいつらがボクをいじめるんだ! みんなと肌の色が違う、金髪だって…」
「零君。 エレーナ・ママもこの髪の色で皆と違うでしょ?」

傷を消毒しながら呆れたように云う先生は、いつも優しかった。

「零君。その口惜しさを他の事にぶつけてごらんなさい?」
「ほかのこと?」
「お勉強でも、スポーツでもいいわ。楽器だっていい。」
「……ぼく」
「零君はとても運動神経が良いからスポーツとかやったら上手になるでしょうね? 喧嘩なんかするより、とても良い事だと思うわよ」
「ぼくが、ケンカしなかったら、エレーナ先生、うれしい?」
「ええ。とても」
「スポーツでがんばったら、うれしい?」
「スポーツでなくても応援するわ。世界中、どこにいても応援してあげる……! 」
「やくそくしてくれる?」
「ええ、約束する。」


でも、先生は…… 半年位で学校から居なくなった。
医務室で荷物を纏めているときいて、休み時間になるのを待って保健室に行った

「バイバイ、零君。 元気でね?」
「せんせい。」
「もう喧嘩はしちゃ駄目よ?」
「エレーナ・ママ…」
「約束よ? エレーナ・ママはもう、やんちゃ息子に絆創膏を貼ってあげる事ができないんだから」
「うん」


どこかの研究所から仕事のオファーがきて受けたのだと…… 後から聞いた。


それから少しして、僕は、テニスを始めた。
頑張って頑張って…… 日本代表になれる位に強くなって……
ウィンブルドンやメンフィスとかの試合で戦って、世界ランキングの選手になって有名になれば、エレーナ先生の目に留まる。
そして、優勝のインタビューで答えるんだ……

「僕にスポーツを進めてくれたエレーナ・ママのお蔭です」と。

肩を壊してテニスプレーヤーになる機会は失われたけど、テニスを通してできた沢山の友人が…… 学校で知り合った友人が励ましてくれた。
そして、先生に教えて貰った言葉が、
テニスを失って自棄になりかかった僕を救ってくれた

一度だけ見せてくれたお嬢さん達の写真。
上の子の写真は何枚もあるのに、下の子の写真は生後間もない赤ん坊の時が数枚。

そして選んだ僕の道は警察官。

此処に来るのに迷いは無かった。
公安の隠し撮りの中に入っていた先生の写真。
ボケた写真だったけど、やっと見つけた足がかり……

エレーナ先生。
僕のエレーナ・ママ

漸くたどり着いたのに 貴女はご主人と事故にあって死んでいた。
幼い姉妹をこの世に残して……


僕は
貴女と、貴女の御主人の死の真相を必ず明らかにして見せます。
出来うる事なら貴女の2人の娘さんも組織から解放してあげたい……




それが



どれだけ難しい事か分かっていても


貴女は




僕の








初恋の人なのだから…………
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