Act-36 キラキラ星
「そんな顔をするな……」

赤井は黙り込んで細かく震えている桜をみて、椅子に座ると優しい笑みを見せる

「此処は、安全だ。 だが、もし、お前が連れ戻される様な事があったら、俺が守ってやる。 ……ちょっと仕事が忙しくて寂しい想いをさせるかもしれないが……」
「…………」
「怖い事なんて思い出さない方がいいからな……」

震える小さな手を布団に中に入れようとすれば予想外に強い力で握り返され、放す事が出来ない。
赤井はあきらめてその手を握り締めたままそっと額にキスを落とす。

「俺は讃美歌なんてしらないからな……。 そうだ キラキラ星を覚えてるか?」

ふるふる、と首を横にふる少女。

「もう一度言っておく。俺は…… ”パパ”はお前と違って絶対音感なんて持ってないからな? 下手でも文句をいうんじゃないぞ?」
「うん。 唄って」

(シェリーは心配しているだろうが…… この子は組織から守ってやらないと)
パパと呼ばれてしまった事で保護欲を掻き立てられてしまったのか、後見人の積りが親の気分になっている。


♪・・・・・・・・♪


Twinkle twinkle little star
How I wonder what you are.
Up above the world so high
Like a diamond in the sky.
Twinkle twinkle little star
How I wonder what you are.



Twinkle……?

Twinkle twinkle little star
How I wonder what you are……

一度だけとまどったものの、聞いただけで正確に歌い返してくる少女。


♪・・・・・・・・♪

When the blazing sun is gone
When he nothing shines upon.
Then you show your little light
Twinkle twinkle all the night.
Twinkle twinkle little star
How I wonder what you are.


♪・・・・・・・・♪


赤井は少女が唄い終わるのを待って2番の歌詞を歌う。
一度聞いただけで確実に同じ歌詞を繰り返す見事な記憶力。

「そうだ。桜は歌が上手だな? 記憶力もとてもいい。」
「ほんと? 上手?」
「今度、俺が…… ”パパ”が今度きた時に歌ってくれるか?」
「うん! いいよ。」
「そうだ…… 独逸の民謡に Alle Vögel sind schon da という曲があって、キラキラ星に良く似たメロディなんだが……「聞きたい。唄って!」」

赤井の言葉を遮る少女。
「俺は独逸語は得意じゃないからな? 下手でも我慢しろよ?」
「うん。」


♪・・・・・・・・♪


Alle Vögel sind schon da
Alle Vögel alle!
Welch ein Singen Musiziern
Pfeifen, Zwitschern, Tiriliern!
Frühling will nun einmarschier'n
Kommt mit Sang und Schalle.

Wie sie alle lustig sind
Flink und froh sich regen!
Amsel, Drossel Fink und Star
Und die ganze Vogelschar
Wünschen dir ein frohes Jahr
Lauter Heil und Segen

Was sie uns verkünden nun
Nehmen wir zu Herzen:
Wir auch wollen lustig sein
Lustig wie die Vögelein
Hier und dort feldaus, feldein
Singen springen scherzen


♪・・・・・・・・♪


「秀パパ、すごーい。おんなじような曲なのに全く違う」
「そうか?」

昔、妹に唄ってやった時は半分仕方なくで、黙らせる為に妹の知らないドイツ語とかで歌った事が妙な所で役に立つ。
今は桜の興味を引くためにその時の記憶を披露する。
元々音楽的要素が高い少女は目をキラキラさせる。

「お前ならすぐに完璧なドイツ語で覚えてしまうさ。 これを日本語に訳したのもあるが、幾つかパターンがあってな……」

子守唄がわりが、目をきらきらさせて頬に赤味を乗せて赤井を見つめてくる。

(歌が…… 好き、なんだな。 記憶がなくても歌の事は躰が覚えている程に。 ……歌を取り上げる事はきっと出来ない。 なら…… せめて子供らしい童謡を沢山教えてやろう。)


♪・・・・・・・・♪


光れよ光れ お空のお星
高いお空に ダイヤのように
光れよ光れ お空のお星

お日さま沈み 夕方になると
光はじめて 夜どおし光る
光れよ光れ お空のお星


♪・・・・・・・・♪


医師達の姿は何時の間にか消えて、病室に流れるのは赤井が歌う低い声。
赤井が唄い、桜が唄う
震えていた手も、僅かに温もりを取り戻している。
ふ……っと歌声が切れて少女をみれば、深い眠りの世界に入っている。

「おやすみ、桜」

赤井は頬にキスを落とすと、手を布団の中にいれ、ベッドサイドのテーブルにあげていない苺飴を置くと、病室を出た。


「赤井さん」
「Dr. 桜の事は任せたぞ。 諸星大は100%ジンの信頼を得てないから、そうそう簡単に此処にはこれない。今日は、見舞いで合流する友人と合流して俺のマンションで酒盛りと連中は思ってる筈だから、帰り路は酒屋に直行だ」

親の顔からFBIの顔に戻る。

「はい。 桜ちゃんの事は私たちが守ります。」
「そうだな」
「桜ちゃんの戸籍はアメリカです。 赤ん坊を拉致するような奴等に渡したりはしません」
「桜は、組織の事は忘れていても、唄を忘れていない。 子供らしい童謡とかマザーグースのDVDとか聞かせてやってくれ。 子供らしい…… 世界中の童謡を」
「分かりました。 ……もし、讃美歌とか聞きたいと言ったら?」
「その時は構わない。 聴きたい、と言い出したものを好きな様にすきなだけ。 だが、治療に支障をきたす程聞かせるなよ? まだ熱が下がってないしな……」
「承知しました」
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