Act-21 零の計画 前編
ライの姿がドアの向こうに消えるとジンは黒いカーテンについていたシールをはがす。
「どこの犬だろうなぁ…… 日本から出ていけ、というような事を云いたがるような奴は?」
聞こえているかどうかはわからないが、聞こえていたら言っている意味が解るだろう。
ジンはそう思った。
シールを指先で握り潰してベルモットが飲んでいたワインの入ったグラスの中にポチャンといれる。
「ディーヴァ……」
「ジンにぃ……」
子供用だがクッションの利いたソファで腕を抱え込むように震えているのは盗聴シールがあって声をだすな、と教えたからだ
「心配はいらねえよ、彩華」
「……!」
滅多に呼ばれない名前。
「彩華。……この中に入れ」
ガタン、と壁の中がら大きな…… 子供一人くらい入れる大きさのライフルケースを引き出すジン。
「組織の開発部が作った避難キャリーだ。ライフルの弾も止めるだけの強度がある。」
「嫌 ……怖い」
「大丈夫だ。見た目が俺のライフルケースだから会場に裏切りものがいても気づかれねぇ」
「ほん、と?」
「蓋が閉じられたら、この青いスイッチを入れろ。」
「スイッチ?」
「酸素が出るから苦しくならずに済む。姿勢はちょっと苦しいだろうが、我慢しろ」
「ぅ……」
「ディーヴァ」
「……酸素が持つのはどの位?」
「大凡、2時間。 心配いらねぇ。 これはお前の為に作らせた。体力の低下を防ぐ為に微量の睡眠ガスが最初に出るが、寝てる間にごたごたを片づけてやる」
「……目が覚めても傍にいてくれる? ご褒美、くれる?」
「いいだろう。 そん時はシェリーも傍にいるだろーぜ」
「わかった」
ディーヴァが頷く。
「いい子だ……」
ジンはテーブルの上にキャリーを置くと、小さな躰を抱き上げる。
「キスして、ジンにぃ」
キャリーケースの中に寝かせようとすると細くて小さな手が背中に回ってきた
「いきなりどうした?」
「怖 い の。 ジンにぃ と お姉ちゃまに会えなくなりそうで、怖いのぉ……」
「仕方ねぇか」
ジンは泣き出しそうな顔のディーヴァの目の上にそっとキスをする。
本来の年齢は12歳だが、心臓を刺された3つの時、冷凍睡眠装置を使って何年もかけて治療した。
起きていた時間はごく僅か。
実験を兼ねて睡眠学習をしてみれば、思った以上の効果を出した。
起きている間に知能テストをしてみれば予想以上に音感が良く一度覚えたら忘れない記憶力に聴力で医療チームを驚かせた。
ただし、体力はなく、幼児に必要な日光浴をさせれば白い肌があっという間に赤く炎症を起こして熱を出して医療スタッフをあわてさせた。
知能は大人以上に高くても心は殆ど成長をしていない。
冷凍睡眠治療で漸く、此処まで育て上げた。
ウォッカは兎も角、あのベルモットやキャンティでさえ彩華だけは可愛がる。
「大丈夫だ。彩華。俺は、お前にだけは嘘はつかねぇ。安心して眠れ……」
「でも」
「いいか? 万一お前が誘拐されたり行方不明になったりしたら、組織の全勢力を持って探して取り戻す。 お前だって、俺との連絡方法をしっているだろう」
「うん…」
「あの連絡はいつも出来る訳じゃねぇから警察にだって気づかれねぇ。お前ならわかるな?」
「ん……っ」
「いいか? 青いランプを押したら10数えて緑のボタンを押せ。 睡眠ガスが5秒流れる。緑のボタンを押したら、中からたたけ。 できるな?」
ディーヴァは頷く。
「いい子だ。」
ジンはそっと小さな躰をバックに入れる。
躰が痛くならないように真綿をふんだんに使った内装。
「痛く無いな?」
「…… 平気」
「締めるぞ。 良いな? 青いランプで緑のランプだ。」
「わかった。」
ディーヴァはランプを確認する
ゆっくりとドアが閉じられる。
そして、耳を澄ませていると、トントン、という叩く音。
ジンはニヤっと笑うとキャリーを持ち上げて軽々と背負う。
感覚的に背負われているのは解る筈だ。
(さて…… ディーヴァが目を覚ます前にここを始末して片づけをしねぇとなァ)
ついでにどこぞの犬も、だがな。
ジンはベレッタを取り出して弾倉を確認するとワイングラスを取り上げて床に落とした
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