Act-40 祈り唄 前編
(パパが泣いてる)
桜には分かった。
(パパが誰かの為に泣いている)
それは優しくて悲しい想い……
(……歌ってあげる)
無意識の中で歌媛ディーヴァとしての能力が輝く。
桜は赤井の傍に近寄ると歌いだした。
固く握りしめた赤井の拳に小さな手を添えて
♪・・・・・・・・♪
What a fellowship, what a joy divine,
Leaning on the everlasting arms;
What a blessedness, what a peace is mine,
Leaning on the everlasting arms.
Leaning, leaning, safe and secure from all alarms;
Leaning, leaning, leaning on the everlasting arms.
神との交わり 神授の喜び
主の御手に頼る日は
神の祝福に 心は安らぐ
主の御手に頼る日は
身を委ねれば すべての懸念から救われる
主の御手に頼る日は
*讃美歌 聖歌503より*
♪・・・・・・・・♪
(桜…… 覚えているのか、讃美歌を?)
赤井は涙をふく事なく、少女を抱きかかえると己の胸の中に抱き締める。
歌は途切れる事が無い。
透明な声が響き渡る。
様子を見に来た医師と看護師が、靴に履き替える事を忘れ操られるように寄ってくる。
童話を唄っていた時とは違う。
人の精神を操り、慰め、浄めてしまう声。
「何て声……!」
「今までの童謡の比じゃ無いな…… 鳥肌が立ってくる」
「此がー…… 誘拐された原因でしょうか? 即日ミリオンセラーを樹立出来るような」
「全くだね。子供の目じゃない。 プロの顔というべきか……」
「動画を載せたらあっという間にダウンロードされますね」
「―…… それをやったら、殺されるぞ」
「……!」
「桜ちゃんを拉致したテロリストは、人の命をものともしない連中だそうだ。」
医師の言葉に看護師がごくんと喉を鳴らす。
♪・・・・・・・・♪
何を恐れようか
主の御手に頼る日は
神の御許で安らぎを得た私が
主の御手に頼る日は
♪・・・・・・・・♪
桜……
何時か、お前を”あの場所”に連れて行く。
そして……
歌って欲しい。
お前の歌を。
俺が奪った人たちの魂を
上の世界に導く為に……
俺は、潜入捜査官の赤井秀一。
奴等を壊滅させる為に日本に来た。
お前を護る。
そして、平和を。
祈りを
<リサイタル>がで奪った罪の無い命。
桜に罪が有るのなら、怨みは俺が引き受ける。
(明美…… お前は俺を恨むだろうか? それとも、何時もの笑顔で赦して、陰で泣くのか)
志保…… シェリーは言った。
役にたたなくても同じ血を引く姉は姉だと。
素直になれない天才科学者。
歌の女神に愛された桜
腕の中で唄う桜はセイレーンそのもの。
固く握りしめていた手は
「桜 ー……」
段々と声が小さくなる細い声。
声が途切れた時、唄い疲れた小さな歌媛は、赤井の腕の中で、寝息を立てていた
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