Act-25 出会い 後編
諸星が門扉の中に飛び込むと同時に警察官がドアを閉める。
門扉は鉄で外からは見えないが、諸星は受け身から身軽に立がると開かれた玄関に向かって走る


そして、諸星が玄関に飛び込むなり玄関に待機していた仲間がドアを閉めた。

「無事でしたか!赤井さん!」
「計画は!」
「軽傷者は何人か出ましたが、幸い殉職者はでませんでした。」
「そうか……」
邸宅の中からFBIの仲間が転がるように飛び出してくると。

「子供はっ コードYだと聞いたが」
「子供…… というより幼稚園児のようですが…… 今、救命士の心臓マッサージで何とか持ち直しました……。 ですが、この騒ぎで救急車が呼べません」
「!!」

居間に入れば外から見れないように雨戸を引き、厚くカーテンも引いてある。

部屋の隅に片づけられたソファやテーブル。
そして、真ん中にベッドから引きはがしてきたらしい布団が敷かれて寝かされている、3歳位の幼児の姿が確認できる。
ピンク色だが、どう見ても似合わない大人のシャツで髪はリボンで結んだ跡も残っている

「…… 赤井さん?」
「容体は?」
「呼吸が弱くて…… それから心臓手術の痕があります。」
「そうか。 ごく微量だが、神経ガスを吸ってるかもしれない。 できれば血中濃度とか計測できればいいんだが……」
「血中濃度!?」
「”スコッチ”がな…… そう言った。睡眠ガスと神経ガスを変えて、バックに入る酸素の量も早めたらしい……」

「……そんな酷い事を!?」
「この子が、組織の歌媛。セイレーンとも称されるディーヴァだ」

赤井の言葉に一瞬の間が流れる。

「ディーヴァ!? この幼児が!?」
「スコッチが連れ出そうとした少女が歌媛・ディーヴァなのでは?」
「あの子は偽のディーヴァだ。 恐らく、万一の時の替え玉だろう。」

本人がそう言ったとは言わない。


「この子が入ってたバックと服は?」
「えっと、女性捜査官が服を全取替させて、バックと一緒に別車で移動させてます。 バックというより、ライフルケースに仕立ててありましたね。 潜入してきた車を1台”拝借”したので、今頃は東都外を移動しながら分析班が調べてる筈ですよ。 集音マイクとGPSを想定して、待機組のジャミングシステム付車両に移して車ごと分析班に手渡すのは予定通り。 外交官の引っ越し車両を借りたので日本警察のチェックも問題有りません。」
「そうか……。服とか私物みたいなモノは何もついてなければ処分するなよ?」
「え……?」
「キャリーは兎も角、この位の女の子はお気に入りの服とかハンカチとか無くなると、すぐごねるからな。」
「そうなんですか?」
「妹がそうだった。 と、言っても、妹の場合は野球のグローブとかジーパンとかだったが」
「お…… 女の子がグローブですか? 人形とか縫いぐるみじゃなくて?」
「妹は生物学上が女というだけで、性格も体系も言葉使いも男だがらな。この子みたいに女の子らしい服や人形とは縁がなかった。あいつは性別を間違って生まれてきたな」
「―……」

溜息をついた赤井の言葉にその場の捜査官たちは返すコメントに困る

「……っあ!」
「!!」

心臓の当たりを押さえて丸くなる子供。

「またか!?」
「また?」
「脈が速くなったり遅くなったり 酷い不整脈なんです。 できれば、病院に連れて行きたいんですが、ここら辺はまだ、やつらがうろちょろしてて・・」
「……っぐ」

幼児の…… ディーヴァの喉が奇妙に鳴る。

「そういえば 嘔吐は? ガスでやられたたなら、嘔吐とかの症状があった筈だな!?」
「いえ…… それはまだ……」
「なら無理にでも嘔吐させるんだ!」
「え?」

赤井の言葉に目を丸くする救命士

「もしかしたら、体力が低下して吐くだけの力がないのかしれない。」
「! でも、どうやって!」
「馬鹿か!そんな事もできないで良く救命士をやってられるな!!」
「いや、方法は解ります! ですが、心臓の手術を受けてるんですよ? 無理に吐かせたら万一って事が」
「吐かせないと嘔吐物が喉に詰まって呼吸困難でしぬかもしれないだろうが!」

