Act-39 May Way 後編
桜に会うだけでざわついていた心が落ち着いてくる。
「赤井さん。 リラクゼーションルームに行かれてみては?」
「リラクゼーションルーム?」
「桜ちゃんには何回かみせているんですが、夜間はプラネタリウムで星を投影しているんです。」
「ほぉー……」
「病室にいるよりおちつきますよ。桜ちゃんが寝付いたらお帰りになればいいでしょう?」
「ああ…… それは心配ない。明日は休みだからな。目をさましても一緒にいてやれる……」
「―……! ほんと?」
ぐすぐすとなってしがみ付いたままの桜が顔を上げる。
「ああ…… ホントだ。 朝も昼も一緒にいてやる」
「……!」
ぎゅっと抱き着いてくる温もり。
「―…… リラクゼーションルームで星を見るか?」
「うん! 見たい!」
ころっと涙を抑えた少女に苦笑して医師はカーディガンを着せ掛けて、毛布を渡す。
「空調は効いてますが、躰を冷やさないように。いいですね?」
「承知した。 ―…… あ、その苺、冷蔵庫にいれておいてくれ」
「分かりました。」
「苺! お約束した苺?」
「ああ。仕事が終わった時間が遅くてな…… ケーキはもう店が閉まってたから買えなかったから変わりに生の苺を沢山持ってきたぞ? よーく冷やしておいた方が美味いから、明日の朝のデザートにな?」
「うん!」
こくん、と頷いた桜は赤井の胸にぎゅっ……と顔を寄せる。
「……驚いた。 今日はずいぶんと甘えたさんだね……。」
「ホント。 いつもはクマの縫いぐるみ抱いてずっと童謡とかミュージカルとかオペラとかばっかり聞いて、笑顔も見せてくれないのに」
「―…… そうなのか?」
「えぇ。大人しい子で意志疏通も出来ますが、滅多に会話は成り立ちません。 それが、赤井さん見ただけで泣きだすわ笑うわ…… お返事はするわ……」
苦笑する医師。
「お前…… そんなに迷惑かけてるのか……」
はぁ…… と溜息を吐くと抱き上げてる少女の鼻を軽く撮んで睨み付ける。
ぷう…… と頬を膨らませる少女。
「余り迷惑をかけるなよ? ん?」
赤井は楽しそうに云いながら病室をでると前回教えて貰ったリラクゼーションルームに向かう。
リラクゼーションルームは人口的につくられた公園だが、樹が植えられて、小さな池もある。
土の感触を楽しめるようにと外履きのサンダルまでおいてある。
小さなピンクの紐靴は桜の為に買ってきたのだろう。
「……寒くないか?」
「へーき。」
「そうか。 でもカーディガンはちゃんと着てろよ?」
「うん」
靴を履かせて、大人用のサンダルに履き替えて、抱き上げようとすれば、ここで目を覚めた時は沢山の管に繋がれて起き上がる事すらできなかった子が、赤井のズボンに捕まるようにちゃんと立って行きたい方向を指さしてトコトコと階段を下りて歩きだす。
「―…… 驚いたな。歩けるようになっていたのか?」
「Drがね、今度、秀一が…… パパが、きた時に桜が一人で歩いたら喜んでくれるからって!」
にこっと笑う桜
「……歩けるのを黙って抱かれてたな?」
「……んふ!」
チロリと舌を出す桜
「……ったくやられたな。」
ポリポリと頭をかく。
「驚かせて満足したか?」
「うん! こっち! お星様が綺麗に見えるの」
子供なりのこだわりなのか桜は赤井の服をひっぱるように案内をする。
「ほぉ―…… 確かに綺麗だ。」
何処からでも綺麗なのがプラネタリウムだが、案内された場所からだと一段と綺麗な輝きに赤井は目を細める。
「おいで、桜」
「なあに?」
赤井はベンチに座ると優しく手招きをして膝の上に横抱きにのせると毛布を掛けて抱き締める。
「寒くないな?」
「うん。」
ぴとり、と顔を寄せてくる小さな躰。
(ジンやシェリーが可愛がるのは…… この温もりと愛らしさなのか? それとも歌媛としての才能なのか……)
「桜は…… お星様の話を知っているか?」
「お星様? 星座の事? 12ケ月の黄道12星座とか? 織姫とか彦星とか?」
「……まぁ…… そんな所だが。 今日は歌でなく お星さまの物語を教えてやろうか」
「うん。」
赤井は嬉しそうに頷く桜の顔をみて頬を緩ませる。
「あそこにみえるのが1等星と呼ばれて…………」
桜に話して聞かせようとタブレットで検索して覚えてきた知識。
歌ばかりでなく伝説や花の種類
ごく普通の知識を当たり前のように、赤井は話しだした。
「……パパ? 秀パパ?」
じーっと、赤井を見ていた桜が話が途切れた時に声をかける。
