Act-34 記憶喪失
幼児とは思えない喋り方

「桜? 」
「? 桜?? 誰の…… 事?  何で 此所に? 何が会ったの?」
「君は、誘拐されてて……  俺達が助け出した後、発作を起こして倒れて…… 今まで意識がなかったんだ。」
「発作?」
「病院に運ばれてきた時はとても危険な状態で…… 」
「発作? 何処か悪いの? 名前? 名前……は…っ」
「桜! 大丈夫だ。 ゆっくりと呼吸をするんだ。 思い出す必要はない」
「な ま え… ? わ、 わからな―…?」

医師と赤井は、やはり、という顔で頷きあう。
記憶喪失
簡単に思い付く言葉。

「大丈夫だよ。お嬢ちゃんの名前は先生達が知ってるからね? 」
「知ってる?」
「そうだな。君の名前は白銀桜だ」
「白銀  桜。 私? 桜?」
「君は桜とい言う名前だ。俺は、秀一」
「桜……? 秀一……?」

おうむ返しに答える桜


「俺は…… 仕事で忙しくて、滅多に来れないが、君がもう少し元気になったら…… アメリカに連れて行ってやるからな?」
「アメリカ…… 何故」
「此処は…… 日本には、君を誘拐した組織の連中が沢山いる。 君を探して連れ戻そうとしている。 だから、亜米利加に行って、静養しながら学校に行って友達を沢山作って遊べるようにしてやる」
「学校? ……友達?」

掠れたような声を出す桜。

「喉が渇いたか? 水を飲むか?」
「苺……」

少女の口が出る言葉に赤井は眉を寄せる
ディーヴァは果実が大好きで、特に苺が好物だった。
<リサイタル>の時に差し入れられるのは品種は様々だったが、苺が多く入っていた。

「桜ちゃんは苺が好きかい?」

医師の言葉に桜はこくんと頷く。

「ごめんね、このお部屋には苺はないんだ。 桜ちゃんがお昼寝している間に苺ミルクを買ってきてあげるから、今はお水で我慢できるかな?」
「苺が欲しい……」
「……と言ってもねぇ」
「そういえば、果物の中でも苺が一番好物だったな。 すっかり忘れてた……」

(見舞いなんだから苺の一箱も持ってくれば良かったな。 目を醒ます、とは思ってなかったし)

「あ……!」

看護師が思い出したようにポケットを探る。

「Dr。 赤井さん。 ……こんなのでも喜んで貰えるかしら?」

ポケットから出したのは苺ミルクのキャンディが2個。

「……良く持ってたな」
「そりゃあこんな仕事ですから? 喉飴やチョコはバックの中に入ってますよ。 今日持ってたのは昨日スーパーで日替わり奉仕品で安く売ってたから3袋買って病院用に1袋持ってきたんです。昨日だったら持ってませんでした。 あげてもいいなら後でロッカーに残ってるのを袋ごと持ってきます。」

はい、と赤井にキャンディを手渡す看護師。

「でも、キャンディだけだと喉乾きますから、ちゃんとお水も上げて下さいね。」
「良かったな? 桜?」

赤井は苺の絵柄のパッケージを見せる

「苺……?」
「生の苺じゃないが。苺の味だ。食べるか?」
「うん…… 欲しい」
「Dr? 上げても?」
「飴の前に少し水分を摂らせて下さい。嚥下障害を起こしたら大変ですから。 お水が飲めたら1つだけ……。点滴で補うよりも経口で飲んだ方がいいですからね」
「分かった」
「水いらない 苺がほしい」
「桜…… 我儘はダメだ。 Drのいう事はちゃんと聞いて…… 飴はその後だ」
「嫌……! 苺がいいの。」
「…… 我儘な子だな。 いいか? 君は長い事…… 半月近く意識が無かった。ちゃん水が飲めるか確認できてからだ」
「…………」

赤井の言葉に翡翠の瞳が歪んで水が浮かぶ。

「……泣いても無駄だ。 俺には、お前を助け出した以上、健康な躰にして、パパとママを探して返してやる義務がある。」
「……パパとママ?」
「……パパとママの事は覚えてないのか……」

赤井は硝子の水飲みに入った水を口元にもっていくが、ぷい、と顔を背けられる。

「……桜」

はぁ…… と溜息を吐く赤井。

「いいか? 君の躰は心臓の移植手術を受けていて、発作で倒れてから長く意識が無かった為に内臓の働きも弱ってる。 目が醒めたばかりで固形物を直ぐ食べるのは危険なんだ」
「赤井さん。 子供にそんな難しい事を云っても」
「……この子の言葉を聞いただろう。 普通の子より理解力もあって、知能も高い筈だ」
「ですが」
「……桜。 俺の言ってる事が分かるな?」

確信してるような赤井の言葉。

「……私……」
「ちゃんと水が飲めたら飴はやる。 俺が今度来る時は、苺に苺ミルク、苺のケーキも買ってきてやる。 でも、それはDrの云う事を聞いて、薬を飲んで、ちゃんと治療を受けて、ご飯も食べるという約束ができるなら…… だ」
「ごはん 嫌い」
「……ったく」

赤井はポリポリと頭をかく。

(奴らは桜にどんな食生活をさせていたんだ? 3、4歳で、辛いのとか苦いのが嫌いというならわかるんだが)

「アレルギーで食べれないものが多いのは知っている。病院だって、アレルギーの食材は出さない。それに、子供と大人の味覚は違う。」
「…… 」

赤井はそっぽを向いた儘の顔を片手でくい、と自分の方へ向ける
大人と子供の違い。

「桜?」

昔、年の離れた妹が風邪を引いた時に薬を飲むのを嫌がった時を思い出す。
ひと睨みすれば妹は直ぐに薬を飲んだが、妹の時と勝手が違う。

「怒られたいか?」
「薬 嫌い。 薬のむ位なら苺も要らない!」
「……」

薬が好きな子供は居ない。
(治療の為に、どれだけの薬を投与されていたのか)

心臓にアレルギー。
此処まで治療するのに、何回の手術を受け、薬を飲んだのか。

「そうだったな……。 拉致されてから、沢山の薬を飲まされてたんだったな…… でも、此れは、ただの水だ。薬じゃない。」

赤井は再度水飲みの吸い口を唇に当てる。

「俺を信じろ。此れは、水だ」
「……」
「疑うならペットボトルの水を買ってきて代えてやろうか?」

桜は赤井を見て、口元に当てられた吸い口から少し飲んだ。

「な? お水だろ?」
「ん……」

ただの水と理解して、桜は沢山ではないがコクコクと飲んだ。

「イイコだ…… ちゃんと飲めたな?」
「無茶をしますね。 普通は大匙子匙位で嚥下障害の検査するんですよ? でも、まぁ、吐かなかったし、いいとしましょう。 桜ちゃん、今は飴は一個だけだよ? 」
「一個だけ?」
「飴を舐めたら、また少しお水飲んで、もう一度眠りなさい。 そして、ごはんを食べたら、デザートに苺を上げよう。」
「ホント?」
「あぁ。 苺ジュースか苺ミルクかゼリーか判らないけど、苺を付けてあげるよ」
「うん!」

にこっと嬉しそうに笑う桜

「良かったな、桜?」

やっと笑顔を見せた桜に、赤井もようやく、安堵の顔を見せた。
42/74
prev  next
←歌媛哀唄