赤井はジャケットを脱ぎ捨ててシャツをまくり上げると、少女の躰を抱き上げて横抱きにすると容赦なく胃の付近に刺激を与える

「赤井さんっ! 乱暴な!」
「洗面器! それから、この子の髪を邪魔にならないように結ってくれ! ついでに俺の髪もゴムか紐で縛ってくれ。冷たくない程度に濡れたタオル! 手袋を貸してくれ!」」

赤井は救命士からラテックスの手袋を受け取ると、抵抗を示す少女の躰を抱きかかえた儘器用につける。

「赤井さん! 洗面器!」
「置いといてくれ。 さて……と」

赤井は軽く、少女の背中を触り、前と後ろから押し上げる

「……っ!! あ……!!」

ディーヴァの口から嗚咽が漏れる。

「…… まだ…… ダメか? なら……」

赤井は問答無用で自分の指を少女の口に押し込んで嘔吐を即す。

「ほら! 吐くんだ! 喉に詰まったままだと苦しい儘だぞ?」
「……ぐ」
「吐け! 全部吐いてしまわないと苦しいのは君の方だ!」

赤井は胃に刺激を与えて嘔吐を即す。

「……!! ぁ……!!」

口に入れ込んだ指先に、ディーヴァの喉から出て来るモノの感覚を感じて赤井は洗面器にを近ずける。
と、幼女の口から耐えて来たものが一気に溢れて洗面器を埋めていく。

「……!!」

小さな躰にどれくらい溜め込んでいたのか、という位嘔吐して、泣いて涙目になってるディーヴァのコードネームを持つ少女は荒い呼吸を繰り返す。
手袋をした捜査員が洗面器を取り替る。
恐らく、洗面器ごと鑑識に回して使われた薬品などを調べるのだろう。
赤井はディーヴァが泣いていても容赦なく嘔吐をさせる。

どうしたらこんな状態になるんだ、と捜査員の方が顔色を無くす位、ディーヴァは嘔吐して、がくり、と赤井の躰に凭れかかった。

赤井は手袋を外すと鑑識が広げたビニールに入れて、片手で器用に首の脈を計る

「もう少し吐かせたい所だが、今はこれが限界だな。 暖かいタオルを。 嗽用に、塩を少し入れた白湯を それから肌触りのいい綿のシャツがあれば着替えを何枚か用意してくれ。 2〜3日、高熱を出す筈だ」
「はい」

用意されているホットタオルで自分の手を拭くと、それから新しいタオルで少女の口や汚れた首、胸元等を優しく拭いて行く。

「苦しくさせて悪かったな。 口の中が気持ち悪いだろ? ホラ…… 嗽をしなさい。 出来るか?」

水を少し含ませて吐かせ、また少し含ませて吐かせる。
力を失ったディーヴァは赤井が支えてないと間違いなく倒れる。

「……ちゃ……?」
「どうした? 何だ?」
「……ぃ……?」

赤井は胡坐を書いてその膝に幼女を乗せると優しく声を掛ける。

「ん? 頑張ったな……? 水を飲むか?」
「……み・ず……?」

ディーヴァの唇が小さく動く。

「赤井さん。 経口補水液を作ってあります。 レモン味で」
「なら小さなスプーンで少しずつ飲ませてやってくれ 俺はこの子を支えてるから。 一度に沢山はダメだ。喉を痛くさせてしまったからな」
「はい。」

ディーヴァはむさぼるように水を欲しがったが、それは赤井が許さなかった

「もっと飲みたいだろうが、今はそこまでだ……。 あれだけ吐いた後だから喉にも胃にも負担が掛かる…… 疲れただろうから…… 眠りなさい」

伊達に弟や妹の世話をしてきた訳じゃない。
そっと抱き上げてポンポンと安心させるように背中を撫ぜて、額や頬に沢山のキスをしてやれば、数分もしないで安定した寝息に代わる。


「流石、赤井さん」
「はん。伊達に弟妹の面倒を見て来た訳じゃないさ。 ー…… 何処か、この子が寝れる部屋は?」
「あります。 アメリカの親戚がきた時の為の客間と、子供部屋が」
「借りても?」
「勿論です。明日か明後日にはこの子は例の場所に贈り届けます。 ー……ご安心を」
「分かった。 時間があったら、様子を見に行く。ジェイムズに頼んでこの子の戸籍を用意してくれ。」
「戸籍?」
「どこの病院にせよ、国籍がなければ生活が出来ないだろう。」
「了解しました。ところでこの子の名前は? ディーヴァ……じゃ可笑しいですよね?」


