Act-27 贖罪
「ジン様」

ガラガラ、と、処理室から一人の医師が姿を見せるとタブレットを見せる。

「処理データの確認をお願いします。 これが本部の医療班から届いているスコッチのデータでこれが、今処理を終わったデータです。血液型、DNA、歯型 合致しています。処理完了の為、ジン様の幹部コードと暗証番号を入れて下さい。」
「合致していて当然だな……」

ジンはタブレットのデータをざっとみる。

「いいだろう。 手術の準備に取り掛かかれ。臓器は長く持たない」
「承知いたしました。……ライ。 申請者としての君の幹部コードを入れてくれ。」
「はい。」

ライは迷わずに与えられたばかりのコードを入れる。

「では、すぐに最短ルートを確保して救急ヘリを飛ばします。 最もライからの連絡で準備の方はほぼ整っておりますが」
「……いいだろう。 ライの判断は適切だ。 惜しむらくは自白剤を打てなかった事だが、あの件はライには関係ねぇからな」

ジンは笑う。

「ライ。臓器をヘリまで運ぶのは君の役目だ。来い」
「了解しました」

ライは頷く。

(これでほんの少し……”貴方”は他の人の躰で生きられます。誰が提供者なのか、俺達が教える事はできないし、貴方の遺体を家族の元に還してあげる事は出来ませんが、いつか……  貴方の墓の前で、ディーヴァの歌を…… 赦しの歌を……)

ライは、処置室の冷たいテーブルで白い布を掛けられた男に詫びる。

(俺に出来る事…… 貴方の秘密は…… 生涯 守ります)

ライは枕元に立つと静かに手を合わせる。

(何時か…… 何時か、俺は必ず……)

「祈る必要はないだろう? ライ?」

医師が云う。

「コレにしたんじゃない。 彼から移植される手術が成功するように願っただけだ……恨みで失敗したら恩を売れなくなるからな」
「……違いない……。 オカルトだが、角膜を移植して銃で撃たれた夢なんかみるようになられたらたまらないからな」
「ー…… だろう?」

臓器の専用バックの封印を見るライの耳に室内のインターホンが聞こえて出る。

「ヘリが3台、いつでもフライングできるそうです。 移植チームも同乗したと。」
「分かった。 行くぞ」
「はい」

ライが2つのケースを持ち、医師が一つのケースとタブレットを持つ。
処置室の前にジンの姿はない。

(上手くいくと思うか、ライ?)

医師が唇だけ動かす。

(成功させます。 でなければ”彼”の死は無駄になってしまう……)
(そうだな……)

2人は、短くて長い、ヘリポートまでの通路を黙って進む。


ー…… これが 組織のやり方。


(俺は、認めない。 組織を潰す。 たとえ仲間に犠牲が出ようとも)



”大君……”



脳裏に明美の悲しそうな顔が浮かんだ。

(明美。 俺達は近いうちに分かれる事になる。 だから、俺は…… 最後に俺の事を話そう。 そして…… 君と…… 君の妹を助け出して…… できれば証人保護をかけて自由な世界へ送ってやりたい)


明美の願い。

それは
たった1人の家族である妹の志保を組織から抜け出させて、自由な世界を教える事。
姉妹で暮らす事。
年相応の学校に通わせ、恋話やくだらない話をする事

端から見れば、取るに足らない下らない出来事だが、志保は、外出時には、専任の護衛まで付く組織の科学者で幹部。
学校生活をした事も無くて、英才教育を受けた少女。
明美は下端の構成員。
組織の中で二人が共に暮らせる確率は低い。

(だが、志保が、俺達の申し出を受けてくれたら、組織を潰す事が出来る可能性が高くなる)

明美の情報レベルでは潰せない。
幹部である志保の情報量が必要だ……
そして、志保ならば、ジンを容易に呼び出せる。
ジンの持つ情報量があれば、組織に群がる蝿を捕獲して、法律の基で裁く事が出来る。

ジンの言う褒美
ミスひとつ許され無い。
狩るべき時はまだ来ない。
スコッチの死を無駄にしてはいけない




ライは脳裏に浮かんだ恋人の顔を理性で消して、目の前の事に集中した………
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