Act-31 地下病棟
(気配が消えた?)

後ろで付かず離れず付いてきた構成員の気配が何時の間にか消えて、赤井は病室の外を見る。

「どうした?」
「俺を追ってきた気配が消えた。」
「……確かか?」
「まぁ…… 履歴を探られても大丈夫にはなってるが…… 用心した方がいいかもしれない」
「ま…… 気配が消えたというのなら…… 今のうちに行ってこい。」
「いいのか?」
「俺の部屋を通らなければ、桜ちゃんの病室にはいけないぞ」
「ああ……」
「お前からの連絡で、窓のない…… といっても元々窓のある病室での治療なんて出来ないが、防音設備のある病室に作り替えたし、本国から心臓疾患の専門医とアレルギーと遺伝子治療の第一人者を呼んである。 ……とても特殊な病歴の子だな。」
「特殊 ……か。ー…… ジンとウォッカもそう言ったな」
「組織の連中はそれを承知か」
「あぁ……」

赤井は溜息を付く。

「それを承知で手術を受けさせ、治療を重ねてきたらしい。」
「まだ3歳…… 4歳にもなってないだろう? そんな子に心臓移植を成功させるなんて、世界中探して5本指で数えられる位じゃないか? ニュースに出てもおかしくない」
「確かにな。」
「まぁ……見事なまでな治療らしいが……。 詳しい話は自分で聞け。」
「そのつもりだよ。」

入院服の男が起き上がる。
赤井は部屋に置かれたタンスを開けると着替えをどかして足を踏み入れる。

「戻ってくる時はサインを。 面会時間は家族以外は6時までだぞ」
「了解した」

男は赤井がどかした服をタンスにしまうとベッドに戻ってタブレットをいじりだした。


(まぁ……奴らも特殊エレベーターで地下直通ってのは気づいてないだろうが)

FBI関連の息が掛かった病院だが、経営者である理事長以外はその事を知らない。

しかもこの病院を建てたのは亜米利加の財閥関係で、地下シュルターは避難通路。
出入り口は数か所あるが、理事長以外は知らず、また何時使われるかは教えられない為、記者に聴かれても問題はない。


そして、赤井はシュルターになっているエレベーターで地下6階まで降りる。
病院自体は地下3階で2階は霊安室等のあるフロアと備品室。
地下3階は職員用の駐車場と発電室を設備というのが建前だ。
上級職員専用のエレベーターからなら地下6階に行けるのだが、組織の目の可能性を考えてやめておいた。

エレベーターをでると白衣を纏った男が一人待っていた。

「赤井さん、ですか?」
「桜は?」
「ー…… 余り良くありません。心臓移植後の後遺症はありませんので普通に歩く程度なら大丈夫です。食物アレルギーは肉類や魚類等に出てますがこれは治療の薬品アレルギーみたいなものです。 日光アレルギーは報告していただいた通り、治療の後もありました。」
「治療には時間がかかりそうか?」
「そうですね…… かなり…… あ、ここです。そこの…… ポンプみたいな所を右手で握って下さい。指紋掌紋静脈認証システムです。赤井さんのは本国登録のを記録してあります」
「掌紋……」
「指紋だけだと簡単に誤魔化せますからね」

医師は説明しながら自分もポンプを握る。
と、音もなく壁がスライドをして1メートル位の隙間があいた。

「ドアが開いたら5秒以内に入って下さい。5秒以上だと催涙ガスが上から噴射されます」
「承知した」

するりと入る医師と赤井。

そして一歩入れば赤井の想像以上に広く、太陽光のような光が廊下を照らす。

「地下だとは思えない明るさだな」
「人口灯ですけどね……。 暗い場所では人は生きられませんから、リラクゼーションルームは太陽と同じ紫外線を入れてますし、植木や人工の河もありますよ」
「そうか…… で、病室は」
「こちらです。ー…… あ、ちなみに病室は滅菌ライトなので煙草はNGです。」
「仕方ない。病院だからな」
「ではこちらへ」

ザワザワとする気配の部屋に入る赤井。

部屋の片隅には硝子の壁に囲まれたベッドがあり、その中に更に女の子らしい淡いピンクのカーテンが引かれて中が覗けないように張り巡らされている。

「カーテンを開けてくれ」

医師がマイクを通して言えば中にいるマスクをしている看護師がシャーッとカーテンの一部を開く。

鼻カニュレをつけられて脳波を測定する機械にまで繋がれている少女。
小さな指先に脈拍計。
腕にも止血帯のようなものが巻かれて毛布の中から輸液の管が数本でている。

(―……!)

余りに痛々しいその姿に、赤いは目を見開いた。
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