「ー……そうだな……」

赤井は案内された子供部屋のベッドに少女を寝かしながら少し考える。

「この子の名前は俺も知らない。ジンなら知ってるだろうが、奴には聞けないからな。」
「と、言ってJane-Doe(名無しの女性名)で作るのも」
「そうだな…… まぁ…… 俺の好みになってしまうが桜と。」
「桜ちゃん」
「可愛い名前ですね? じゃあ、赤井桜とでもしますか?」

混ぜ返す捜査員。

「いや、俺の名前を使うのはまずいだろう。国籍をアメリカにして日米ハーフにすればいい。名字は白銀。……この子が目覚めて、名前を聞くまでは白銀桜が仮の名だ。 国籍位、局長の力を借りれば幾らでも変えられる」
「わかりました。 伝えます。」
「また連絡する。 俺の方も少しあわただしくなるだろうからな。」
「はい。」
「……桜」

赤井はそっと頭を撫ぜると頬に優しいキスをする。

「俺達が…… 君をパパとママの所に返してやるからな。 早く元気になれよ……」

そして、部屋を出れば優しい瞳は消えて捜査官の顔に戻る。

「処理場まで何分かかる?」
「……裏道使って45分…… ですかね。 先ほどの連絡では、ジンも処理場に来ると連絡が入りました」
「!! 分かった。 後、頼む」
「待って下さい、赤井さん。」
「ん?」
「この家は警備員が常駐の家なんですよ? 公にしてませんが、日本警察の車両が24時間あるんです。 警備員が待機してますから途中まで送ります。」

ウィンクをする邸宅の主

「……今度、ジェイムズに何か奢るように報告しとくよ。」
「……待ってますよ。桜ちゃんは任せて下さい。」
「……頼んだ」

赤井はジャケットを取り上げると玄関をでる。
玄関に横付けされているのはパトカーに白バイが2台。

「………凄い助っ人だな」
「組織撃退の為ですからね? 日本警察の中にFBIと密接な繋がりを持つセクションだってあるんですよ。 さ、急ぎますよ!」
「了解」

白バイとパトカーは住宅街を抜けるまでは赤色灯を鳴らさず、出るや否や超スピードで高速を飛ばした。

「便利なのか不便なのか……」

赤井から諸星に戻って呟く。

「……ここまで計画できたとしても、道半ばですからね。」
「……そうだな。あそこに潜入しているのは俺達だけじゃない。 最終的に同じ目標を目指す狼たちが沢山いる。」
「……連携が取れないのが残念です」
「仕方ない。俺達には俺たちの。 日本には日本の…… 潜入している連中たちそれぞれに思惑がある」
「……そう ですね。」
「あの組織は巨大だ。そうそう簡単につぶす事はできないだろう」
「はい……」

運転手は頷いた。

ー…… 明美

諸星は、カムフラージュの為に付き合っている女性を思った。
(時期にお前との別れがくる)
何時もいつも…… 平気な顔をして、影で悲しい顔をしているお前

妹の志保を思って、組織から抜けたがっているお前。

ー…… もし、ジンとの仕事が上手く行ったら…… 俺は、お前と妹を自由にしてやれるだろうか……?
(その時…… 俺は……? どうすればいい?)

愛情はない。
けれど、二人でいる時間が確かに暖かく優しい時間。

(残念なのは、お前の妹と…… 仲良くなれそうにないという事だ)

「赤…… じゃない、諸星さん。 あと2分程で付きます」
「了解した。 裏門が空いてる筈だ、今回は受け身をする事は出来ないから音を消してくれ」
「承知しました」
「俺が車を出たら構わず直進しろ。」
「はい」

諸星は深呼吸を一つ。
(済まない。明美。 俺は…… 男である前にFBI捜査官としての任務を優先させる。 お前との事はその後だ)

諸星は目の前に見えて来た灰色の壁に囲まれた葬儀場にカモフラージュをしている処理施設を睨み付けた。
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