「ん? どうした?」
「何か、お仕事で嫌な事あった?」
「―……!」
「パパが泣いてる夢を見たの。」
「ー……っ 叶わないな。」
赤井は苦笑すると小さな躰を抱き直す。
「少し嫌な仕事をしたんだ。 お前の顔を見に来れば忘れる事が出来るかと思った。」
「私の顔を?」
「あぁ。 今の俺は、お前を守る為に、此処に居る。 早く決着を着けてお前をアメリカに連れて帰りたい。けれど、中々上手く行かなくてな」
「……パパ」
桜は小さな腕を赤井の背に回すと抱きかえす。
「何か ー……」
「ぇ?」
「何か、唄ってくれないか?」
「お歌?」
「何でもいい。 お前の歌が聴きたいんだ。 歌媛桜。」
「何でも?」
「あぁ……。 キラキラ星でも大きなふる時計でも何でもいい」
「分かった」
桜は煌くような瞳を見せて毛布から出て赤井の膝から降りると一寸離れた場所に立つ。
深呼吸を1つ。
記憶は無くても躰が覚えている深呼吸。
ゆっくりと目を瞑って、そして、開く。
場所はとわず、声さえ出ればそこがステージ。
桜の見事な声が響き渡った
♪・・・・・・・・♪
And now, the end is near;
And so I face the final curtain.
My friend, I'll say it clear,
I'll state my case, of which I'm certain.
I've lived a life that's full.
I've traveled each and ev'ry highway;
But more, much more than this,
I did it my way.
Regrets, I've had a few;
But then again, too few to mention.
I did what I had to do And saw it through without exemption.
I planned each charted course;
Each careful step along the byway,
But more, much more than this,
I did it my way.
Yes, there were times, I'm sure you knew
When I bit off more than I could chew.
But through it all, when there was doubt,
I ate it up and spit it out.
I faced it all and I stood tall;
And did it my way.
♪・・・・・・・・♪
リラクゼーションルームに幼いが澄んだ声が響き渡る。
(Frank Sinatraの My Wayか)
沢山の歌手が唄っている、名曲の1つ。
歌媛ディーヴァ。
組織でただ一人の声を武器にする幹部。
サラ
俺に、お前を護り切る事が出来るのだろうか。
明美……
俺は、此から、とても酷い事をする
♪・・・・・・・・♪
いま船出が 近づくこの時に
(船出…… 別れが近い……?)
ふとたたずみ 私は振り返る
(明美…… 俺は君を利用した)
遠く旅して 歩いた若い日よ
(俺は、やっと・・此処まで来た)
すべて心の決めたままに
(全ては正義の名の元に)
愛と涙と ほほえみに溢れ
(優しい想い、妹への涙。それでもお前は……)
いま思えば 楽しい思い出を
(俺は、お前が嫌いじゃなかった……)
君に告げよう 迷わずに行くことを
(明美には正直に 俺は迷わない)
君の心の決めたままに
(もし、俺が許せなくてジンたちに報告されたとしても)
私には愛する歌があるから
(俺には愛する子がいるから)
信じたこの道を 私は行くだけ
(俺の信じる道を)
すべては心の決めたままに
(すべては未来の為に)
♪・・・・・・・・♪
愛おしい桜
けれど、この子を守る為に、俺はお前を裏切る事になる
この子への溢れる想いは止まらない。
誰かが言った。
泣いた後は立つんだよ……
泣くという漢字は水を意味する”さんずい”に立つという字を書くのだから。
水が流かれ落ちたら、あとは立つだけ……
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