Act-20 狼狩
バスン! ドガガガ……!
着替えてロビーに出るタイミングで、ライフルの音が聞こえてライは走り出す。
(狼狩りが始まった……)
警備の仕事に戻るとはいえ、幹部としての任務になるため、ブラックジャケット着用のスーツが基本なだけに動きが鈍くなるのが解っていたため、ジャケットの前ボタンは付けていないが走りにくい。
「きゃあ〜?!」
「うわぁぁああ!?」
リサイクルの余韻に酔いしれている顧客の悲鳴
「何があった!!」
俺はホルスターに吊してある銃を取出すと外に飛び出す
攻撃目標は顧客の車
増収疑惑で逮捕目前で、組織に助けを求めて来た建設会社の社長の車。
組織の車では無く、目くらましで顧客をターゲットに選ぶが、どの車かは俺には聞かされてない。
「誰の車だ!? 客を外に出すな! 警備スタッフ、バイクで追え! 捕まえろ! GPSを忘れるな!」
「はい!」
「外に出た客はいるのか!? 被害は?!」
「<リサイタル>後のイベントが有りますから怪我人は居ませ… あ、いえ…… 運転手が何人かが軽傷…、 すでに携帯を受け取った顧客が救急車を呼んでしまったようです!」
「……仕方ない。 組織の息が掛かった病院に行くように指示を忘れるな! 誰か一人付き添え!」
「了解!」
「ディーヴァのバンを確認しろ! 顧客への攻撃に準じて硝子とか割れてたら責任問題になるぞ!」
「は ……はい!」
「歌い手達の送迎バスは!」
「隣接の美術館の駐車場なので無事です!」
ライの耳に警備スタッフたちの指示や返事が飛び交って入って来る。
そして、裏門への奇襲部隊。
選りすぐりの攻撃部隊が攪乱する。
ライの見た事のない攻撃の仕方をする一軍が便乗するように忍び込んでくる。
「警備兵! 10時方向! 誰か忍んでいるぞ! 終え! だが、殺すな! 本部に送ってドコの犬か調べなくちゃならないからな! 腕を無くす程度にしておけ!」
「承知!」
ライはここぞとばかりに声を出す。
どのセクション部隊であろうとも、容赦しない。
(俺の、今日の任務は、<リサイタル>が出来なくなるように潰す事)
「誰か! ジンにヘリで追う許可を取って来い!」
「ヘリ!?」
「ディーヴァのバンがバーストした時に代わりの護衛にヘリを呼んでいた! 屋上で待機してる筈だ! もし、借りれるならジンの配下のキャンティとコルンにヘリから狙撃援護を頼んで来い! バイクにはGPSが付いている! 襲った奴らを追える筈だっ」
「はいっ!」
(これで2人)
後はベルモットと…… ジンとウォッカ… それから金髪のボウヤ……
俺は銃に付けておいたボタンを押す。
ディーヴァのバンが燃え上がる。
「……! ディーヴァのバンがっ!」
警備の一人が叫ぶ。
「馬鹿野郎がっ! 何を見ていた!? ジンに殺されるぞっ! 消火を急げ!」
俺はディーヴァのバンの方へ行き、恕作まぎれにボタンを火の中に投げ入れれば仕込んでおいた催涙ガスが発生する。
「……運転手! 無事かっ!」
「な 何とか!」
げほげほと咳き込みながら運転手が顔に擦り傷を付けて寄って来る。
片手に火傷を負ったみたいだが、大した事はなさそうだ。
「ディーヴァ様の… 歌媛様のバンが……」
「恐らく、顧客の車に爆発物を仕掛けた時にディーヴァのバンにも仕掛けたんだろうが バーストしてたから目に付きやすかったのかもしれないな。 警備を独り付けるべきだった。」
庭の隅を横切る予想外のガスマスクを付けた部隊。
チッ!
「警備!こっちからも犬が来ている! ガスマスクみたいなのを装着してる! 逃がすな! 追え!」
俺は銃を片手に会場に戻る。
「客はっ! あと、ホステス役の女たちはっ」
「全員リサイタル会場の中に避難させました! ホスト達は客の安全を一番に躾ますから、全出口のドアの内側に待機命令を出しました! ホステス達もこちらの指示があるまで一人も出しません」
「……安全確認まで開けるなよ!」
「承知してます!」
(中には明美もいる筈だが今夜のお持ち帰りは中止になる筈。)
彼女を案じている暇はない。
彼女とて、この騒ぎは解っている。
ホストとホステスは、万一の際、顧客の命を守る誓約書を書かされる。
俺はばたばたとディーヴァの控室の方へ向かう。
「ライっ! 攻撃してきたバイク部隊は!」
「キャンティ、コルン! 襲ってきた連中は西側方面に向かった! バイク部隊が追っている! GPSを持ってる筈だからヘリなら追跡装置で十分追える! 急いでくれ!! 後、日本警察の足止めも頼む!」
「あいよっ! 任せときな!」
「俺達 全部 殺す」
キャンティとコルンが駆けて行く。
「ジン! ライです、入ります!!」
「どうした! 犬やろう共は?」
ベレッタを構えたジンが出てくる。
窓際に座る綺麗な少女。
この騒ぎにも動じていないのは何故だ?
「客の車とディーヴァのバンに爆発物が仕掛けられました! ディーヴァのバンの運転手は火傷程度で無事ですが、会場近辺は大騒動で、客の運転手に被害が出ました。 あと数分もしないで日本警察の手が回るかと。公安と思われる犬達が入り込んでます!」
「足止めは」
「日本警察はキャンティとコルンが行きがけの駄賃で止めるかと! ですが、裏ルートで顧客を脱出させたほうが安全です」
「そうか……」
ジンはディーヴァの横に立つチーフを見る
「ディーヴァを隠し扉から避難させろ。ベルモットお前も行け。 裏道に車を回して、ルート3だ。」
「OK。ディーヴァ 大丈夫よ。私達が付いているから……」
「はい…… ベルモット」
ディーヴァが声を震わせる事無く答える。
「ウォッカ」
「へい、兄貴」
「コードR作動。裏の地下通路を開けろ。 顧客を全員シュルター経路で避難させたら、此処を爆破する」
「っ!」
「了解。」
「ライ」
「はい」
「テメェはベルモットたちの後を追え。万一裏切り物を見つけた時は銃の使用の許可を与える。」
「ジンは」
「俺も直ぐ行く。ライフルを持って、な」
ニヤリと笑うジン。
ゾクリとなる背中。
「わかりました。」
カーテンの影に潜む気配。
(……たぶん、あの気配こそが)
ライは思ったがおくびにも出さずにベルモット達の後を追った。
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