Act-37 呼び出し
「ちょっと! ライッ!! 聞いてんのかい!」
バン! と机を叩かれてライはハッとなる。
「キャンティ!? 驚かさないでくれ。 ……火薬を扱って居るんだ。」
キャンティに声を掛けられて、ライは射撃ルームでライフルを磨く手を止める。
「ジンが呼んでる。 アンタ、ジンの呼出しに出てないだろ? アタイの電話にまで掛かってきた。 ライフルのクリーニングに熱中してあの世にイってるって云ったら、1時間後にミーティングルームに来いってさ」
「……っ! すまない。つい磨く事に熱中していた」
ライは慌てて貸し与えられている携帯電話を見て溜息を吐く。
みればジンからの着信が1回とキャンティから2回。
「悪かった。 何しろコイツは俺の分身のようなものだ。 クリーニングは命を吹き込むようなものだからつい没頭していた」
「まぁ…… 気持ちはわかる。 アタイだって、コレは大切なパートナーさ。 コイツの手入れだけは たとえ”あの方”が相手であっても絶対にさせない。」
キャンディも背に掛けたライフルバックをポンポンと叩く。
「伝言は伝えたよ。 次に熱中して忘れてもアタイのせいじゃないからね!」
「承知した。 ジンには俺が謝る。 手数をかけたな」
「いいさ。 予備の弾を取りに来た次いでだからね。」
「そうか。 …… 仕事帰りか?」
「帰ってきたトコ。 一寸アメリカまで狩りに行ってた。」
「アメリカ?」
「ああ、組織に邪魔な会社の親戚をね。ロス経由でカジノに行ったらビンゴでさ! 新しいライフルが2つ位買える位儲けて来た」
「ほぉー…… 良かったじゃないか」
「ふふん。まぁーね。 じゃ、アタイはこれから帰って一眠りするから。」
「ああ…… お疲れ」
「ライはこれからだろ?」
「だといいが。」
「ジンの呼び出しだ。きっと大物を回してくれるだろーさ。あ…… でも、ジンを怒らせるンじゃないよ?」
「……どういう意味だ」
「ディーヴァの行方がまだ分からない。 シェリーのイライラはヒートアップしてモルモットの購入量は増えるし、ジンもただでさえ短気なのに一寸した事で殺人眼力をまき散らす。 あれから下っ端構成員が5〜6人処分されてる。 まぁ……下端をいくら処分しても変わりは山といるからいいけどさ」
「薬品の開発にネズミやモルモットというのはまだ納得できるが…… そんな気軽に命を?」
「シェリーもジンもディーヴァを半端なく可愛がっていたからね。アタイやコルンにとってもディーヴァは可愛い妹分さ。見つけたら眉間撃ち抜いてやる。 それに下っ端を処分して何が悪いのさ? ジンにはそれだけの権限がある。もし、アンタが裏切ったら…………」
キャンティは指で銃の形を取ってライの眉間に向け、そして撃ちぬくように上に向ける
「……こうなるだけさ。 じゃ、頑張ンな」
「―……」
ライはキャンティが居なくなるのをまって溜息を吐く。
最後の<リサイタル>から3ケ月経って、幾つか仕事をこなしているが、それでもまだ、ライの家と明美の家に取り付けられた盗聴器は外れない。
この3ケ月程であの世に送った罪のない人を思うとFBI捜査官としての心が痛む。
だが、それを押し殺して平然としてなければ、組織では生き延びる事が出来ない。
ジンの言われるまま、組織に邪魔な人を撃つ。
急所を外そうものなら疑われる。
失敗=死に直面しているのだ
「……さて、次は誰だ……?」
赤井はため息を一つ。
幸い、桜を預けた病院の地下のことは気づかれていないが、ジンたちも必死になって飛行場やらヘリポートに蜘蛛の巣のように網を貼っていて、国外へ逃がすタイミングを待っている状態。
個人ジェットを使うにしても医者や病人が同乗する、というのは別な許可が必要だ。
平均的な4歳児よりも一寸小柄だが、歯や骨の成長過程から4歳という年齢にされ、誕生日は国籍を作った時に女の子らしくと3月3日の桃の節句にしたのでそのまま押し通す事にした。
悪化こそしてないが、1日の大半を寝て過ごす。
まるで眠り姫病―…… ”クライネ・レヴィン症候群”…… ではないかと思ってしまうほどだが、大人でも体調が悪いと寝て治すという場合があるので、医師は心配する程ではないと言った。
(確りしろ! 諸星大!)
