Act-29 疑惑
「ー…… 出掛けるの、大君?」

朝食の後、ジャケットと携帯、財布を持った諸星に、明美が声を掛ける。

「ー…… すまない。折角の週末に一緒にいられなくて。」

ライは申し訳為さそうに眉を下げる。

「退屈なら、シェリーに連絡して見たらどうだ? 此処暫く会って無いだろう?」
「志保はダメ。 留守電になるだけよ」
「何故?」
「……ディーヴァが組織に潜入した連中に拉致されたから ……当分は実験の結果待ち含めて調査協力に入るって……。 本当なの?」
「……明美の耳にも入ってるのか?」
「志保ってばまるで本当の妹が行方不明になったように心配してるわ。 ディーヴァとは幹部同士、とても仲がいいから…… 名立たる幹部達が総出で探してるみたいね」
「余り教えたくないんだが…… 事実だ。」

諸星は溜息を付く。

「明美もホステスとしてリサイタルに召集されたから解ってると思うが、先日の<リサイタル>で爆破騒ぎがあっただろう? 警備主任がどこかの関係者だったみたいで、そいつの関係組織がディーヴァを連れ出した。 俺は…… まさか、ディーヴァを拉致したと気がつかなくて知らずに撃ってしまって、真相が分からない。」
「殺したの?」
「可笑しいか?」
「…… いいえ……」
「関係者と思われる奴の尋問に付き合ったが、そいつはシロらしくてな。だが、再教育という事で半年、……金額によっては1年になるらしいが、ホストに降格されて、オークションにだされた。」
「オークション」
「シェリーが半年じゃ手緩いと、ジンに噛みついてたな。」

オークションに出されたら、飼い犬も同然。

ただの構成員で、才能の欠片もない自分が、オークションに出されないのは、天才科学者の両親と幼くして幹部になった妹のお陰。
親と妹の七光りで売られないだけだと、ジンのみならず、他の幹部にも言われ続けている。
定期的に提供している遺伝子がどのように研究されているのかは、考えたくもない。

「安室というんだが尋問専門医師の自白剤にもシェリーの薬にも耐えやがった。つまり犯人じゃないって事だろうな」
「志保の薬」
「ああ。 志保…… シェリーは凄いな。 男性機能が麻痺したら商品価値が下がる為、強い薬は駄目だと言われて大分弱い薬を使わされたとかでおかんむりになって、ジンが手を焼いていた。ご機嫌取りにフサエブランドのバックの一つも買ってやったかもしれないな。 シェリーが云うには普通の試作品の半分程の効果だったらしいが、それでも使われた薬の事を思えば凄い忍耐力だった。」
「……志保ってば…… そんな事まで」
「まぁ…… 同じ男としては、 少しばかり同情できる尋問ではあったが」

赤井は尋問の時を思い出したのか明美から顔を反らす。
唇を噛みしめて縛られたロープで皮膚が裂けて。
目隠しをされて、快感と苦痛に耐えきった精神。

「シェリーも随分ピリピリしてて、落ち着けと言っただけで、階級を弁えろと怒られたよ」
「ごっ…… ごめんなさい…… 大君は年上、なのに」
「仕方ないさ。俺はまだ新人幹部で、シェリーは上級幹部だからな」
「そうね。 同じ血を引く姉妹なのに…… 私は志保と大違い。 志保が居なかったら宮野の血を引いていてもとっくにオークションにだされていたわ」
「そんな事をいうんじゃない。」
「ごめんなさい」

明美はそっと目を伏せる。

「大君は狙撃手ですものね…… 裏切り者とか撃てて当然……」
「…………」
「ディーヴァの事はジン達も探してる。とりあえず、当面の間はディーヴァに次ぐ声の持ち主を変わりに教育して、影武者を立てるらしい。」
「そう」

明美は少し目を見開いて溜息を付く。

「御無事だと良いのだけれど」
「そうだな…… さて、面会時間に間に合う様にそろそろいくよ。」
「面会時間?」

諸星はうなずく。

「学生時代のダチの見舞いだ」
「お見舞い、だったの? 志保たちと調査ではなくて?」
「この間、会社で階段を踏み抜いて肋骨に罅が入ったとメールが入って、左足首を捻挫。 全治1ケ月。 全く器用なことだ」
「……そう。 お大事にね」
「伝えるよ。本当は酒を見舞にしたいが病院じゃ無理だろうかな果物はありきたりだからタブレットで使えるプリペイドカードだな。退屈しのぎで映画もダウンロードできるし、本も買えるし。―…… 場所によっては酒も………な」

諸星はくすっと笑う。

「大君ってばお見舞いにお酒なんて不謹慎よ」
「ははっ! あいつは学生時代、大酒のみだった。今でも丈夫な肝臓が自慢なんだ」
「だったら、退院の時にワインでもあげたら?」
「ー…… ワインをケースで欲しがりそうだな」

諸星の言葉に明美は苦笑する。

「行ってくる。 今日は恐らく、見舞いで合流した友人と自分のマンションに戻るからこっちにはこれない」
「分かったわ…… 行ってらっしゃい」

諸星は玄関を出ると溜め息を吐いた。

(恐らく、明美のアパートは盗聴されている。下手したら俺のマンションも盗聴されているだろうが、 疑われる様な事はしてない筈だから大丈夫だろう。念の為、計画を見直した方が良さそうだが)

量販店で、ノートパソコンで使えるWebマネーのカードを買い、序に新しいスマホやタブレットを流し見る。
視界の片隅に間抜けた新人構成員が自分を見てるが、気づかぬ振りで店を出ると病院へ向かう。

入院してるのは事実なので、調べられても問題はない。

諸星は、病院の外にある喫煙場所で煙草を1本吸うとナースセンターへ向かい入院してる病室を確認して病棟へ向かった。
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