Act-26 臓器移植
「(ライ、さん……!)」
裏口から忍び込むと、待っていた赤井に扮した男が駆け寄る
「(ジンは)」
「(連絡を受けて、仲間たちがこちらに直行する道で接触事故を起こして時間稼ぎに大事故にしました。。
一般人と潜入した奴らの車両を使った事故なので、調査の手はこちらには伸びないと思います)」
「(分かった。 シャワーかりるぞ!)」
「(え!?)」
「(邸宅でディーヴァが嘔吐した。 ジンは香りに敏感だ。 病院の匂いを付けないと怪しまれる)」
「了解。 なら…… シャワーの後でモルグに寄りましょう。 ホルマリンの匂いが付くので誤魔化せます」
「(……あまりお近づきになりたい場所じゃないがこの際だ。仕方ない)」
「(取り替えた服を脱衣所に置きます。10分でシャワー浴びて下さい。)」
「(了解。)」
行動は早い。
カラスの行水かという位に病院用の薬用ソープで髪と躰をシャワーで洗い流す。
そして、脱衣所で着替えるのに合わせて仲間がドライヤーでライの髪を乾かす。
「(ったく長すぎですよ!赤井さん!)」
「(悪いな…… 文句はジンにってくれ。何しろ彼を虜にしたくて伸ばしてるんだ)」
「あー…… はいはい。 全く、赤井さんに惚れらるなんて、迷惑この上も無いですね」
「俺は執念深いからな。 この手でジンを可愛がりたくてウズウズしてる。」
「怖いなぁ。全く」
二人がかりで乾かして、モルグを通り、霊安室を通り……
そして、処理室横の待機室へ入る。
「ライ…… トイレにしては”長かった”な」
「悪い。流石の俺も緊張してたらしくてな」
「お前がトイレに行ってる間にジンから連絡が入った。」
「ほぉー……? 俺が臓器移植とか云ったからコーディネータと連絡でも取ったのか?」
「らしいな。」
「今、臓器の確認をしてるが、お前、ひどく痛めつけただろ! 腎臓と角膜しか使えないと嘆いていた。せめて心臓が無傷なら高く売れたのにな……。」
「肺は?」
「肺はお前の蹴りで骨が刺さって無理だとさ」
「はっ! あの状態で手加減しろってか?」
ライは肩を竦める。
(スコッチ…… すまない。”家族”の元に返してやれなくて)
諸星は唇を噛み締める。
(貴方が、臓器移植を希望したかは、解らない。俺の独断と、偏見。 でも、移植をする事で、貴方の一部は確実に生きる。)
自己満足の世界。
組織ではスコッチの事は、直ぐ忘れられる。
だか、移植された患者は、スコッチの事を教えられなくても、移植してくれた人がいた事は忘れない。
「で、これがコーディネータから届いた候補リストだ。 ……一番高く買いそうな客は……」
「いや、臓器は一般人と同じで無償提供だ。手術費のみ負担。 提供者の家族への謝礼は組織でするから不要と」
ライが云う。
「え……?」
「考えてもみろ? 移植相手は組織の顧客。組織が動いたのは偶々<リサイタル>で事故があり、被害を受けた幹部が臓器提供のカードを所持していた…… それで十分だろう?」
「だが…… 組織に金が入らないのは……」
「顧客は、組織から離れられなくなる。 ……特にこの角膜移植を待っている少女は、10年前の3歳の時に視力を無くしてからの移植待ち。ドイツの軍用備品を大手製造しているメーカーの会長の孫娘。……そこへ、角膜提供の連絡をしたらどうだろうな?」
「……恩を売れると?」
「そうだ。 孫娘はまだ13歳…… これからの子供……」
「解った。」
医師がメモを取る。
「医療ヘリは?」
「移植の為のスタッフは本部に任せよう」
「了解した」
脳裏に、仮初めのディーヴァと、幼児の姿のディーヴァが浮かんだ。
「まさか、本気で移植に踏み切るとは思わなかったが…… なかなか根性有るじゃねぇか」
ジンは楽しそうに笑う。
「最初は樹海に捨てるか、コンクリに詰めるかと思ってました。 でも売れると言った奴等の言葉で気が変わったんですよ……」
「フン。 ま…… いい。 ライの選んだ移植待ちの患者なら、家族構成も問題ない。」
(初めてにしてはミスが無さすぎるー…… 何を考えてやがる?)
ライから受け取った移植候補者のデータをみて答えるジン。
「ありがとうございます」
「医者の連絡を受けて、組織の医療班が移植準備で手術先の病院に向かってる。患者はコーディネータの連絡を受けて、組織の関連病院で手術に備えるとさ。 腎臓移植の患者は無菌室に入って待機だ。」
「そうですか……」
「臓器を抜いた後の遺体はこの病院で焼いて、灰は捨てさせろ。……専用の業者がいるから心配ない」
「はい。 安室はどうしました?」
「安室? あの餓鬼がどうかしたか?」
「俺が腕を蹴ったので…… 折れたりしてないかと」
「ああー…… あの罅はお前蹴ったせいだったな?」
ジンは笑う。
「折れちゃいねぇよ。 ただ、本部で拘束帯を切った時に腕を押さえてて、上着を脱がしたら腫れ上がってた。 医療班に診せたら、罅が入ってたと言ってたが3週間程で治る」
「そうですか。 躾に支障がでないのなら…… 良かった」
「気にしてたのか?」
「何しろ、“商品”になる構成員で、傷を付けるなと言われましたから……… 気に成りまして」
「あの程度の罅は躾の範疇だ。」
「なら良かった」
ライは笑う
「ディーヴァの怪我は如何です? 対した事は無いと言ってましたが、女の子です。」
「あぁ…… あれはディーヴァの替え玉の1人にすぎない」
「替え玉の……1人!? じゃあ、俺がした事は骨折り損ですか?」
業とらしく溜息をつく。
「いや…… ライ、テメェは間違って居ない。 替え玉は替え玉だが、リサイタルでは、歌い手の中で一番声が良いのを立てているからな。 ディーヴァ程の音域は無いがディーヴァに継ぐ声の持主だ」
「ですが」
「それにな、テメェがスコッチを殺らなくても、生きていたら、移植出来る臓器も無い位蜂の巣にされる事をしやがった」
「意味が良く解らないのですが?」
「……直ぐに分かる。医療班に臓器の引き渡しを済ませたら本部に戻り、死人の匂いを消して、ウォッカに連絡しろ。 安室の意識が合ったら尋問に付き合わせてやる」
「はいー……」
ライはポーカーフェイスで答える。
(恐らく、俺達が助け出したディーヴァを、スコッチの仲間が拉致したと思っている筈…… 子狼には悪いが…… 誤解したままで居て貰おう)
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