Act-38 試練
「今…… 何と?」
「次の任務をクリアできたら<リサイタル>で約束した褒美をやる、と言った」
「覚えていたのか?」
ライ(諸星=赤井)は忘れるべくも無いが、ジンの方はからかっただけだと思っていた。
「忘れちゃいねぇよ。 今回の獲物は少しばかり厄介な相手でなぁ…… 組織としても訳ありなんだ。 だからな、褒美の前に狩ってこい」
ジンがニヤり、と笑った。
背中にゾクリとした感覚が走る。
トランプの様に写真が投げられ、ライは指先で受け止める。
「ー……此の家族は」
「知ってるか? アメリカ基盤の大会社。その理事長一家だが日本在中だ」
「この中の誰を?」
「全員だ、と言いてぇが、女は死ななきゃいい。 ギリギリ助かる程度で植物人間が御希望だが半身不随程度でもいいそうだ」
「全員ー……?」
「そうだ。 期限は1両日。 アシストはつかねぇ。見届け人が3名。時間計測の為、今から盗聴機とGPSを携帯して貰う。」
「依頼人と理由は」
「ノーコメント。テメェには関係がねぇ。 ただし、こいつらはFBIと密接な繋がりがあって、それを邪魔に思う奴等が居るって事だ。女を生かすのはFBIとの繋がりを後悔させる為。 こいつらは ディーヴァを拉致したスコッチとも関わりがあるみてぇだ 」
「ー…… スコッチはFBIだったと?」
「否。 日本警察ー…、公安の方だろーよ。 だが、日本警察とFBIが水面下で組んでも組織は揺るがねぇ。 それなりの手は打ってあるし金も随所にバラまいてある。」
「……そうか」
「って、事でな。新人幹部”RYE”としての腕試しをさせて貰う。テメェの技量で狩ってこい。」
(連絡のしようが無い……)
ライは唇を噛み締める
写真に移るのは、今の任務で協力してくれたオーナー一家。
その彼等の抹殺。
「その自慢のライフルでハンティングを楽しんで来い。」
「…… 狙撃場所の指定と時間は」
「無い。 だが、期限は明日の夜20時までだ。早い分には構わねぇがコンマ1秒の贈れも赦されねぇ。 GPSで行動は記録される。 宮野明美のアパートに行ってもいいが、会話は全て録音される。」
「わかった。」
「後、こいつらにはSPの護衛がつく場合もある。SPが居たらSPも殺してもいいと、あの方の仰せだ。運転手が居たら運転手もだ。」
「解った。 この一家のスケジュールを知りたい。情報室の使用許可を」
「いいだろう。 今から2時間使えるようにしてやる。だが、期限の時間延長は無い。テメェが狙撃した直後、組織の鑑識がこいつらの家を襲う。昼間であっても綺麗な花火が上がるだろーよ」
「そうか。」
(花火ー…… 火災をおこすか。近所に被害が及ばなければいいが。)
ジンがGPS付きの時計を放り投げ、ライは見事に右手でキャッチする。
「この部屋を出たら行動開始だ。…… 行け」
ライは時計を付ける。
「タイマー解除ができるのは30桁以上の暗証番号。世界中言語と数字の組み合わせだ。 解除 なんて考えるなよ? ああ、それから、そいつらのアメリカ在住の親戚連中は全員処分済だから迷う必要はねぇ。」
「処分? ……キャンティが受けた任務か?」
ジンは返事をせずにニッと口角を持ち上げて笑う。
「オードブルは食べ終わった、メインデッシュを食べるのはお前だ。 デザートの花火がでるかどうかはテメェの腕次第」
「…… 報告をまっていろ。」
「人間狩を楽しんで来るんだな」
クックックッと笑うジン。
(くそっ! どうやって教えれば助けられる? 独り…… 独りだけでも……っ)
ライは情報室に入る。
「どうぞ、ライさん。 ジン様から連絡が入ったので開けておきました。 2時間経ったら、自動的に電源オフです。 プリンターには繋がってません。メモも写メも禁止。」
「解ってる。ありがとう。」
ライは椅子に座ると、カタカタとキーボードを叩き出す。
(分かってるさ、疑う事でプレッシャーを与えてる。 俺だけじゃ無い。プレッシャーで潰れたら、此処では生きられない。)
写真にかかれた住所と名前をいれる。
「…… 此れは。」
家族構成の写真と行動のデータの中に、偶然の産物なのか、一家の主が銀色の髪の幼児を抱いて、2階から外を見てあやしている写真。
普通に見れば、祖父が孫をあやしているほのぼのとした1ショット。
見事な枝葉の樹木の写真に紛れているのを見つけたのだろう。
(1日も早く 日本から脱出させないと。彼等が病院を見つける可能性もある)
だが、今動くわけにはいかない。
”ライ”は潜入捜査官としての理性を、捨てた。
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