Act-30 罠
「取り立てて怪しい所はねぇようですが……」

愛車のポルシェで盗聴マイクを通じて聞こえる会話にウォッカが云う。

「ああ…… 確かに な」
「だったら、正式に兄貴の配下の一人としていれてみたらどうです?」
「……アヤシイ所がないってのが気にいらねぇ」
「は?」
「ライは外部の人間だ。普通なら知ってる事を自慢げに話しても可笑しくはねぇ」
「ディーヴァが誘拐された事なら話してたと思いますが? ホラ、安室の尋問の時の事とかシェリーの薬の事とか替え玉の事とか……」
「あのレベルは話したうちに入らねぇよ。一部の幹部には緘口令は引いたが、ライのように一部の幹部や、下っ端の宮野明美まで噂が飛んでる。」
「明美が知ったのはシェリーからですが、口外するような馬鹿じゃねぇと思いやすがね? 万一口外したがどうなるやら…… 宮野明美が一番解ってる筈です。」
「オークションで売られるだけって事ならな……」
「両親が両親ですから高値が付きますぜ?」
「違いない、な……」

ジンは煙草を深々と喫う。

「さぁて…… どうするかな。」
「褒美で罠を仕掛けますか?」
「罠?」
「前もってホームレスを雇っておくんでさ。 待ち合わせの場所近辺で生活しろってね……」
「ホームレスは口が軽い」
「じゃ…… 構成員の父親とかどうです? それこそホストかホステスの父親を使って、”オークション対象外”にしてやるっていえば首を縦にふるんじゃありやせんか?」
「その手は使えそうだな」

ジンはウォッカのアイデアに口の端を持ち上げる。

「安室は明後日、オークションに出品される。半年を限度に高値を付けた顧客のペットとして飼われるが、そんな事位で堕ちる玉じゃねぇだろうな。アイツは」
「息を絶え絶えだったような気がしますがね?」
「お前は馬鹿か。 筋金入りのヤツなら拷問に耐えたり毒に耐性のある躰にしたりするのは簡単だ。 お前だって、ある程度の耐毒の訓練はしただろうが」
「兄貴程じゃありやせん」
「ふん。俺の真似なんて滅多なヤツにできやしないさ。」

ジンは不適に笑う。

「ま…… 2ケ月程度、やきもきさせてやるさ。 褒美をやるとは言ったが、何時やるとは云ってねぇ。 精々ライには狙撃手として組織に邪魔な奴らを撃っていて貰おう」
「なら、役に立ちそうな親だけ幾人かピックアップしておきやす」
「任せる。 まぁ…… どこの奴らがディーヴァを浚ったとしても、ディーヴァは組織の場所もメンバーも知らない。 ただ、組織に拉致されてきた子供で、何等か教育されていた可哀想な子供としか分からないだろう。」
「心臓の手術もですかい?」
「素封家の親が、組織とは知らずに最高の心臓移植手術をうけさせた、程度にしか分からないだろう。 検出される薬は実際の治療の薬ばかりだ」
「無事に育ってくれるといいんですが……」
「必至になって面倒をみるだろうよ。 救出したのが子供でその子供を死なせたら任務は失敗と見做されるだろうからな。 彩華はディーヴァとして唄った後だ。暫くは十分な休息を取らせないとロクな会話もできねぇ状態だろうからな」
「そうっすね……」
「死んだスコッチは公安の人間だった。どうやって潜入したのか、まだ分からねぇがアイツのマンションに宮野夫妻の昔の写真があった。」
「宮野夫妻の」
「ピンボケだが、な。 画像解析させたら宮野夫妻と断定された。 公安が相手なら慎重に慎重を重ねて探りを入れさせないとなぁ」
「分かりました。 兄貴専用のPCの強化をさせる手配をしておきます。」

ジンの言葉にウォッカも頷いた。
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