自分で自分に活を入れる。
(俺は、桜のような子を出さない為に組織にいる。 そしていつか明美と志保を組織から連れ出してそして……)
―…… そして?
ふっと思考を止める。
(桜と明美と志保と…… 俺は誰を守るんだ? 潜入する為に近づいた明美と、明美が守りたいと願っている志保の姉妹か? 俺が助け出して―…… 躊躇う事なくパパと呼んでくれた桜か……?)
煙草をとりだそうとして、クリーニング中に引火したら大事故につながるからと耐火性ロッカーにおいてきたのを思い出して何度めかの溜息を吐くとクリーニングの終わったライフルを組み立てて、隣接する射撃ルームに入ると、ヘッドホンをして無造作に構えて的に向かって無造作に撃つ。
―…… 外した!?
確実に中央を射抜く筈が素人目には分からない程度にずれた。
命中率は99.85
0コンマの差が命を守る、という事はライ自身が身を持って知っている。
息を整えてもう一度。
99.95
(クソっ! 俺とした事が)
700ヤードを軽く越して、もしオリンピックに出たらメダルでオセロが出来るとまでいわれた事を誇る筈がこの様じゃあ650がいいトコだ。
ライは何回か深呼吸を繰り返す。
熱中し過ぎて1時間をわすれない為、銃弾は6発しかいれてない。
6発目にやっと100%を出してほっと息を付く。
(…… 集中力欠如、だな……。)
後片付けをして弾薬庫から5箱取り出すと持ち出し名にサインをする。
”秀…… 秀パパ”
桜の顔が浮かんだ。
あの時、子供らしい笑顔で楽しそうに歌っていた童謡。
赤井が知ってる童謡は限られてるが、タブレットで検索して幾つか聴かせた。
独逸語だろうが、英語だろうが、すぐに覚えてしまうのは才能だろう。
♪・・・・・・・・♪
おほしさまぴかり
ぴかぴかぴかり
あちらのそらで
こちらのそらで
おほしさまぴかり
ぴかぴかぴかり
♪・・・・・・・・♪
鍛えられている音程の確かさ。
<リサイタル>で讃美歌を歌っているより童謡のようが見た目とも合うが、童謡をプロが唄っているようなもの。
体力がなくて最後はうとうとしながら聞いてるだけだったが、眠った時は満足そうな寝顔をみせていた。
(―…… )
赤井はライフルバックに付けた小さなギターのストラップを外す。
(済まない、明美。 君を裏切る事になるが、俺は、あの笑顔を守る―…… )
明美と揃いの色違いのペアストラップ。
物を増やすのは危険が増す―……
お揃いのがたった一つでいいから欲しいと強請られて、小さなギターの形の金と銀のストラップを買った。
金は明美が
銀はライが
夫々もって。
(俺は…… この組織を潰す。 そうしたら…… 君たち姉妹を証人保護でも何でもかけて人らしく生きる道を作ってやる……。明美には証人保護を…… できるなら志保には司法取引を……。志保が首を縦に振るかは解らないが年齢的に証人保護を適用でいるかもしれない…… 桜がー…… ディーヴァが俺達の方で無事に保護されて居るのを知ったら、きっと……)
ライはライフルバックを背負って、電気を消すと、ジンが待っているであろうミーティングルームに向かった。
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